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逃亡者

おいでませ。玻璃です。

私が通う明倫小学校では、4年生の頃から月に1回か2回土曜日に集団下校が始まった。
土曜日の放課後、地区ごとに振り分けられた教室に集まり地区のお知らせなどを聞いて、その後グループで列になって帰っていく。

私は藍場川の近くの川島地区に引っ越ししてまだ数ヶ月で、近所に親しい友達はいなかった。
唯一近くの友達といえば同じクラスのコタキさんだが、番地の違いで集まる教室が違っていた。

初めての集団下校の日、私の地区の教室に一人で行ってみた。
そしてある忘れらない出来事が起こる。

ワイワイ ガヤガヤ

楽しそうに話している1年生から6年生までの川島地区の生徒たち。
ぐるりと眺めてみたが誰一人知っている生徒はいない。
これがマンモス校の辛いところだ。
仕方がないのでそっと席についてみた。
近くの席に3人の男子がいて、何やらこそこそと話していた。
「こいつ誰?」
「知らん」
「なんでここにおるんやろ」

クスクス クスクス

こちらを見ながらコソコソ話まで始めた。
針の筵(むしろ)に座っているような心地だ。

その後、プリントを取りに来るように言われたので立ち上がって教卓の方へ行き、並んで順番にプリントをもらう。

席に戻ってみると、私が座っていた椅子に画びょうがずらりと芸術的な形で並べられていた。
「針の筵」ならぬ「針の椅子」だ。
置いたのはあの男子達。

ゲラゲラ ゲラゲラ

そして、近くにいた女子もかばってくれることもなく、

クスクス クスクス

私はいたたまれなくなり、後ろの方の空席に移った。
その後泣きたい気持ちを必死に抑えて、ずらりと並んだ集団下校の列の一番後ろに付き、うつむきながら家路についた。

家に帰って母に話そうかと思ったが、事情があってこの家に越して来たことは子供ながらに十分にわかっていたので、とうとう言えないままだった。

そして、また恐怖の集団下校の日がやって来た。
私は決意した。
逃げる・・・逃げるしかない!

帰りの会が終わり、地区ごとの教室に行くふりをしてクラスの友達と別れた後、スッと校舎の陰に隠れる。
あたりが静かになった頃、裏門に向けて忍者のように走る。

焼却炉のそばを通った時
「どこに行くんかね?」
用務員のおじさんに声をかけられた。

「お腹が痛いので先に帰るんです。」
「気を付けて帰りなさいね」
「はい。さようなら」

そうして、お腹を押さえて裏門を出る。
その瞬間、猛ダッシュ!!
ゴジラに追いかけられてでもいるような全力疾走だ。

この逃亡がその後も何度か続いた。
だが暫くして、逃げる必要がなくなった。

「玻璃ちゃん、また引っ越しするんやけど。」
ある日、母が神妙に切り出して来た。
次はどこに引っ越すのか?
続きは次回。

ではまたお会いしましょう。

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