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短読① ラヴレターを書架に列なるテキストへはさめたり 暗渠のかたくなさ

はじめに

一首目は、西鎮さんの歌です。ご投稿ありがとうございました。並んでいる名詞のイメージをどのように立ち上げて、歌の空間を掘り下げていくかを考えました。どうぞよろしくお願いします。

まず読んで思ったこと

ラヴレターを書架に列なるテキストへはさめたり 暗渠のかたくなさ

西鎮「覆面短歌倶楽部其の十九」

 最初にこの歌を読んだときになんか不思議な歌、ちょっと難しい歌だなって思いました。〈はさめたり〉なんですけど、最初「はさみたり」じゃないのかなと思って調べたら下二段活用があるっていうのが分かったので、〈はさめたり〉でいいんだなーって把握をしています。
 歌を読んでいったときに、名詞の、言葉のイメージで読ませてゆく歌なのかなとは思っていて。ラブレター・書架・連なる・テキスト・挟んだ、ということなんですけど、ラブレターっていうのがまず手紙っていうのがあって、次に書架、書架は図書館のイメージですかね、大きい本棚想像させる。そこに連なるようにしてテキストすなわち本っていうのがわーっと並んでいて、その一冊にこのラブレターを挟んだっていうことが、まず〈ラブレターから挟めたり〉まで書かれているのかなって思いました。
 今、私は「本のページの間にラブレターを挟んだ」ってイメージでいたんですけど、もしかしたら本と本の間、並んでいる本と本の間に差し込んだっていうこともちょっと考えられるかもしれないなーっては思いました。
 その図書館ぽい景色が描かれていて、一字あいて〈暗渠のかたくなさ〉っていうところに来るんですけど、これが結構難しいなあって感じがするんですよね 。
 暗渠っていうのを一応調べた時に、「『暗渠』とは、地下に埋設した水路のこと。 暗溝とも言い、ふたをして分からないようにしている水路も暗渠と呼ぶ」と書かれていて、要は「水面が見えないようになっている水路」のことを言うらしいんですよね。
 ってことは、基本的に暗渠っていうものは閉じられているものなわけで、その閉じられているものがすごいかたくなに閉じられている、っていうところが一つ、イメージがポンと置かれるわけですよね。この閉じているものが何か、っていうのが結構踏み込んで読む必要があって思っていて。水路って壁が横に立っていて、そこに水が流れていくイメージなので、なんか本棚と本棚の間に挟まれている感覚っていうのに近いのかなということはまず考えたんですけど。それでも蓋(をされていて)、水面は見えないわけだから、じゃあどっちかって言うとこの暗渠の
かたくなさは感情的なものに影響している、表現しているのかなって思いました。
 でもこのラブレターを挟むことの動機・目的っていうのが描かれてないので、結局何のためにこれをしていて、結局それでどういう気持ちになったのかっていうところが全体的にぼやかされている、言及されてない。この歌自体が一つかたくなに、一つ世界の中に閉じて行くような感覚を思いました。明かされない恋の心っていうところが一つ提示されてるのかなって思っています。

さらに読む

 短歌を読む上で大事になってくることは、書かれた言葉からどうやって状況や心情を捉えていくかだとよく思います。短歌は短いので、一度読んですぐ意味がわかるものもあれば、そうでないものもあります。今回の作品では、名詞を手がかりに解釈を考えていきました。
 まず上の句(5・7・5の部分)を読んだとき、「はさむ」を四段活用で考えていたので「〈はさめたり〉だっけ?」と思いました。ちゃんと調べたところ、どちらの活用も他動詞で、意味にあまり差異はないことがわかりました。辞書には下二段活用のほうに「間に置く」という意味があったので、そのニュアンスを反映されているのだろうと考えました。そうすると、初読の「ラブレターを本のページにはさむ」のではなく、「本と本の間に差し込む」ほうが意図としては近そうです。ただ〈テキスト〉という語彙は書かれたものを指すので、字面や文章が印字されたページのことを思い起こさせるなあとも思います。
 また上の句を見ると、手元にあるラブレターから、書架に並ぶ本の列という空間に視線がスライドし、〈はさめたり〉によってもう一度手元に視線が戻ってくるような動きになっているとも思います。この近・遠・近の視線のスライドによって、一つの空間が立ち上がってくる感じがしてきますね。
 ここまでを読み、この歌の言わんとすることを捉えていくには、上の句の状況を踏まえた上で、下の句(7・7の部分)へのつながりを考えることになると思います。上の句では直接言われはしないものの、ラブレターを挟んだ人には本と本の間に挟む目的や理由が確かにあるのでしょう。でも、〈暗渠のかたくなさ〉というざっくりとした言葉によって匂わされているにとどまるので、この細部までは描写されていない状況を、むしろ読者側が想像し補うことで歌の味わいが成立するような気がします(想像するためのとっかかりをつかめない場合は、ここに漂う閉じられた空気感に乗れるか乗れないかという感じ)。
 少し話が戻りますが、「暗渠は、臭いが出てしまっては生活に問題がある場合や、外部から何かが混入するのを防ぐために使われる」そうなので、自分のうちに抱えてはいるけれど漏らしてはいけない、そういう恋模様や恋愛関係があるように思いました。それで今ようやく一つのシーンが思い浮かんだのですが、本と本の間に挟むのは、ある意味交換日記のようというか、外には明かせない関係性や状況での秘密のやりとり(通信)でもあるのかなあ。そういう閉じられた恋のニュアンス。また「はさめたり(挟んだ=完了)」なので、すでに完結してしまって閉じられた記憶のワンシーンを、そっと胸に留めることに重きが置かれているような気もします。

参考リンク
はさむ:https://kobun.weblio.jp/content/%E6%8C%9F%E3%82%80
暗渠:暗渠 - 建築用語 - 東建コーポレーション

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