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ブロムシュテットが指揮する2度目のマーラー/交響曲第9番

御年95歳の指揮者、ヘルベルト・ブロムシュテットは今年の10月も来日してNHK交響楽団を指揮する予定である。わたしもその公演に行く予定だが、今回聴くのはマーラー/交響曲第9番を指揮する公演である。

ブロムシュテットは2010年4月にもNHK交響楽団で同じ曲を指揮したのだが、わたしはその公演を鑑賞していた。

当時82歳だったブロムシュテットが、12年の歳月を経た95歳で再びこの作品を指揮する。マーラーの交響曲第9番は演奏回数もそう多くはない作品。なので、そんなことはだれも想像出来なかったはずだが、それが実現するにあたり2010年の公演を振り返ってみようと思った。

●マーラー指揮者ではないブロムシュテット

ブロムシュテットはマーラーを振る機会は極めて少ない。2010年当時、CDで第2番「復活」だけがリリースされていたということしか情報がなかった。

それなのにマーラー最後の交響曲をコンサートで振るということを知った時は驚いた。でもすでに82歳という年齢になったブロムシュテットが敢えてこの曲を取り上げたことは、なんとなく理解はできた。

しかし、いわばこの「特殊な作品」をどのように表現するのかは全く予想がつかなかった。その裏返しはつまり、とても興味深く、楽しみなことになっていた。

●当時の感想を思い返してみる

この頃のわたしは粘り気あるような極度の感情移入をする演奏、例えばバーンスタインのような演奏、が好みだったし、それがスタンダードのように思っていた。果たしてブロムシュテットはどう表現するのか?

そんなことを考えながら3階の自由席に座る。かなり空席があったように思う。今では考えられないことだ。今度の公演は2日間ともすでに完売である。

約80分の演奏が終わった。

正直、ちょっとギクシャクな感じがした演奏だったように思う。

ほとんど振ることが無い作品だからそれは仕方がないのかもとも。
しかし、そんなことよりも、何かスッキリとした、爽やかなさが残る演奏だったという印象が強かった。

それはスタンダードだと思っていた粘り気あるものとは全く正反対だったが、「残念」ということではなく、この曲の新たな魅力を発見したように思ったからだ。

この作品のテーマとも言える「死」が、「暗い」「寂しい」「どうしようもない」未練だらけのネガティブなものでは無く、「いままで十分ここまでやってきた。それではさらば!」と颯爽と去っていくような「死」もあるのかと。

曲を聴きながら「良いな」というのではなく、すべて聴き終わってから「ああ、良かった」と思える名演奏だった。

●映像で振り帰ってみる

もう10数年も昔の公演なので、先に書いたような印象もかなり薄らいでいた。幸いテレビ放送された時の録画映像が手元に残っていたので、久しぶりに見てみることにした。

82歳といえども、若々しく見えるブロムシュテットが指揮台に立つ。

第1楽章は早いテンポで進んでいく。今では指揮棒は使わないがこの時は指揮棒を持っていた。そして視線は団員ではなくスコアに落といている時間がかなり多かった。やはり滅多に演奏しない曲だからであろう。ギクシャク感の原因はそういうところにもあったのかもしれない。

第2楽章は遅めなテンポをとっていた。曲調はコミカルな部分もあるがここもスッキリと流していく。

第3楽章はいままでとは違い、熱がグッと入り始めたようだが、やはり全体の印象はスッキリしている。

第4楽章。ブロムシュテットはここで指揮棒を手放していた。最近の指揮姿の様に腕を振り手のひらを広げて、しかも上半身すべてを使った大きなアクション。82歳とは思えないような身のこなしである。

そして視線は今までと違い、圧倒的に団員とコンタクトしている時間が多くなった。ギクシャク感はまだ残っていたようだが、それを凌ぐような濃密な音楽が奏でられた。

すべてを聴き終わっての印象だが、さすがにわたしも当時から年も取り、いろんな演奏を聴いてきたので当時の自分自身からも変わっている。が、やはり爽やかさが強く残る演奏だった。当時のスタンダードと思っていた感情移入型演奏をあまり聞かなくなったからだろうか、すごくしっくりくる演奏だった。

●再びブロムシュテットのマーラーを聴くにあたって

さすがに当時から年齢を重ねたブロムシュテット。公演キャンセルもあったり、体の面で衰えていることはどうしようもない。しかし、年齢を全く感じさせない、まだシャキッとした姿で指揮するマエストロである。

現在、この作品に向かう境地がどのようなものであるのか。どのように表現されるのか。

82歳から95歳へとさらに「成長」したブロムシュテットが指揮するマーラー最後の交響曲。

再びNHKホールの3階席で聴けることが、当時と同様、とても興味深く、楽しみで仕方がない。

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