【超短小説】年雄と器

年雄は母親に「器の大きい男になれ」と言われて育った。
言われたと言う事は、小さく思ったからだろう。

年雄は中学に上がる頃、毎日イライラしていた。
学校に行く度、誰かと喧嘩して帰ってきた。
そんな年雄に母親は「器の大きい男になれ」と言った。

「小さな事で腹を立てるな。大体の事は笑って過ごせ」

今、年雄は仕事に行く為、自転車を漕いでいる。
その前を、2人乗りした若いカップルが走っている。
狭い道でフラフラしなが走っているせいで、追い越しもできない。

イライラする・・・が、器の大きい男は怒りはしない。
ブレーキを掛けてみたり、喉を鳴らしてみたり"後ろにいますよ"と冷静にアピール。

カップルは気付かない。

ベルを鳴らしてもいいが、角が立ちそうなのでそれはしない。

年雄は優しく「すみません。通ります」と声をかけた。

前のカップルは自転車を止めた。

年雄は通りすがりに、ペコっと頭を下げた。

その年雄に向かって、カップルの男が「うるせーな。黙って通れよ」と呟いた。

彼女の前で強い所を見せたかったのかな?
器の小さい男め。

年雄はニコニコしながら追い越した。
だが、体が勝手にブレーキをかけた。

「てめぇがフラフラ走ってっからだろうが!」と怒鳴る手前でグッとこらえた。
器の小さな男と思われる手前だった。
"ふぅ"と深呼吸する年雄。

その年雄にカップルの男が「なんだよ。どけよ」と言ってきた。

年雄はアゴが外れそうなくらい口を開けて「カァー」とカラスの様に鳴いた。

見たか!若造!
これが俺とお前の器の違いだ!

浜本年雄40歳。

器の大きさって具体的になんだろう?と思う朝の出来事だった。

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