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朗読可能な小説12 「史上最強転生勇者の受難」

最近過去作投下したばかりですが、また投下していきます。写真はPicNos!さんからです。

規約


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本編 「史上最強転生勇者の受難」 所要時間 約12分程

くれぐれも、転生した暁には、史上最強になるなんて願わない事だ。


チートにしてくれも同義だ。軽はずみにそんな言葉を口にしたら……どうなるかわかるだろう。

俺の体験談を話そう。そして、話し終えた後で、俺は旅に出るんだが……理由は最後まで読めばわかる。

※※※※※※※※※※※※※

1

俺は中学卒業して半年ニートをしていた。

親から金をたかって、コンビニと家でパソやっている毎日。


時間を無為にし続ける生活が、つまらなすぎて死にたくなっていたある日、自宅へ帰る途中運送トラックにひかれた。

後ろからいきなりだったから、即死もいい所。


でも、痛みなかったんだぜ。それだけでなんかお得感あったりしないか。


次に目を覚ました瞬間、明らかに異世界のチュートリアルをしてくれるような素敵空間に大の字になって寝っころがっていた。

「起きなさい、マエダタカシさん……マエダタカシかもしれない人」と、いつの間にか白銀の露出度高めなローブを着た、スタイルのいい超絶美少女があらわれる。


なぜか、右手に白髪ねぎ持ってるのがわけわからんかったが。


「かもしれなくもねぇよ、合ってるよ。ここは一体?」

「不幸にもトラックでひかれて死んだ方を、異世界に転生させたり生まれ変わらせたりする、そんな素敵空間かも」


一瞬カチンとくる表現、どうもありがとう。だから、かもってなんなんだよ。

どこにも風が吹いてないのに、ローブが揺れ胸元がチラチラ見える。

ゲームで見たような亜麻色の髪に、パンのシール集めて手に入る陶器みたいにすべすべしたもち肌。抑え目なとび色の瞳。

わりぃな、庶民派でよ。うまい例えが思い浮かばん。

とにかく、ニートには刺激が強すぎる。


「異世界?」

「ええ、異世界ローナでは魔王アルファによって、大規模な虐殺が起こっている……かもです。その関係かもしれませんが、現在人が足らないのです。バランス調整のため、魔王アルファを討伐して欲しいかも。あ、もちろん、タダではないかも」

えっ、なにかも言わないと死んじゃう病気にでもかかってるの?

ちょっとして、カモにネギだからとかですか。

どうでもいい、さっさと俺を最強にして、異世界ローナとやらで、無双&酒池肉林ライフでも始めるか。


「願い事が一つ叶うんだろ。だったら、願いは一つ、俺を史上最強にしてくれ」

関係ないが、どうして魔王倒すとか魔王倒せる機械とか兵器って、俺含む転生者は願わないのかな。

まあいいか。


「どうして、それを……もう願いいっちゃっ」


「能書きはいい。早く異世界へ送ってくれ」
「あっ、ちょ……もう知らないかも」プクーとふくれっ面する女神。可愛い。


こうして俺は女神からまばゆい閃光を受け、再び意識を失った。

「あっ!やべぇ、今日週刊少年マンデーの発売日じゃん」

って、もう俺異世界転生しちゃったし。

はずかしい、いくら楽しみにしてると言っても声出して言うのは……メッチャ照れる。

日々の習慣で二度寝した後、聞き覚えのある声に起こされる。

「マエダさーん。タカシさんかもしれない人」


えっ、さっきの女神。


あれ、俺宇宙(そら)に浮かんでる……はぁ、宇宙!?


なんか光る膜みたいなものに女神と俺が包まれてる。


「タカシだよ。タカシタカシ言われると、クソババァのこと思い出すからやめろ」

まあ、ババァやクソオヤジには、俺にかけてた学資保険でうはうはやってほしい……向こうのトラックの過失100%だし、保険も全額降りるだろう。

親孝行できんかったからな。

「では、チャンたかさん。私的にはどうでもいいですが、チャンたかにはディフィカルトな問題があるかも」


「業界人でもないぞ、俺は。なんだよ、問題って……てか、ローナはどこなの?この宇宙みたいなのがローナなの」

「ローナは先ほど滅びました」

「はあ?どうして」

「あなたの大声で、星ごとローナはなくなりました」

2

えっ、なくなった?


何を言ってるんだ、この目の前の美少女でかも連呼女は。

「嘘だろ」

「からのー」

「真面目に答えてくれ」

「本当かも。だってタカシさん、今史上最強になってるんですよ。大声で星壊すくらいわけないかも」

幾分か、潤んだ瞳で女神は俺を見つめる。

動悸が止まらない。


冗談じゃない、チョット起き抜けに声出しただけで異世界が滅ぶだと。


ふざけるのもいい加減にしろ。

「そ、そうだっ。魔王なんちゃらはどうしたんだよ?いくらチート使っても多少は、俺の声にだってなんらかしらの対応を」


「タカシさん……10分以内に仮に地球が全壊するとして、たかだか世界で一番強い者が、星を完全に修復したり元どおりにできるとお思いですか。それは、ちょっと難しい問題かも」

女神は、人差し指でバッテンマークを作る。

マジかよ。本当にローナがなくなったとしたら、ローナにいた生命は全て死んだことになる。動植物・人間・多分魔族とかRPG出てきそうな人種。

みんな死んでしまったのか。


……ふざけろよ。


生命なんてもう、失って取り返しがつかない……

あれっ、と俺は転生前後の記憶を呼び覚ます。


確か、形は変わるけど死んだ命をべつな世界に飛ばしたり出来る奴、近くにいないっけ。

俺はある考えを持って、目の前の、ネギ臭い美女の肩に手をかける。

なぜか、美女は絶句していた。尚、俺のツラについての言及はやめてもらいたい。


ニートに、容姿のことを人一倍気にしつつ、頓着しない人種だからな。後は、察してくれ。メンタル壊れちまう。


「なあ、お願いだ。女神さん、頼みがある。ローナを元に戻せないか」

「敗者は従わざるを得ませんかも。では、今からタカシさんの大声という名の、地獄のラッパを吹いてくる前の世界に戻します」


あー、よかった。見た目華奢な体格の女の子に、助けてもらえるとは思わなかった。

「あ、でもローナ外で粉砕した惑星30個については、修復できませんかも」


空いた口はまだまだ塞がってくれない。

「嘘だな」

頭おかしくなり過ぎて、俺は現実逃避する。


「どうしてわかったのかも……やっぱり私より強いからかも。まだ名乗ってなくてごめんなさい、私はノコ・ミースって言います。名乗ったからには……あの……その……かも」


なんか、勝手に納得され、急に猫なで声で甘えてくるようにノコは言う。

「何が嘘かは知らないが、とりあえずノコお願いだ」


「は、はいっ」すごい笑顔でお願いを待ってる。一体どうした、この女神は。

「元に戻せ。ローナも、惑星も俺の願いも」


で、異世界ローナは平和に、魔王アルファ主導の大虐殺が続いており、惑星も元に戻ったらしい。


ただ、俺は相変わらずノコと膜の中にいる。


なんじゃこりゃあ!

配役的に俺はジーパンじゃなくて、マイコンなんじゃねーのか。

思わず太陽に向かって吠えたくなっちまった。


変化はあった。ノコが、赤面しながら俺のそばにすり寄って体を引っ付けてくる。

肘に胸の感触が……と喜びたいのに、喜べない。

「おい、ノコ」


「どうしましたか、前のつく名字なのに出席番号が後ろの方の、カッコいいタカシさん」

「お前に、前川・前原・前野姓の苦悩がわかるか。というか、指摘されるまで気にもしなかったわ」

「気にしてなかったら、苦悩もされてないのかも」

「その通りだよ、しゃらくせえよ。ノコ、俺はなぜまだこんな狭い場所でお前と一緒にいなきゃならんのだ」

「タカシさんが、史上最強だからですよ」


「願いは元に戻ったんじゃ」

「願いだけはさかのぼって戻せないんです。いくら最強でもルールはルールなので。いや、戻せるけども、史上最強になってしまったから戻せないのかも?」

「意味わからん。ノコ、ちゃんと説明してくれ」


喜色満面で語る美少女ノコとは反対に、俺は血の気が引き目の前が真っ暗になりそうになった。

ノコがおほんと、解説キャラよろしく説明する。
「願いを叶える力というのは、向上心がないと使用できないんです。向上心、それはもっと楽したい、もっと偉くなりたい、強くなりたい、もっともっとモテたい、とかかもです」


「俺の知ってる向上心とは、意味合いが違うんだが」

「そうですか、でもタカシさんはトラックで死んでしまうまでに日々を生きてたかも?」

「そこはかもじゃない。普通に生きてたよ、なにもせず世間からそっぽ向いてたけど」俺はそう反論した。

「タカシさんの記録見ましたが、向上してましたよ。ジェスチャーでコンビニの商品買っていた体たらくだったのが、死ぬ3日前はたどたどしいながらも、声に出して店員さんにポテチとマンデー渡してたじゃないですか」

「そんなもの向上なんて」

ノコは今までの様子とは異なり、淡々と子供をあやすように俺に語りかける。
「向上です。例えその店員がセミロングの美少女で、あいさつから仲良くなってむふふな関係に持ち込もうという、犯罪者丸出しの行動だったとしても」

「おいやめろ、ノコ」

「年下の子にマンマキャッキャッパイパイチュッチュッって言わせたいとか。控えめに言わなくても気持ち悪いよ。タカシママのでも吸ってなって思ったかも」

「おいやめろ、ノコ」

「しかも、女の子はお母さん似だったんですよねえ……へえ」

「殺せよー!!もう一思いにやってくれよー」

「言い過ぎましたよ、私はドン引きしてますけど。んー、見る角度が違うと言いますか……私も願いを叶える前はタカシさんと似たようなものでしたかも?」

「どういうことだ?」


「タカシさん、あなたが史上最強になる前、私が最強だったんです。今は、史上2番目くらいになっちゃいましたけど」

「まさか……ノコ、お前も転生者なのか?」


ノコは俺の腕を離し、正面から見据えて言った。
「ええ。ずっとずっと昔、タカシさんとは別の世界からですけど」

ノコの話しは続く。

「私、転生する前はいじめられっ子でした。毎日が辛くて辛くて、何度も親に話したくなったけど、言えませんでした。

悲しませたくなくて、両親の泣いてる顔なんて見たくなくて。


そんなある日風邪を引いてしまって……ずっと治らなければいじめっ子のいる学校に通わなくていいのに、と思ってたら……いつのまにか死んでいました。

あの空間に着いて、今の私みたいな案内人さんに親の様子を雲の上から見せてもらって……本当に後悔しました。


だって、一番してほしくない悲しい顔をしていたから。私の亡骸の傍らで。


私は、案内人さんに宇宙最強になりたいと願いました。もう、どんな相手にも屈したくなかったから。

宇宙一強かったので、かろうじてあなたの行動を特製の結界を形成することで、破壊を抑えてるんです。

ただ、異世界に行く直前で案内人さんが引退してしまったので、代わりにここで案内役をやっています。宇宙より強い、史上最強がくるのはびっくりしましたかも」


長い話だったが、俺は聞き入ってしまった。ああ、そういえば、風邪引いた時に、ネギを首に巻けばいいって聞いた事あったな。……だから、ネギ持ってたのか、コイツは。死んだ時を忘れないようにって。

なんかさぁ、俺も……親のことを思い出してしまった。

ごめんな、金とかじゃないんだよな。先に死んじゃって、親不孝者だ、俺の大馬鹿。

しくしくと、史上最強の俺は泣く。

ひとしきり泣き止むと、タイミングよくノコが解決法を提示する。よく見ると、ノコも泣いていた。


「タカシさん、願いは元には戻せませんけど無効にはできます。あなたの願いである、史上最強。この宇宙なら最強でも、宇宙の外、外宇宙のまた外。

果ての果てを越えた先なら、誰も史上には記載も、存在すら感知してないはず。

つまり、未知の世界ならあなたを越える存在も必ずいます」

「どうしてノコが知ってるんだ?」

「昔、史上最賢のファザ……お父さん思いな賢者に聞いたことがありまして」

史上最賢っていうなら、俺と同じ転生者だろう。
ノコの言ってる事は正解なのかもしれない。その賢者も道連れ……一緒についてきてもらおう。

「話しの腰を折った。続けてくれ」

「そうなると、あなたの願いのつじつまが合わなくなり、あなたの願いは無効になります。


ああ、私は有効期限が切れたので無効にはなりませんが」

「期限は?」

「5年ですね。中途半端なクーリングオフ期間ですよね」

「おう、やるしかないみたいだな」

「タカシさん、あなたが行こうと思えばいつでも外宇宙へ出発可能ですよ。私達の冒険の始まりですよ」
最後の方、ノコは楽しそうに語る。というか、ついてくる気満々。

「案内役はどうするんだよ?」

「既に後任の子と交代しました。じゃないと、タカシさんとつきっきりになれませんよ」

思いきりよすぎだろ。そうか、この子もさっきまで最強だったんだよな。行動力高いのも納得した。


ああ、そうだな。面倒な事になっちまって、これから先だるいけど。


「ノコ……いろいろあったが、まあその……」


「はい?」


「一緒に行こうぜ。まだ見ぬ未知の世界へ!」


「はい!」と、ノコは特大の笑みで返し、俺に抱きついた。


※※※※※※※※※※※※

こうして、史上最強の俺の冒険譚が始まるんだが……その話しは別な機会に話るとするよ。


とにかく、教訓として願いが叶う機会があるなら、史上最強とかは願わない方がいい。


かなり苦労する……が、今にして思うと悪くないって思うな。


それじゃあ、またなボーズ。

晩飯のねぎ料理、食べにいかねえと。

えっ、嘘話でも、自分が暮らしている世界のローナが破壊されたとかやめてだって?

しょうがないだろ、本当の話しなんだから。


だって、世に言う神話って大体そんなもんだろう?

なあ?

(了)

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