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短読⑩ 初夜に浮くデジタル時計の薄ぼけたみどりを頼りに蟻の門渡る

はじめに

十首目は、貧血気味なもすきーとさんの歌です。ご投稿ありがとうございました。性愛の歌をどう掘り下げるかについて考えました。どうぞよろしくお願いします。

初夜に浮くデジタル時計の薄ぼけたみどりを頼りに蟻の門渡る

貧血気味なもすきーと
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まず読んで思ったこと

 この短歌を読んだときに、〈初夜〉と〈蟻の門渡る〉という言葉から性愛の短歌かなと思いました。
 わたしがこの短歌を読んだときに一番気になったのが、「この人は目が悪いんかな」ということが気になりました。なんでかっていうと、〈デジタル時計の薄ぼけた緑〉という表現があるんですけど、デジタル時計って夜になると緑色の明かりがつくタイプの時計があるなーって思うんですけど。その光が薄ぼけているわけですよね。目悪い人って、結構光がぼやけるとばぁっとなる(広がる)んだけど、その感覚みたいなのがここにあるのかなと思いました。暗いと目が慣れなくてよく見えないってことがあると思うんですけど、でもだんだん慣れてくるとその輪郭って掴めてきたりするんじゃないかなあって思うんですよね。でもこういう緑の明かりを頼りにしようとしてる感じ、結局目が悪いと暗くて(目が慣れて)も全体的によく見えないんで、なんか明かりを頼りにしてることがひとつ歌のなかにあるのかなと思いました。
 この頼りなさっていうのは、歌のぎこちなさみたいなことにもつながっていて、〈初夜〉ってあるから(初夜=)結婚初夜であると考えたときに、結婚してる相手の人と結婚して初めての営みがあって、なんかそこの距離感の妙に詰め切れてなさをすごい感じるんですよね。でも近づきたいっていう気持ちが同時にあるような感覚っていうのを思っています。
 この歌のなかである意味神秘的なところではあるんですけど、〈蟻の門渡る〉っていう言葉が結構難しくて。基本的には「蟻の門渡り」っていう言葉からできて出てきてるのかなーって思うんですけど、「蟻の門渡り」で一単語だからここを〈蟻の門渡る〉にするとちょっと造語になると思うんですよね。そういう「蟻の門渡り」っていう部位に何かしら作用、働きかけがあるっていうふうにそれをぼかしていることで一つのロマンティックな、ロマンチック?、見えそうで見えない感じが歌の中に出てくるので、ぼかしの効果というのがひとつあるのかなーって思いました。

さらに読む

 投稿企画は何度かやっているのですが、性愛がテーマの作品は初めて扱うように思います。確かに性愛の歌に評をもらえる機会って、そういう場が用意されていないとあんまりないのかもしれません。念のため〈蟻の門渡る〉という語に別の意味があるのかいろいろ調べてはみました。その結果「蟻の門渡り」は夏の季語として「 蟻が列を作ってはっていること。蟻の熊野参り」という意味があることが分かったのですが、どうにもこの歌にはマッチしないなあと思ったので、身体の部位「蟻の門渡り」の動詞化として歌を読み進めています。
 それで〈蟻の門渡る〉となった場合、「蟻の門渡り」が一語で一つの名詞だと考えると「蟻の門+渡る」という語構成ではなくて「蟻の門渡る」で一語になると思うので、「蟻の門渡りに触れる」とかその部位にこちらからの働きかけがあるというようなニュアンスでとることになるのかなと思います。身も蓋もないことを言えば最終的には挿入って話になるんだと思いますが、この言葉を経由させることで作品のムードを作っているのかなと思いました。
 それで、この作品の面白いところなんですが、この歌は現在形で書かれていながら、多分過去について詠まれた歌ではないかと思いました。少し偏見も入っていますが〈デジタル時計〉って多分もうそんなに新しいアイテムではないと思うんですね。そこに少し前の世代の感じが出ていると思う(今はスマホで時間確認することが多いのではないか)。今現在からは離れた〈初夜〉のあの頃を思い返したときに、あんなだったなぐらいの距離感がある。音声でうまくしゃべれなかったのですが、結婚するってことはある程度のお付き合いを経ていると思ったので、今さらどこかぎこちなくて戸惑いのある距離感なのかなというのを考えたときに、初夜ということを意識してしまう感じもこの歌の人のロマンみたいなものがありそうだなと思っています。

参考サイト
蟻の門渡り:https://onl.sc/C43MqCg

企画趣旨はこちらから

https://note.com/harecono/n/n744d4c605855


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