【超短小説】年雄と今年

今年も終わる。

早いなぁーと年雄は思う。

毎年思っている気がする。

高校生の頃、駅で酔っ払いを介抱した事がある。

水を飲ませて、タクシーに乗せた。

酔っ払いは「ありがとう」とお礼を言ってきたので、「気にすんなよ」と生意気に返した。

酔っ払いは「1年間を実感できるのは、学生の時だけだ。大事に過ごせよ」と言ってタクシーを走らせた。

年雄は「酔っ払いが何言ってんだよ」と遠くに行ったタクシーにつぶやいた。

今ならあの時の酔っ払いが言った事が少し分かる気がする。

社会人になってからの1年は、あっという間に過ぎる。

今年は特に早かった気もする。

本当に同じ時間の中で過ごしたのか、疑いたくなるほどだ。

あの時と今の違いは何だろうか。

年雄の中では、何となく分かっている。

社会人になってから、1日を"こなす"ように時間を使っているからだと。

今年が終わってすぐ"今年"が始まる。

浜本年雄40歳。

今年1年ありがとう。

来年の"今年"、よろしく。

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