【超短小説】年雄と皿洗い

会社の先輩の友達の後輩が居酒屋を始めた。

らしい。

年雄にとっては、知らない人。

他人だ。

でも、週末の忙しい時間帯の2時間だけ皿洗いのバイトを誘われた。

人が足りないらしい。

時給も普通。

2時間程度なら稼ぎにもならないほど。

断る。・・・だろうね。普通なら。

でも年雄は受けた。

何故か?

年雄は誰にも言った事はないが、皿洗いが好きだ。

ただ黙々とやる作業が好きだ。

黙々とやる作業の中に、綺麗になるという達成感がある。

年雄は皿洗いが好きだ。

2時間。ただひたすらに皿を洗う。洗っても洗っても減らない洗い物。

年雄はそれに燃える。

黙々とやる作業。

しかし年雄の心の中では「おりゃーーー!!」と叫んでいる。

2時間なんてあっという間。

「年雄さん、時間なんで上がってください」と言われて「じゃあここまでやったらそうします」と5分ほど作業を奢る。

「本当に助かりました!」と褒められても呑んで帰れるほどのお金は貰えない。

でもいい。

だって好きだから。

年雄にとって、皿洗いは仕事と趣味の間のようなものなのだ。

浜本年雄40歳。

残念なのは、好きな仕事はお金にならない事くらいさ。

みんな好きだからかな。

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