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【ノベライズ】駄菓子屋をテーマにした短編小説

こんばんは。
はれのです。
連続投稿も本日でひと段落します。多分。
今回の短編は『ノベライズ』という手法を取らせてもらってます。
いつもは共同制作者の熊右衛門さんから原案やプロットを頂き、はれのが執筆する工程になっていますが……今回は詳細なプロットを頂いたのと、熊右衛門さんの文章を生かしたいと考え、

・熊右衛門さんの原文をなるべく残す
・補足として、駄菓子屋についての説明文を入れる

という方針にした結果、ノベライズにしようと決めました。(熊右衛門さんにお伝え済み)
今回の短編、実在の店舗がモデルになってるので、興味ある方は下記リンクへGOです!

表紙の画像はこちらのサイトから

共同制作者 熊右衛門さん

本編


今年もまた夏が終わり、秋を迎えつつある、そんなある日。
「そろそろ、かき氷の幟をしまうかな」
「店長さん、かき氷四つちょうだいな」
元気のいい子供達の声が小さな駄菓子屋に響く。
駄菓子屋の店主であるオヤジは微笑む。
「やあ、いらっしゃい。キミ達は今年最後のお客さんだ、好きなお菓子をひとつサービスしてあげよう。」
「やった!店長さんありがとー!」
「そうだ、奥にあるゲーム遊んでいい?」
丸坊主の少年が店内奥にある筐体を指差す。
少年は白いタンクトップを着ていて、動くたび胸部がぶるぶると揺れていた。
「いいよ、1回100円だ」

「あざーっす!」
今日はいつもの学生さん達が筐体……アイツの相手らしい。
駄菓子屋は、元は子供向けに菓子や玩具の販売が目的に始められた個人商店だ。
設立の過程ははっきりとわかっていない。江戸時代には飴売りや風車売りなど、類似の商品を取り扱った記録が残っている。
明治・大正時代の文学作品にも登場していることから、大衆……とりわけ子供達には今も昔も馴染みのある存在となっている。営業時間も日の出から日没までが主である。
しかし、件の店のように軽食や文具の販売も行っていた。
駄菓子屋が店主宅の居間と障子一枚挟んだ形態で運営されている例もあるため、日によっては19時まで営業していた事もあった。
余談であるが。
neo-geoが流行った当初、筐体はメーカーより貸し出されていた。
駄菓子屋で格闘ゲームを行うと言う、一見ピンとこない現象も1990年代初期では実在していた。
尚、ここの店主は筐体の新規タイトルには目もくれず、すこし旧来のタイトルで運営していた。
この店は当初軽食を販売していた所に、子供が集まり駄菓子を始めたという経緯があった。
筐体設置やソフトについても当時最先端の駄菓子屋に比べると見劣りがした。
ただ、子供達にはそんな事情は関係なく、ただただ毎日が楽しかった。

しかし、彼等を見ると思い出すなぁ。
そう言えば、アイツを店にいれてからどれくらい経っただろう。
俺が中学の時に、ばあちゃんと親父が少しでも売り上げになればって入れたんだっけ…。
まあ、結局は友人達の溜まり場になっちまって親父は渋い顔をしてたなあ。
でも、おばあちゃんは、内緒でかき氷やお好み焼きをご馳走してくれたっけ…

「それ!竜巻旋風脚」
「あちゃ~、やられた~!!」
アイツの前に子供達がわらわらと囲んでいる。

駄菓子屋の奥のゲームコーナーはいつも俺達の遊び場だった。ゲームコーナーの近くにレジがあって、焼きそばやお好み焼きなどの軽食を作る厨房も隣接していた。あの焼きそばの味は、あそこだけの好物だった。
ーー俺達があの子供達と同じ位の年ーー
やっぱり、今くらいに暑かった。
でも、駄菓子屋へ向かう
「お待たせ、タコ焼き3つにお好み焼き2つね。」
「おばちゃん、あざーっす!」
「ゆっくり遊んで行きなさいね」
気の置けない仲間と過ごす時間、それはいつも続くと思っていた。

でも、あれから大学に行って、就職してからは忙しくてなかなかここに帰れなかったなあ、
仕事を覚えて行くにつれて、負うべき責任も増えて、振り返る余裕もなかったのかも知れない。

でもそんなある日、凶報が舞い込む。
おばあちゃんが倒れた。
そう聞いて、岳士は今までの事を振り返る。中堅化成品メーカーの資材担当として、着実にキャリアを積み重ねてきた。今離れたら…もう後には引けない。
でも、それ以上に岳士には店が終わらせたくない気持ちでいっぱいだった。
会社へのわがままになる。恩義もある。
ただ、それ以上に自分を育ててくれた祖母の城を守りたいのだ。両親が育児放棄気味で、一時死にかけもした。そんな時に、べっこう飴を分け与えて寝食や一部学費の免除もした祖母への返せない恩義が優(まさ)った。

入院していた
祖母へのわがまま。
岳士はつぶやいた。
「俺は思いっきりばあちゃんにわがまま言うんだ」

「岳士、本当にいいのかい?」
「ああ、おばあちゃんの店は俺が守ってみせる、だから、安心して」
「ありがとうよ、岳士」
おばあちゃんを見送ってからは、勤め先に辞表を出し、店を守る為にがむしゃら に働いた。
お菓子の仕入れや、店で出していた軽食の再現、そして筐体のメンテ、そして引き取り手を探し
ていた新たな筐体の入手…
勤め人の時より大変な事も多いが、思い出の店を守れている、その喜びの方が遥かに大きい。
「やあ、来たよー」
思い出に耽っていたらアイツらが来たらしい。
「久しぶりだな、今日は何して遊んでく?」
「いつもの(タコ焼き3つにお好み焼き2つ」、あっ、ついでにイチゴのかき氷も頼むわ」
「あいよ、任しとき」
夜遅く、いつもの店のいつもの場所で歓談する男たち。
電光灯の回りに蛾がチラチラと群がっている。
昔置き忘れてきたワクワクが戻る。
そうだ。まだ終わってない。
この店での俺たちの青春はまだまだ続くのだ。


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