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短読⑧ 秋雨のさむざむしさをあたためるリンガーハットのオレンジの窓

はじめに

八首目は、ひりんずさんの歌です。ご投稿ありがとうございました。一首に出てくる逆のイメージを持つような言葉の取り合わせから掘り下げていきました。どうぞよろしくお願いします。

秋雨のさむざむしさをあたためるリンガーハットのオレンジの窓

ひりんず

まず読んで思ったこと

 この歌を読んだときに、まず〈秋雨〉っていうものと〈リンガーハット〉の組み合わせが面白いなーって思いました。〈秋雨〉っていうのは叙情があるもの、和歌とかにも出てきそうな趣のあるものだというイメージがあるんですけど。一方で、〈リンガーハット〉っていうのは現代的な、現代社会の物っていうもの(イメージ)があって、組み合わせが極端なものが一首の中に出てきているなーって思いました。それを考えたときに、ここの温度感の逆転みたいなものが歌のなかでは読まれてるなーって思っていて。この叙情的な、趣があるものっていうのは、一般的に温かいものだったりとか味わいが出てきそうなものと捉えられたりする。一方で現代的なものって、無機質で冷たいイメージのものっていう扱いをされたりすると思うんですけど、ここでは〈秋雨〉が寒々しいもので、〈リンガーハットのオレンジの窓〉っていうのが温める温度のあるものって描かれてるのが、この歌の特徴的なところかなって思いました。
 さらに見ていったときに、この温めているもの、〈さむざむしさをあたためる〉ってあるんですけど、この温めているものっていうのが〈窓〉なんですよね。正確に言うと、〈リンガーハットのオレンジの窓〉で、リンガーハットって多分室内灯がオレンジっぽい、黄色っぽい明かりなんだと思うんですけど、それがこう窓から外に漏れ出していくことで温めるっていう風になるから、実際的には光が温めてるのかなって思う。でもここでの着目は〈窓〉になっていて、窓って本来温度を持たないから温めるものではないと思うんですけど、その言い方がちょっと面白いなーって思いました。
 この歌の中で気になったのが、〈さむざむしさ〉っていう言葉なんですけど。温める、寒々しいって思っているものは何なんだろう、誰がそう思ったんだろうみたいなことを、私は心情に寄せて考えてしまうので、一個それが疑問だったんですけど。でもここで言われてるのは、どっちかって言うと空間的な話だよなーっていうことを改めて思いました。〈さむざむしさ〉って名詞で書かれているので、そこの秋雨が降っているなかで、リンガーハットのオレンジの窓が温度感を持って立ち上がっていくことっていうのが、この歌の中では大事な部分なんだろうなって思っています。

さらに読む

 最初歌を読んだときは、ある景色をみてそこから立ち上がるこの人の思い、のようなものを想定したのですが、むしろ描かれているのはオレンジの光によって温かく包まれていく空間と、直接的には言及されないけれどこの空間を見つけたときのこの歌の人の心が少しほぐれたかのような心の動きに読みが至りました。
 雨が降っているときって薄暗いし、季節が秋冬だと日も短く気温も低いので、秋雨が冷ややかであり、そのなかで窓を通過してもれ出るオレンジの光がその場の空気までも温めているかのような感覚は、かなり共感しやすいものではないかと思いました。そのときに自分の心もちょっとほぐれたような感じがする。ただ、歌ではあくまでも〈さむざむしさ〉と〈リンガーハットのオレンジの窓〉の対比なので、語り手の心まで踏み込むのは少しズレた読みになるのかもしれません。
 短歌を作る上で、ひとつ難しいなと思うことが「何まで書いて、何を書かないのか」ということです。たとえば、秋雨といわれると細い感じの雨粒で、うっすら寒々しくてさびしげなイメージが思い浮かびます。だから〈さむざむしさ〉まで言葉を尽くさなくても「寒々しさ」を伝えることはできるのではないか。と言うのは簡単なんですが、実際にやってみるとこれがかなり難しいことで、書かずに書くって本当に大変なことだなあと思いました。
 また表記が〈さむざむしさ〉〈あたためる〉とひらがなになっているのですが、個人的には漢字でもあまり違和感はないように思いました。ひらがなにすると、やわらかなイメージを持たれやすいといった効果があるので、そこを意図しているのかな。

参考サイト
・リンガーハット:https://www.izumi.jp/tenpo/omuta/shop/food/ringerhat

企画趣旨はこちらから

https://note.com/harecono/n/n744d4c605855


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