見出し画像

連載小説『廃坑』 #2


⬜︎前回の物語は下のリンクから


⬜︎ #2求めていた場所

3.

 すぐに冷静になれた自分が怖かった。 
 驚いても仕方ない。この人はきっと死んでるんだ。俺がどうこう叫んでも仕方ない。
 この人、でも生きてる可能性もあるか。でも人工呼吸とかできないし。
 通報するべきか。
 …あれ、待てよ、ない。
スマホない。
最悪だ、まって、最悪じゃん。見つけられたとしても、水没してんじゃん。
 いや、それより、この人か。通報できない、どうすればいいんだ。
 まって、この廃坑に誰かいないかな。
 おれは、走って、人を探した。
 その際、この廃坑の大きさと、この部屋以外にもいろんな施設があることに驚いた。この場所はデカすぎる。やっぱ組織的ななんか、使われてたんかな。
 いや、それどころじゃない。
 人。人、人。
 おい、誰もいないじゃん。え、いないじゃん。
冷静になったように思い込んでたはずだったのに、焦ってきた。
 やべぇ、どうしよっか。え、いや、でも死んでるよな。
 ってか、こんな場所から出たら人は誰かいるよな、いくら田舎でも探せば。
 ってかどうやって出るんだよ。どこにも出口とかないじゃん。
 いや、そっか、流れ着いたはずなんだから、さっきの川のところ戻って、滝の方まで戻ればいいのか。あっちだよな。
 走って向かい、川についた。
 いや、全然無理じゃん。
 この川はデカすぎる。どうやって戻ればいいんだよ。歩くしかないんか。とりあえず向かってみるか。
 川の逆流に歯向かって進んだ。途中泳いだりもした。不幸中の幸いか、俺は泳ぐのが得意だった。
 いや、これ無理だ。戻れねぇ。
 一度、基地に戻った。
 もうさ、これ仮に進んで、この廃坑の基地みたいなとこにすら戻れなくなったら最悪だわ。ワンチャンここには食料とかもあるかもしれないし。ここにすら戻れなくなったらマジで遭難する。
 辞めとこう。じっとしとこう。
 ってかどんくらいの時間、どんくらいの距離流れたんだよ。
 いや、もう仕方ない、あの人は。仕方ない。
 助けたいけど、俺だって、今混乱してんだよ、こんな場所に辿り着いて。

 部屋に戻った。
「聞こえますか?」

「聞こえますか」

「大丈夫ですか」

 ああ、やっぱり死んでる。え、怖。死体だ。
 いや、怖いとか言ったらダメか。亡くなってるんだもんな。
 ご家族とかいるのかな。え、やっぱこの人の家族心配してるよね。やっぱ通報した方がいいんじゃないかな。
 いや、俺だよ、俺。俺のことも心配してるよな。
 いや、でも一人暮らしでだれも気づかないよな。おれがこうなってるなんて。大学のやつも風邪ひいたのかなくらいにしか思わないよな。スマホもないし、連絡できないし。
 仕方ない。全部仕方ない。
 たまたま落ちただけ。落ちなければ良かったことだけど。いや、仕方ない。全部仕方ない。この人も。どうしようもないから。
 とりあえず、一回この施設を色々見よう。

 俺は、この部屋以外の場所を見ることにした。
 「え、すご」
さっきの部屋の5倍くらい大きな場所を見つけた。ここはなんだろうか。
 え、待って、キッチンもあるじゃん。え、冷蔵庫じゃんこれ
「もしかして」
 開けたら大量の食材が入っていた。しばらくはこの場所にいられる。
 まって、めっちゃうまそうなもんあるんだけど。
「え、プッチンプリンある」
「え、チャンジャもあんのかよ」
「え、近くにスーパーでもあるん、どーやって調達してんだよ」
 独り言がどんどんひどくなってきた。誰もいないことをいいことに。
 いや、人が亡くなってるんだよな。俺こんなことしてていいのか。
 いや、でもどうにも俺にはできないもんな。
 今は、俺がこれから生きるためにどうすればいいか考えるべきだ。俺だってピンチなんだから。
 冷蔵庫を閉めた。
「いや全然生きていけるなあ」
他の場所も歩いて見回った。
 キッチンあるなら、料理するか。とりあえず。
 あとはなんだ、ってかWi-Fiあるかなぁ。
「あ、スマホねーか。」

 やっぱりどこにもモニターあるんだな。なんかFBIみたいだな。あとで起動してみるか。
 いまは、色々満遍なく見よう。
「ここトイレか」
よかった。風呂もある。
 ってか、さっきの人の日記とかそういう書類ないかな。それでなんかわかるはず。後で探そう。
まって、寝る場所。寝る場所ないじゃん。いや、流石にあるよな、ないわけないよな。
歩いて探し回った。
「あ、あった」
そりゃあるよな。
 ある程度生活できる環境が整いすぎてるくらい整ってることを確認できた。
 まだまだ色々ありそうだけど、一度最初の部屋に戻ることにした。
廊下を歩いて向かった。
「なんか隠し扉とかないんかなー」
いろんなところの壁を押しながら戻った。
そんなタイミングよく映画みたいなことないか。
うん、なかった。
最初の部屋に戻った。
そこの机の上にあるボールペンを手持ち無沙汰で手に取り、ノックを押した。
「ピッ ダッガガガガガガ」


⬜︎続きは下のリンクから


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?