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危機対応の足を引っ張る人々の特徴

Netflixで配信中のTHE DAYSを観た。全8回で完結する、事実に基づいたドラマである。

ドラマとして面白い上に、観る者への様々な教訓にもあふれる、素晴らしい作品だった。そして、(もちろん脚色が加えられていることは理解した上で、)2011年の3月11日に、日本の福島で繰り広げられていたこの壮絶な物語を次世代につなぐという意味で、重要なドキュメンタリーでもある。

私がこの作品を通じて考えたのは、どんな人が危機対応において成果を上げ、どんな人が足を引っ張ってしまうのかということである。福島第一原発事故という、いわば極限の危機状態を扱った作品であるからこそ、人の良い面と悪い面がこれでもかというほどに浮き彫りになっていた。

そして作品を見ていて気付くのは、危機対応を前に進める人々よりも、足を引っ張る人々があまりにも多いのである。

この作品の登場人物をベースに整理すると、危機対応で足を引っ張る人間には3パターン存在するのではないかと考えている。

  1. 現場を信頼、尊重できない人

  2. 責任の呪縛から抜け出せない人

  3. 負の感情をせき止めきれない人

の3パターンである。それぞれ2人ほど当てはまる役がいた。作品を見た方にはぜひ誰がどのパターンに当てはまるのか考えていただきたい。恐らく当たりをつけられるはずである。

(これ以降ネタバレを含みますのでご注意ください)


1. 現場を信頼、尊重できない人

該当する登場人物:東電副社長、東電フェロー

東電 村上副社長 (Filmarks / TSUMIKI Inc. より)
東電 石塚フェロー(Netflixより)

【特徴的な性質】

  • 現場をサポートするのではなくコントロールしようとする

(海水注入について)「いいからやめろ。官邸がグチグチ言ってるんだ」という東電石塚フェローの言葉に象徴されるように、本店は現場を自分の手先だと思っている節がある。
(危機対応において本来本部に求められるのは現場の需要を聞き取り、それが実行できるようにトップの立場を利用して周りを巻き込むことではないだろうか)

  • 危機が起きている現場の状況を理解しようとしない

東電の村上副社長は、インフラの損傷によりベントが不能であるにも関わらず、その原因を現場に尋ねることことなく「早くベントしないと大変なことになる」とひたすら本店から現場を煽る一方であった。

  • 気遣いが見られず、態度や言葉遣いが高圧的である

作中を通して、東電副社長とフェローは一切現場に敬語を使わない。敬語でないどころか、常に命令口調である。現場の従業員たちは誰一人として本店の人間を信頼に足るリーダーだとは思っていなかったように見える

2. 責任の呪縛から抜け出せない人

該当する登場人物:原子力安全委員会委員長、経済産業省官僚(原子力安全・保安院院長)

原子力安全委員会 峯岸委員長(Neflixより)
原子力安全・保安院 脇谷委員長(産経新聞社より)

【特徴的な性質】

  • 危機対応より立場を優先して発言してしまう

「避難距離の設定は、原子力安全委員会の管轄ではありません」という峯岸委員長の言葉に首相が呆れる場面は印象的である。その後の問答で委員長は「3kmが通常の避難距離である」と知っていたことが明らかになるが、最初に問われた際には答えなかった。
危機対応における重要な情報の提示を、「原子力安全委員長」という立場よりも優先させることができなかったのである。

  • 責任を持っている”だけ”の人形になってしまう

経産省官僚で、原子力安全・保安院の院長を務める脇谷は、第二話冒頭で首相に「資料に何が書いてあるかはどうでもいいんだ。今動いているのかどうなのか、俺の質問に答えろ」と叱責される。院長という立場から会議に出席はしているが、現場の情報を何一つ持っていないことから場のフラストレーションを高めてしまう。自分に求められる役割が何かを理解できていない人形のように見えた。

3. 負の感情をせき止めきれない人

該当する登場人物:首相、行方不明社員の父親、吉田所長

東首相(Filmarks / TSUMIKI Inc. より)
桐原社員の父(Filmarks / TSUMIKI Inc. より)

【特徴的な性質】

  • 負の感情を常に表に出し続け、組織の風通しを悪くしてしまう

首相はデフォルトが怒鳴り声なのではないかと思うほどに、始終怒鳴っている。周囲は委縮し、首相の機嫌を損ねないように忖度を始める。
作品中盤、被ばく線量の重要なシミュレーション結果を首相に報告しようとした経産省官僚の脇谷は、首相に強面で「今でないとダメか?」と聞かれ、「…いいえ、後ほどで結構でございます」と報告をあきらめてしまう。このような状況で首相のもとに情報が集まるはずがないように思えた

  • 怒っても仕方がない状況で怒りをぶちまけ、周りの精神的・肉体的体力を削ってしまう

行方不明になった東電社員桐谷の父親は、捜索状況について頻繁に東電に電話をかけては怒り散らしている。東電側の「今は現場が混乱していますので…」という応答にも納得できず、皮肉にも自分の行動で現場の仕事を遅らせてしまっている。行方不明を招いたのは電話口の社員ではなく、怒ったところで状況の改善は見込めないにも関わらず、感情を自分の中にとどめることができず、周りの気力・体力を削いでいく。

吉田所長(Filmarks / TSUMIKI Inc. より)

そして少し意外かもしれないが吉田所長もこのパターンに当てはまる部分があると思う。

所長が声を荒げる場面には二つあった。

一つは上からものをいう本店に「やれることはやっています。邪魔しないでください。」と怒鳴る場面であり、これは効果的に機能していた。

一方で、消防車に給水することができる人物がいない状況で、「一人くらいやったことのあるやつはいないのか」と非のない社員たちに声を荒げる場面は、桐谷社員の父の非生産的な憤怒に近いものがあった。

(とはいえ、無論吉田所長の危機対応におけるリーダーシップは作品全体を通じて本当に素晴らしいものであった。)


3.11ほどの危機的状況に自分が身を置くことは想像しにくいが、誰の身にいつ起こってもおかしくないのが危機というものである。

事態の解決に自分が貢献できる自信はないが、少なくとも対応の足を引っ張る人(現場を信頼・尊重できない人、責任の呪縛から抜け出せない人、負の感情をせき止めきれない人)にはなってはならないと強く感じさせられる作品だった。

ではまた。

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