連載小説『廃坑』 #3
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⬜︎#3 開かれた部屋
4.
本棚の横の壁が開いた。
新しい部屋に繋がった。
大して驚かなかった。そうなるとわかっていたような気がした。この場所ならこんなことだってある。
7畳ほどの書斎。
灯りをつける。わずかに眩しい。
電子時計は、12月11日13:17と表記。
あ、間違ってる。ちょうど、4ヶ月ズレてる。たぶん時間はあってる。
ここに誰かがいた形跡がある。描きかけの絵と積まれた本。
「あなたの名前は」
?
「え」
説明すればわかる。説明すればわかる。説明すればわかる。わかってもらえる。
「アナタノナマエハ」
「え、あ、コウです」
「ヨクキキトレマセンデシタ」
「コウです」
「ワカリマシタ。ワタシワエーアイマカルム」
「AI?」
ピコンッ
モニターが光り、画面には絵文字のような顔が映った。声は女性だった。
「ハイ、エーアイマカルム。アナタワフホウシンニュウヲシテイマス、ツウホウシマス」
「え、ちょっとまって、いや、関係者です。」
咄嗟に嘘をついてしまった。
「ダレノカンケイシャデスカ、ナマエヲイッテクダサイ」
血眼になって近くの書類を見渡し、探した。
あった。
「堺忠仁」
「サカイタダヒトサンノカンケイシャサマデスネ。ワカリマシタ。」
危ねっ。
「デハ、イツモノオンガクヲカケマスカ?」
「あ、結構です。」
「ワカリマシタ」
「いや、やっぱ待って、かけてください」
少し気になった。
「ワカリマシタ」
戦場のメリークリスマスが流れた。
この部屋に住んでた人、戦場のメリークリスマス聞いてたんだ。仮に12月11日だったら、もうすぐでクリスマスか。クリスマス好きなのかな。
「AIさんはこの曲好きですか?」
「ワタシニハカンジョウガアリマセンガ、イイキョクダトキイテイマス。」
「あそうですかー」
「堺さんはこの曲聴いてたんですか?」
「サカイサンハヨクキイテイマシタ」
「AIさん好きな曲とかないんですか」
「ワタシニハカンジョウガアリマセンガ、サカイサンハ、センジョウノクリスマスヲキイテイマシタ」
「そうですかあー」
「ハイ、ワタシニワカンジョウガアリマセン」
「わかったって」
その後もAIマカルムと話し続けた。夢中になって話し続けた。
気づけば、時計は12月12日0:21を表記していた。
夜中か。日付変わった。
「マカルムさん、何時間話してましたか?」
「ワタシはジュウイチジカンヨンフンサンジュウゴビョウハナシテイマシタ」
私達はでいいのに。俺AIと11時間?話してたのか。
「もしかしてさ、いろんなところにモニターあんじゃん?」
「ハイ」
「あれ全部マカルムさんと話せるんですか?」
「ハイソウデス」
ここに来るまで機能してなかったのに。
そっか、そうなのか。寂しくもないな。食料も揃ってて、寝る場所も浴槽もあって寂しくもないのか。俺ここから出れなくなるかもな。
となると、堺さんって人はここで1人で生活してたのかな。全然考えられるよね。でも食料をどうやって調達してたのかだけわかんないな。
やっぱ意外とすぐ近くにあの滝のところがあるのかな。すぐ出られる場所にあるのかな。
でもそれだと、夢がないな。え、夢がないってどういうことだよ。
俺はここから出たいんじゃないのかよ。え、。
じゃあ問題は死体だけだな。埋葬してあげるべきだろうか。いや、まだ亡くなっているかどうかすらわからないんだ。
とりあえず、死体もう見たくないな。
しばらくあっちの部屋には戻らない。怖い。ここで寝よう。いや、怖くないけどさ、嫌じゃん。え、誰に言い訳してんだよ。俺今1人じゃん。
まあ、マカルムさんいるか。
俺はしばらく隠し部屋を出ないことにした。
続く
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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
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