アル__3_

書き下ろし小説「アル」 第9話

私信になります。キャラクター設定について色々悩んでましたが、アドバイスを受けて、ちゃんとキャラクターとして生きていると納得できたので、自分の中で良かったなって。あ、それと後数回で完結しますー。

第1話はこちら

9


「おいどうした!」俺が沢田に尋ねる。
「これ……。パパとママが死んでしまう!!」
極小の通信機器を見つめ、沢田が俺の袖をぎゅっと握りしめて言った。
「パパとママの病状がヤバい状態って事か」
「そうだ」
袖を掴む手は、容易に引き剥がせそうにない。俺の身体なら動けはするが、気持ちに迷いがあった。

「何だか知らないが、助けようにもここからは」
「さ、沢田は、あんな天井の文字見えなかったし、知らなかった!」
「そんなわけ……」
いや待て。沢田は、本当に見えていなかったのかも。

あの眼鏡、よく考えたら俺達の機器と色合いが似ている。あの題字が親だとすると、この子には見せないように設定したって事か。
何かが引っ掛かる。
「ちょっと待て。確認するが、あの天井のメッセージは見えなかったんだよな」
「そうだって言ってるだろ!2人から、何も知らされてなかっ……あ、そういう事だったんだ」
「おい、何一人で納得してるん……」と俺は途中で言葉を切った。
沢田の顔がみるみる青ざめていく。小さな唇をぎゅっと噛みしめ、目を泳がせていた。

口調は生意気だが、目の前の少女は人生経験がない。
沢田は、工具のキリを爪の中に押し入れたような苦しい表情をしている。
表情から俺は、沢田が何を理解したのか分かった。
そんな顔をするのは2度目。通信機器の前で同じ顔をしていたのだ。
「……つまりだ。あの『2人死んだら、出られる』ってのは、あの娘の両親。この2人の事なんだ。あの娘の両親は……自分達の命でもって、償って終わりにするつもりなんだ……大きな事故を起こしたあの2人は」

しまった。俺も焦ってるのか言葉を選べなかった。
「そうだ」沢田は毅然としていた。涙がこぼれ落ちている。喚いても事態が進まないのはわかっているからこそ、彼女は冷静に両親を救おうと問題に果敢に立ち向かっている。
強い子だ。
この思いに答えるためにも、俺は一つの不明な点を沢田にぶつける。この点こそ、彼女の両親を救う手段になるのではと頭の片隅で感じた。

もしかすると、俺の記憶がない部分にこそ答えがあるんじゃないのか?
「すまん、ちょっと聞いてくれ。沢田ちゃんよ、どうして俺やイーがここに集められたんだ?俺の父親が金出した以外の何か共通点が……」
それに、俺達はなぜか白衣の医師(沢田の父親)に同意して、ここを入った。

どうして?
「それは同じだったから」
「同じ?……あっ」と俺は間の抜けた声を出した。
イーの病状。
病(やまい)?
繋がる物……そうか、そうだったのか。
「それはね、」と沢田が語る前に、俺は彼女を制する。
「その前にいいか?」と俺はイーの症状の疑問について話した。
「なに?」
「さっき、イーを診たんだがな……アイツ、かなり特殊な病気に罹ってないか?俺は内科医でもないので、詳しい所見は伝えられないが……あの様子。俺は知っている。もしかして、俺の専門分野なんじゃ」と、難病指定を受けていたある病名を伝える。
「……そうだ」

「沢田の両親も同じ病気か?」

続く

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