アル__3_

書き下ろし小説「アル」 第10話

今回長い……のと、前回の話しと相互性取れてるはずですが、修正の可能性もあります。

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こくりと沢田が頷いた。
「だよな、だったら俺をあの父親が呼ぶわけないか……わかった。助けるけどよ……どうやったらいいんだよ」
「えっ!?」
「だから、2人が死ななきゃここから出られないんだろ。あの両親を助けるのに、イーやお前が犠牲になれって事なのか?」
「それはその……」
「はあ……ちょっと外出る」憮然とした気持ちで俺は小屋の外に出た。

そう、沢田と話す内……たまらなく自分の命のいとおしさを感じ、失う事がたまらなく怖くなったのだ。彼女の力にはなりたいが、かっこつけられない。
命が惜しい。

沢田の必死の懇願した顔を見て思い出す。
母親がなくなる前に、必死で医師を呼んでいた時も同じ表情だったのかもしれない。

泣き崩れ、鼻水もだらだらと出ているが、目の奥には確固たる強い意思が感じられる。
「アル!!」泣きっ面の少女が俺を呼ぶ。
「なんだよ?」
「ごめん……アルを困らせたくなかった。でも、私、どうしていいかわからない。イーさんの事はわからない。でも、私は自分がどうなっても構わない」
「構うだろうがよ。自分の父親と母親だろ、大事にしろよ」
「うん。でも、パパとママは私の事憎んでる気持ちもある」
パーカーの裾をぎゅっと握り拳を作った。
「そうか」
「勉強すごく頑張って、飛び級もしたけど……天才だけど、努力したんだ。でも私の事を見てくれなくて。心の中ではずっとわかってたのに……わかりたくないって心が叫んでた。痛くて痛くてしょうがなかった」
沢田の話しを静かに聞く。俺の昔を思い出す。

火葬場の悔しい思い……握った拳。
嫌悪の念で支配されようと。俺は必死になって勉強した。親の期待通りに。
そうか、沢田になにか見覚えがあったとするなら。
俺は気付かれないように舌打ちをした。

そう、アイツは行動や考え方が昔の俺にそっくりだった。

「なあ、でもお前は両親が好きなのか?」俺は質問した。
「……うん、生活を一緒にし始めてから、沢田に優しくて……すごく良くしてくれたんだ。アルの事もよくわかる、その部分は何とも言えないけど……アルのお父さん、私にも良くしてくれたし、きっと仲直りしたいんだと思う」
「どうしてそう思う?」

「天才だから」沢田は自信満々に言った。

「はいはい、聞いた俺が馬鹿だった」
「天才だから!アルにこう言ったらわかるはず。だって、似た者を持ってるから。アレ、ぎゅってしてるだろ!」

そうかと、沢田の立場になって初めて分かった。
父親の背中を引っ張る俺。
父親の気配を感じて、ほくそ笑んで机に向かって勉強する俺。
間違いなく自己嫌悪と憤怒の情でどうにかなりそうにながら。

同時に、見られている事が救われているように感じた。
愛を感じもした。
過去の俺を思い出した。そうだ、俺は……。
「お前達、一体何を言ってるんだ……死ぬだの生きるだの」と、しわがれた老父が現れた。

「イー。お前大丈夫か?」
「特効薬として期待された新薬が、難病を生み出した。そういう事故だった。そうだ、思い出した。私は地方の旅行代理店に勤めていた。あの夫婦は得意先で、夫の方は私の年の離れた友人だ。私の伝手を使って、娘を海外へ渡航させたかったらしい」
「おい待て。姫乃の両親にだって事情はあっただろ?」
「姫乃……沢田姫乃……まさかあの子の!?」
「ん?よくわからないが。なら、助ける」
「アル、どうして!?」イーは狼狽えている。
「見殺しにしたら、お前に余計な重荷を背負わせるだろ。背負うものなんて少ない方がいい」
目の前の老人は泣いていた。目頭を抑え、俯く。何に対して感涙してるのかは、わからない。


そうして、俺は沢田の両親を救う事になった。

ただ、どうやって……誰かが死なないとここから出られない。1人は死ぬつもりだ。

もし沢田と俺がここで死んだとしたら、イーは出られる。

さてさて、一体このどうにもならない状態でいかにして脱出できるのか。

生か死か。なにか……。
「ぐはっ!!」
「おい、イー!!しっかりしろ」
「イーさんも、まずいのかも」沢田は涙を流していた。
ちくしょう。俺は一体……頭皮を引きちぎるような力で後頭部をかく。
くそ……誰かが死なないと出られない。

死なないと……あっ。
「どうした、アル」
「イー、沢田、俺は決めた」
俺は一呼吸おき、大きな声で言った。


「沢田の両親を殺す」

続く

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