見出し画像

【やりたいことも、やるべきことも】ラ・リーガ第25節 バレンシアCF対FCバルセロナ マッチレビュー

フェラン・トーレスにイライクス・モリバと、古巣対決となる選手がお互いにスタメンとなったバレンシアとの対戦。最近はフロントがごたごたし続けているチームで今季から指揮を執るのは、「ニョムをサイドハーフで起用する」「とにかくひたすら相手を削る」というアンチフットボールメソッドを駆使して近年のリーガを騒がせたホセ・ボルダラスである。バルセロナは2試合出場停止のアウヴェスに加え、ピケも前節のレッドカードで出場停止になっている。

アラウホのジレンマ

高いインテンシティと強気なコンタクトで相手の自由を奪うのがボルダラスのチームのやり方。デ・トマス1人を残して4-5のラインを引いたエスパニョールとは違い、バレンシアは4-4-2の形を崩さないままで前に出る姿勢を見せた。

具体的に言うと、2トップがそのままバルセロナの2人のCBに対して寄せてくる。ウーゴ・ドゥロはブスケツを背中で隠し、ゲデスはエリック・ガルシアへのパスコースを切る。逆サイドのSBは捨て、4人の中盤がマンツーマンでバルサの中盤3枚+ボールサイドのSBをケア。最終ラインはCBが1枚余ってあとはマンツーマンになる形になる。

アラウホがテア・シュテーゲンにボールを下げるとウーゴ・ドゥロはブスケツのところに戻っていき、ゲデスはエリック・ガルシアの近くで様子を窺うことが多かった。推進力とパンチ力を併せ持つゲデスのタスクを制限しつつ、隙があれば積極的に縦へスライドする勇気を持った非保持の形。

ここからアルバに通せるほど器用な選手ではない

アラウホにボールを持たせるのは、もはやリーガにいるチーム全体の共通認識のようになっているように思える。サイドに逃げて逃げて、結局全力で前に蹴るしかなかったときと比べると格段に成長している(すごいスピードの楔を入れたりするようになった)ものの、流石に純正カンテラーノでペップの指導も受けた2人と比べてはいけない。

とはいえ、いざカウンターを受けたときのことを考えると、この人を外すという選択はなかなかし辛かったりするわけである。いまのピケの年齢に追いつくにはあと10年ぐらいかかるので、気長にみていくのが吉でござろう。



縦スライドには縦スライドで

気長にみていくのはいいのだが、この試合中にアラウホがいきなり上手くなることはない。そのため、彼をみんなで助けながら前進することが必要になる。

取れる手段として1つあったのは、テア・シュテーゲンに下げたところから素早く逆サイドのアルバにボールをつけること。キック精度とボールスピード、そして受け手のトラップ技術が求められるプレーだが、難なくこれをやってしまうのがこの2人である。我らがGKはバレンシアが焦ってスライドを早くしすぎると、マーカーが離れた瞬間にブスケツに差し込む抜け目のなさも完備していた。

そしてもう1つの手段は、オーバメヤンのポストプレーを上手く使うこと。CBが付いてくるのはどうしようもないが、降りる位置の人口密度を下げることで成功する可能性は上げられる。

アラウホがボールを持つ機会が圧倒的に多いので、右のIHのガビの位置が肝になる。オーバメヤンが降りてくると同時に、ガビは入れ替わるように高い位置へと前進。アルデレーテはオーバメヤンにアタックすることになっているので、その背後は必然的に空いている。そこに走られるのは厄介なので、モリバはオーバメヤンを挟みに行くのではなく、最終ラインのカバーに回らざるを得ない。

お互いに縦のポジションチェンジ

アルデレーテは前に強く出られるタイプのCBだが、前方が開けた状態でポストプレーを阻害するのはなかなか難しい。しかも、隣ではデンべレが裏へのランニングを虎視眈々と狙っているのだ。どうしても背後が気になり、遅れるシーンも出てくるのは避けられなかった。

ちなみにバルセロナの先制点は、低い位置まで降りてポストプレーを成功させたオーバメヤンが一気にスプリントし、アルデレーテを振り切ったことで生まれている。最終ラインの裏にボールを送ったのは完全にフリーでボールを受けたアルバで、バレンシアの非保持を完全に逆手に取ったゴールだった。


組み合わせが大事

ここまでバルセロナのビルドアップに触れてきたが、デストが中盤に参加してボール保持を助ける様子はあまり見られなかった。その理由は大きく分けて3つある。

1つ目は、中盤のスペースを確保するため。ガビがせっかく空けたスペースにデストが入ってきてしまうと、オーバメヤンが降りてくるスペースが消えてしまう。受けるスペースが狭くなるだけでなく、アラウホからのパスコースも遮断される。こうなるとなかなか縦に刺すのは厳しくなってくる。さらに、彼が内に絞ってくると、バレンシアの中盤4人がスライドする幅が小さくなってしまう問題もある。アルバにボールが出された際に、相手が素早く対応する余地を残してしまうのだ。

2つ目は、対面の選手の使いたいスペースを消すため。対面のブライアン・ヒルは左利きのドリブラーで、サイドを縦に突破してクロスを上げるのが主な仕事。となると、デストが内側のレーンをプロテクトしても意味がない、どころかブライアン・ヒルが使いたいスペースを明け渡すことになってしまう。迅速なトランジションが必要なサッカーをしているだけに、ここを突かれるのは避けたいところである。

そして3つ目は、デストの前でプレーする選手が、縦突破マシーンのトラオレから左右両足を使うデンべレになっていたこと。トラオレは自分で仕掛けるのが基本だが、デンべレはわりと周りが動いてくれるのを待つことが多い。自分で突破してシュートやクロスに行くこともあるが、実はこれが意外と結果に結びつかないのだ。仕掛けるぞ、仕掛けるぞと匂わせて、相手が躊躇した隙にボールを蹴ったときのほうがいい結果が出ているように思う。

これが、後ろからパワーを持って出ていきたいデストと非常に相性がいい。デストは加速力が素晴らしく、緩急のつけ方が上手い。一方で、静止した状態からどうこうするのはそこまで上手な選手ではない。そんなデストにとって、駆け上がるタイミングを作ってくれるデンべレはいい相棒なのだろう。



崩しの局面での再現性

バルセロナの2点目は、そのデストとデンべレが関わって生まれた。スローインでデストがガビからのリターンを受け、そのまま内側に侵入する。複数人を引き付けてブスケツに流し、ブスケツはワンタッチで絞ってきたアルバへ優しくボールをつける。アルバもワンタッチでDFラインの背後にボールを送り込み、裏に走ったデンべレがこれまたワンタッチで折り返してフレンキーがゴール。美しい得点だった。

同時にこのゴール、どこかで見たことのある形でもある。例えば22節のアラベス戦。あの試合では右のWGがフェランだったが、この時に見た崩しの形とほぼ一致しているように見える。選手が入れ替わっても同じようにチャンスを作れるのは明らかにポジティブな変化で、いわゆる「再現性のある崩し」というふうに呼ぶことができるだろう。

22節のシーン①

アラベス戦。フェランがカットインして、相手を引き付けてからニコに落とす。この時はアルバの前方に選手がいるので、ニコは少し前進して彼らを引き付ける。

22節のシーン②

引き付けてからアルバにボールを渡すと、抜け出したフェランに右足でピタリ。この時もフィニッシャーはフレンキー。1人でいろいろやってるフェランの頭の良さも分かる。

試合全体を振り返るならこちら↑



忘れちゃいけないペドリくん

37分にもこれまた素晴らしいゴールがあり、前半で早くも3対0に。デンべレとデストのワンツーから、3人目のガビが裏に抜けてフリーでオーバメヤンがゲット。その後はほぼ失点のようなシーン(VARにより取り消し)もあったが、なんとかそのままの点差でハーフタイムを迎えることに成功した。後半には出てきたペドリがゴラッソを沈めた、かと思いきやオーバメヤンに当たっていてハットトリックという事件?もありつつ、いい形で試合を終わらせることができた。

途中から出てきても抜群のインパクトを残したペドリはやはり別格といえる輝きで、だからこそ彼を酷使しないためにも、ガビがここまでやれているのは素晴らしいこと。裏に飛び出すプレーがまた周囲のリズムと噛み合いだしたフレンキーにも言えることだが、ここにもチャビ就任の効果が出ているのだろう。これからが改めて楽しみになる、そんな試合になった。




2022/2/21 La Liga Santander Matchday 25
Valencia CF 1-4 FC Barcelona
Referee :Carlos Del Cerro Grande 
VAR : Jose Maria Sanchez Martinez
Stadium :Estadio de Mestalla





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?