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短読③ 乳ボーロ、マルボロ、ボロボロ落ちる音止まない雨と山積みの服

はじめに

三首目は、梅雨すみれさんの歌です。ご投稿ありがとうございました。音の連なりからどんなイメージに着地しているのか考えました。どうぞよろしくお願いします。

まず読んで思ったこと

乳ボーロ、マルボロ、ボロボロ落ちる音止まない雨と山積みの服

梅雨すみれ

 この歌を読んだときに、音の連なりと名詞の羅列によって展開していく歌だなーと思いました。最初は、乳ボーロ・マルボロ・ボロボロ落ちる音、っていう音のつながりがまずあると思うんですけど、その後、止まない雨・山積みの服ってなっていって、名詞を羅列していく場合、イメージの遠いものを羅列してどんどん膨らませていくっていう方法とそんなに遠くないものを並べていって一つイメージを作り上げていく方向っていうのがあると思うんですけど、これは後者にあたるのかなって思いました。
 〈乳ボーロ〉はあのお菓子ですね、卵ボーロっても呼ばれたりするのかな。粒の小さいお菓子があって、その後に〈マルボロ〉、マルボロは多分タバコのことだと思うんですけど、っていうのがまず「ボロ」のつながりで並べられる。この二つはちょっと遠いようで、その乳ボーロが丸いから、その後にマルボロってくるのが意外と馴染むなぁっていうところが一つ面白かったなと。
 乳ボーロも粒が小さいのでこぼすとばーって広がっていくような、音を立てて広がっていくような感じと、マルボロはあのタバコが燃えて灰になっていくときに、ボロボロ灰が落ちてしまう感じっていうのがあるので、ここの〈ボロボロ落ちる〉っていうところに割とスムーズに繋がっていくのかなって思いました。
 その〈ボロボロ落ちる音〉から(音つながりで)〈止まない雨〉っていうものが引っ張って来られて、きっとすごい大粒の大きい音がする雨なんだろうなって思ってます。雨が降るからこそ、洗濯物が干せないで(山積みになって)溜まり続けている感じっていうのがあって、なんか雰囲気としては全体的に暗くてちょっと鬱屈した感じみたいなものを思わされました。

さらに読む

 これは余談ですが、〈乳ボーロ〉はあたりまえだのクラッカーで有名な大阪前田製菓の商品らしいです(詳しく調べていないので別メーカーさんに同じ名前の商品があるかも)。わたしはこのお菓子を「丸ボーロ」という名前で認識していたので、初読のときなんの違和感もなく「まるボーロ、マルボロ」と読み上げ、あとから気づいてびっくりしました。短歌を読んでいると時にはこういうこともあります。
 音声では言及し損ねたのですが、形としては下に向かって垂直な歌だと思いました。要は音で言葉をつなげて、結句〈山積みの服〉へ向かっている。途中〈落ちる音〉を引き受けた〈止まない雨〉というワンシーン(雨も下に落ちていくものです)が挿入されるので、山積みの服にも比較的すんなり着地できるような、素直で読者には親切な作りだと思います。四コマ漫画の起承転結の感覚にも近いかもしれません。例えば1コマ目:乳ボーロ・マルボロ、2コマ目:ボロボロ落ちる音、3コマ目:止まない雨、4コマ目:山積みの服、みたいな(でも五句あるので、どの2句を1コマに詰め込むかという問題は出てきそう)。
 鬱屈した雰囲気についてもう少し掘り下げると、ボロボロ落ちる=何かをとりこぼす感覚が、止まない雨=外部から閉ざされている/山積みの服=ままならない生活→社会的なものからとりこぼされている感覚に通じていくと解釈できるとも思います。
 この歌を読みながら実は私が気になっていたのは、この服が洗濯前のものか、洗濯後なのかということです。洗濯前だと「雨だし、まあしょうがないか」とも思えるのですが、洗濯を終えた服がいつまでもたためていないことの方が、生活をうまくやれていない感じがするし、その方が自身の社会性のなさを自覚しやすいと思ったんです。自分は洗濯物すらろくにたためないのかという自己嫌悪がなんとなく出てきそうな空気感がこの歌にはあります。もしかしたら乾燥機とか使って乾かした洗濯が山積みの可能性もあるのかも。私も家事の中で洗濯物をたたむのが一番嫌いなので、余裕がないときはまじで洗濯物たたみたくないよなあという共感も得ました。

参考リンク
乳ボーロ:https://www.osaka-maeda.co.jp/lineup/lineup_yaki_2_105g.html

企画趣旨はこちらから

https://note.com/harecono/n/n744d4c605855


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