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貿易入門②〜市場動向と輸送手段、課題〜

こんにちは。
Harbittという、輸出入業務管理SaaSのスタートアップの創業者です。

早速ですが、前回に引き続き、弊社が事業領域としている「貿易」について入門的な知識をまとめていきたいと思います。
(前回の記事にご興味おありの方は以下よりあわせてお読みください。)

〜あらかじめお断り〜(再掲)
あくまで「貿易」という領域にあまり土地勘のない方を対象に、「基礎的な知識をインプットし、少しでも「貿易」に親近感をもって頂きたい」という趣旨の記事です。

貿易におけるデジタル化の課題

前回の記事では貿易業界の規模感から海上輸送の重要性、過去からの変遷を見てきましたが、そんな貿易業界、デジタル化の遅れが課題となっています。

「デジタル化の遅れ」と言うと、他の多くの産業にも見られることであり、ありきたりで解像度の低い話に感じられそうなのでもう少し説明させてください。

NRIさんの資料がよくまとまっていたので一部拝借します。
まずデジタル化の遅れが課題となる背景としては、トレンドに記載されているように

● 調達先の複雑化
● 労働力不足
● 生産性の低さ
● 手配の煩わしさ

といった問題が年々色濃くなっていっている業界なのです。

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(※NRIのこちらの資料より)

下記国土交通省の資料で2000年頃からの20年間の変化を見ても、「欧米⇆日本」の物流がメインであった当時の状況から、中韓ASEANといったアジア、その他地域との間の物流や、アジア域内のような対日本だけでない物流も増えてきました。

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(※国土交通省のこちらの資料より)

そうすると、より多様で複雑な輸送経路のオプションから最適解を見つけられるかが企業競争力の源泉になり、貿易実務に携わる実務担当者はより複雑で高度なスキルを求められるようになってきたのですが、デジタル化、と言うかIT化が進んでいないため、コンテナ船輸送に限定しても、

● ルート情報(各船会社のコンテナ船サービスラインナップ)のインプット
● ルート以外の、各国の法規制や手続き等のインプット・確認
● 輸送に関わる各種手続き
● 顧客からの問い合わせ対応
● 輸送後の実績分析(なぜ上手く運べたか、なぜ遅延したか等)と社内外関係者への報告

といったことを、各担当者が属人的かつアナログに行わなければならない、非常に生産性の低い世界が広がっているのが現状です。

貿易はスケールが大きくやりがいのある一方、実務としては、書類作業や各ステークホルダーとのコミュニケーションといった単純で煩雑な作業が多く存在するため、優秀な方ほど「こんな単純作業で日々残業している現状でよいのだろうか…」と悩み、散々悩んだ挙句、転職していく方も多いわけです。(貿易に携わる方は英語等外国語も話せるため、転職市場でも需要はありますしね。)

アナログで生産性の低い業務をそのままにしておくことは、短期的な企業競争力の低下につながるだけでなく、優秀な人材の獲得難・離脱等、中長期的な企業競争力をも招きかねない大きな問題なのです。

サプライチェーンのなかでの貿易

さて、少し話題を変えますが、企業のサプライチェーンにはグローバルなものとドメスティックなものがあります。
どちらにおいても先に挙げた「手配の煩わしさ」のような悩みを担当者は抱えているのですが、貿易、つまり国をまたぐ取引の場合、例えば以下のような理由から問題がより大きくなります。

1)国が異なることで発生する書類や手続きの多さ、言語の問題等実務上の負担が大きいことから、人的なミスが発生しやすい
2)時差や言語、商習慣の違い等によるコミュニケーションコストの大きさ
3)輸出側と輸入側とで担当企業や担当者が異なることが多いうえに、輸出港or輸入港で買主と売主との間での(取引上の)責任が切り替わる取引形態が多いため、スムーズな情報共有がなかなか実現しない
4)リードタイムの長さによる遅延の影響の大きさと、遅延発生頻度の高さ

1つ目と2つ目は感覚的にも理解しやすいかと思うので詳細は省きます。

3つ目については、輸出者と輸入者が同じであればまだスムーズなのですが、例えば輸出者は海外メーカー、輸入者は日本の商社のように、輸出側と輸入側とで企業や担当者が異なることが大半です。

輸出者である海外メーカーからすれば、「予定通りの船に積めればOK、その先は(船の遅れは船会社の責任だし)関係ない」という発想になりますし、仮に倉庫から港(輸出港)に運ぶ間で多少の遅延が発生していても、「可能な限り輸入者側に遅延報告はしたくないので出航までに巻き返そう!」、「港の搬入期限に間に合うかギリギリだけど、遅れても港湾事業者が受け入れてくれるかもしれない!」という発想にもなりがちです。結果巻き返せず遅延してしまい、報告も直前か事後になってしまうということが少なくありません。
※もちろん企業(や担当者)のマインドセットにはよります

このように、企業や担当者が異なることで「求められなければ必要最低限の情報共有しかしない」という方向の力学が働きやすい傾向があるのです。

4つ目については、普段個人の国際的な移動手段としては「数時間遅延したら大クレーム」な航空機を活用することが多いと思いますので想像しにくいかもしれませんが、船でモノを運ぶ場合以下のような時間を要します。

<コンテナ船輸送日数の経路ごとのざっくりイメージ>
日本(東京) - 東・東南アジア:〜15日
日本(東京) - アメリカ西海岸:10〜20日
日本(東京) - アメリカ東海岸:30〜40日
日本(東京) - ヨーロッパ:30〜60日
(※より詳細な日数のイメージはこちら等ご参照)

上記はあくまで「定刻通り」のケースであり、プラスで、「何時間」単位ではなく「何日間」単位の遅延が普通に発生します。

下のグラフはコンテナ船の「スケジュールの信頼性(遵守率)」(Fig. 1)と「遅延日数のグローバル平均」(Fig. 2)を表しているのですが、ここ数年間の動向は以下の通りであり、月曜到着と思っていた貨物がギリギリ金曜到着するか、土日あるいは翌週になってしまうのが「平均」という状況がグラフからも読み取れます。

Fig.1→スケジュール遵守率は70%程度。低いときでは30%程度
Fig.2→平均遅延日数は3〜5日程度。遅延が大きいときでは1週間以上。

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(※Sea Intelligenceのデータより)

〜余談〜
実は、2020年後半から現在(2022年1月時点)に至るまで、コンテナ船輸送を含む国際輸送は例年にない大混乱に陥っているのですが、グラフの遅延はあくまでグローバル平均であり、こちらの記事等にあるように、1ヶ月以上の遅延が続いている場所もあります
「マック(マクドナルド)がポテトをSサイズのみに制限」といったニュースの背景にも国際輸送の混乱があり、社会に与えるインパクトの大きさを窺い知ることができますね。

納入期限に余裕がある輸送であれば影響は小さいのですが、在庫が逼迫しているモノの場合は、数日単位で遅れるとなれば、社内外の関係者にすぐに連絡、手配替えの必要があります。
ただし現状は、「どの程度の確率でどの程度の日数遅れそうか?」、「なぜ(どこで)遅延したのか?」といったことを定量的に把握する、予測することが(IT化されていないため)困難な状況なのです。

貿易領域のデジタル化の価値

では何をすべきかというとデジタル化で、簡単に説明するため先程と同じNRIさんの資料を再度拝借すると、貿易を含むグローバルなサプライチェーンにおいて、データ活用、効率化・自動化の余地は大きく存在し、かつ物流企業もそれを強く望んでいます

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(※NRIのこちらの資料より)

また、やや間接的ですが、デジタル化が進み優秀な担当者に時間的余裕ができると、本来やるべき新規案件の獲得(営業・マーケティング)や、新規サプライヤーのソーシングや需給予測の改善といったサプライチェーンの改善活動に使う時間を増やすこともできます

以上のようなことが実現されるだけで、相当なインパクトが見込めますね。

ここからはさらにその先のことですので、現時点で書いても絵空事感満載ですが、生活、そして経済の根幹であり、日々相当量のトランザクションが発生している貿易業界のDXが進みグローバルなモノの流れが可視化されれば、2倍や3倍というインパクトではなく、10倍や数十倍といったインパクトが見込めると本気で思っています。

イメージでお伝えすると、例えばiPhoneが存在しないときにiPhoneの価値を訴えても理解してもらうことが難しいのと同じような感覚だと思っています。
iPhoneが生まれなければ、Uberやインスタグラム、TikTok等も生まれなかった(別の形で生まれていた可能性は否定できませんが)のですが、スティーブ・ジョブズがiPhoneを発表したときにそこまで想像できた人はどの程度いるんでしょうね。

もちろん、「いやいや、iPhoneだからそうだけど、別にiPhoneを作るわけじゃないよね?」と言われればおっしゃる通りです。
ただし、グローバルなモノの流れが可視化されれば、その上には同じとまでは言わないまでも、相当に大きな価値が創造されると思っています。

デジタル化を「誰がどう進めるか」も重要

貿易DXの価値について書いてきましたが、最後にデジタル化を「誰がどう進めるか」も非常に大事だという話をさせて頂きます。
というのも例えば、

● ITに巨額投資してデジタル化を図ればいい
● 現場が回らないので、貿易実務の部分はフォワーダーに丸投げすればよい

といった発想の方って悲しいことに結構多くいらっしゃるのが現状なのですが、こういったアプローチでは課題解決どころか、

● 巨額投資したが成果が出なかったので、諦めて再びアナログで体力勝負な世界に逆戻りしてしまった
● 丸投げした部分がブラックボックス化してしまい、関連他領域含めて改善が難しくなってしまった。本当は自社の競合優位性の源泉であるコア機能だったのに安易にアウトソースしてしまった

といった、むしろ状況を悪化させる未来が待っていると思うんですね。
そうではなく、業界構造を変えるようなアプローチで本気で取り組む必要があると考えています。

トレンドのところでは簡略化のために書きませんでしたが、近年、貿易領域にもブロックチェーンを活用したコンソーシアム型のソリューションやデジタルフォワーダーと呼ばれる業態のスタートアップも増えてきています。

実は弊社はこの領域でまさに創業準備中なのですが、こういった業界課題の解決を目指す方々が増えているので、当初は「自分でやる必要はないか」と思いかけたこともありました。

しかし、継続的に動向を見ていくなかで、(彼ら彼女らの取り組みは大変素晴らしく、是非成功してほしいと祈っていますが)「業界全体を変えるためにはまだ足りないピースがある。異なるアプローチが必要。」という想いが次第に強くなっていきました。
ここを、想いを持って自分自身で推し進めていきたいという気持ちが、この領域で「自分で」チャレンジしようと決意したもう1つの大きな要素です。


最後は弊社の話になってしまいましたが、貿易入門は一旦以上です。

そして弊社Harbittは絶賛創業メンバー募集中ですので、ここまでお読み頂き貿易領域での起業に興味をもって頂いた方、是非一度カジュアルにお話しましょう!

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