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私の好きな短歌連作5篇(と入りきらなかったのを思いつくだけ)

短歌は基本的に一首で作品が完結するものですが、私は連作という形式で作品を読むのも好きです。
連作はざっくりいうと、数首〜数十首の短歌の並びを構成して一つの作品とする形式です。何かしらのストーリーが展開するものもあれば、あるテーマのもとで一つの世界観を作り上げるものもあります。

有名な一首も連作で読むと違った印象を受けることがあり、新たな一面を発見したような気持ちになります。(一首屹立派からみるとそういうブレは良しとされないかと思いますが)

前置きが長くなりましたが、自分の好きな連作の話がしたくなったので5篇紹介します。

「生存について」 小池光

棒切れにすぎないものを処理しつつ妻の不機嫌を怖れたであらう

坂井修一さんの『ここからはじめる短歌入門』の「連作をつくる」という章で紹介されていました。短歌を始めて初期の頃に読み、連作という形式をはっきり意識したのがこの作品です。日本の中年男性という立場から、強制収容所でガス室の大量虐殺に関わったナチ党員の生活を思いながら、生とは何かを問う構成になっています。全12首のうち、掲出歌のような結句「であらう」の5首のたたみかけに当時は惹きつけられたのですが、今読むと「ナチ」という難しいモチーフを最後の3首によって「生」への問いにまとめていく力を感じます。

連作は歌集『廃駅』に収録。(現代短歌文庫『小池光歌集』でも読めます)

「大観覧車」 内山晶太

父の息この世のいずこにもあらぬこと凄し父の息に会いたし

肺癌と診断された父が亡くなるまでの一連。日記のような詞書がところどころに入っています。日常生活と詩の言葉がなめらかに接続していった先に世界の質感を変えていく内山さんの作品がすごく好きなのですが、状況の記述と詩情、感傷と客観視のバランスに心を持っていかれます。肉親の死を詠むこと、「外出」に掲載されたのが2020年5月で、時勢的にもある意味重たいテーマを背負うような作品だったと思うのですが、読み応えがありました。

連作は同人誌『外出』三号に収録。「短歌研究」2017年6月号掲載作品の完全版(とのこと)。

「夏樫の素描」 米川千嘉子

〈女は大地〉かかる矜恃のつまらなさ昼さくら湯はさやさやと澄み

連作に収められている短歌一首一首がもう強い、強いというのは一首の強度がしっかりしていてこちらに迫ってくるということなのですが。ストーリーが展開するというよりも、相聞歌(恋愛の短歌)でまとめられている構成です。私は「生存について」から連作に入ったので、テーマでまとめるとこんな感じになるんだなあと思いました。このタイプはある意味自由度が高くなる一方で、作品の落とし所?をどう持っていくかを考えるのが難しそうだなと思います。歌数があることで浮かび上がってくる主体(語りの視点を担う人)のスタンスというか生命力にグッとくる。

連作は歌集『夏空の櫂』に収録。第31回角川短歌賞受賞作品。

「Place to be」 川野里子

母死なすことを決めたるわがあたま気づけば母が撫でてゐるなり

最初読んだとき、震えた。母の死を看取る一連です。母の延命治療を断ったり、そういった決断にまつわる疲労が綴られていたり、状況としては切迫したものが感じられます。子にとって親は親であり、親にとって子は子であることをどこか感じながら、死への向き合い方を描き出す凄みがあります。

死をテーマにするとき、ドラマティックになりやすいと思うのですが、でもそういうドラマのために人の死があるわけではないんですよね。その上で、死に向き合って作品をまとめあげるすごさを思います。

連作から話が逸れますが、この時期の結社誌に掲載されていた川野さんの月詠もすごく好きでした。

連作は歌集『歓待』に収録。初出は角川「短歌」2018年4月号。第55回短歌研究賞受賞作品。

「いのち」 岩田怜武

自転車を押す間だけ空くサドルでも、ああ、そうか、そうでもないか

初めて読んだとき、はー、こんなに上手くていい歌を作る人がいるのかと思いました(ほあ〜って息を吐いた)。あのときの軽い衝撃は今も覚えています。
タイトルの「いのち」は連作の内容としては「生命」って感じで、切実さというよりも思索の余韻が色濃い作品です。モチーフも詩情をしっかり含んだものが多いですが、言葉の持つ詩情にただ寄りかかるのではなく、自分の表現に落とし込んでる感じが良(よ)です。

「歌壇」2019年2月号掲載。第30回歌壇賞候補作品。

感想

ここまで書くと自分の好み丸出しだなあ、という気持ちになってきました。語彙力が圧倒的に低下しとる。ちょっと恥ずかしい。好きな一首をあげる機会はたくさんあるけど、連作だとあんまりない気がするので書けてよかったです。皆さんも好きな連作あったら教えてください。

+入りきらなかったのを思いつくだけ

連作、いっぱいあるので思いついたものを以下に順不同であげます。(上記5篇もそうですが、今回は基本的に歌集などで読めるものを中心に選びました)

花山周子「長い脚 短い脚 走る脚」(「外出」創刊号)、永井祐「12首もある!」(『広い世界と2や8や7』)、山階基「長い合宿」(『風にあたる』)、大森静佳「サルヒ」(『カミーユ』)、斉藤斎藤「棺、「棺」」(『人の道、死ぬと町』)、島田修三「桜咲くころ」(『秋隣小曲集』)、𠮷田恭大「わたしと鈴木たちのほとり」(『光と死語』)、多賀盛剛「夏」(「あみもの第八号」)

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