shelf代表・矢野氏への告発を受けて、氏がおこなったとされるハラスメントについての調査結果を一部公開します
はじめに
この記事は、2022年4月にTwitter上で、Theatre Company shelf（以下、shelf）の公演の稽古中にshelf代表・演出家の矢野靖人氏（以下、矢野氏）よりハラスメント行為を受けたとの告発があったこと、またその告発に対し、聞き取り調査の結果、告発内容に該当する事実は確認されなかったとの声明がshelfより発出されたことを受け、独自の調査を行った有志者により作成されています。
※以下、ハラスメントに関する内容が含まれます。フラッシュバック等ご不安のある方はご注意ください。
告発とその経過
2022年4月
Aさんより、過去にshelf 矢野氏に稽古場で裸になることを要求され、また人格否定の発言を繰り返されたことにより精神的に追い詰められ降板した旨のTwitter投稿
2022年5月12日
矢野氏
「演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会」のツイートに対して「私は稽古場で、不用意に俳優（女性、男性を含む）に裸になることを要求したことは一度もないと記憶しています。」とshelfアカウントより返信
2022年5月20日
shelf HPにて「shelf代表の矢野靖人が、現在Twitterでハラスメントの告発を受けている件について」文書公開
（以下、有志の会による要約）告発者の出演予定作品を特定、当時の出演者・スタッフに聞き取りを行い、“稽古場で、例えば俳優に殻を破らせるためと称して、服を脱ぐ（＝裸になる）ことを要求したことはない”と確認した
2022年6月
有志によるアンケート調査を開始
現在に至る
有志によるハラスメント調査の実施と調査結果の公開について
2022年5月20日、「shelf代表の矢野靖人が、現在Twitterでハラスメントの告発を受けている件について」https://theatre-shelf.org/jp/news/2022_0520.html
という文章が公開されました。
こちらの文章によると、2022年の5月20日以前に、shelfは告発者を特定しています。そして告発者が出演予定であった2013年のある作品に関し、「同じ作品に出演していた他の俳優やスタッフのうち、お話を聞ける方に対して聞き取りを行なった」とあります。
しかし、ハラスメント加害者であると告発された側が直接聞き取りを行うような調査は、聞かれた方が萎縮してしまい正確に答えられない可能性や、質問そのものが告発された側にとって都合の良いものである可能性があり、信頼性が高いものとは言えません。
そのため、長島確、オノマリコを含む有志は、2022年6月に、shelfが2013年に行なった二つの主な公演に関して、出演していた俳優や参加していたスタッフに連絡し、調査のためのアンケートにご回答いただけないかと依頼しました。
また当時、「演劇・映画・芸能界のパワハラ・セクハラをなくす会」に、2013年以外の過去公演での被害経験の訴えが集まっていたことから、同会に協力を仰ぎ、2013年に限らない過去公演での調査アンケートも行いました。
なお、この調査アンケートの実施時、有志は告発者と連絡が取れず、告発者は回答に参加していないことも付け加えておきます。（後に、告発者に連絡がつき、調査を行ったことを説明いたしました。）
本調査の実施時、連絡をとることができなかった関係者および回答を辞退された方もいらっしゃいました。
また、矢野氏およびshelf劇団員の方も参加しておりません。（後に、独自の調査を行なったこと、それにより告発の内容が事実である確信を得ていると、長島が矢野氏に連絡いたしました。）
告発者による行動から一年が経ちました。しかし、この問題に対して、目に見えるところでの進展はありません。演劇界をハラスメントの告発をただ放っておくような業界にさせないためにも、調査結果の一部をここに公開いたします。
アンケート調査への回答(一部)
※プライバシーの保護のため、回答者のコメントは個人が特定されないよう編集されています。
※ハラスメントに関する詳細な内容を含みます。気分が悪くなる、フラッシュバックが起きるなどの可能性があります。その兆候がありましたらすぐに読むのをやめてください。深く呼吸をし、現在の日時を確認し、おやすみください。
質問1
当時の稽古場で、shelf代表者による声を荒げる、恫喝するなどのパワーハラスメントはありましたか。ご自身の思ったようにご回答してください。
１：「全くなかった」・・・０件
２：「稀にあった」・・・２件
３：「度々あった」・・・１件
４：「よくあった」・・・３件
５：「とてもよくあった」・・・０件
質問2
当時の稽古場で、shelf代表者及び劇団員による「俳優ならば〇〇しないといけない」という強制的な言葉、空気などのパワーハラスメントはありましたか。ご自身の思ったようにご回答してください。
１：「全くなかった」・・・１件
２：「稀にあった」・・・０件
３：「度々あった」・・・１件
４：「よくあった」・・・０件
５：「とてもよくあった」・・・４件
質問3
当時の稽古場で、shelf代表による服を掴む、身体を拘束する、殴るなどの暴力行為はありましたか。ご自身の思ったようにご回答してください。
１：「全くなかった」・・・２件
２：「稀にあった」・・・１件
３：「度々あった」・・・２件
４：「よくあった」・・・１件
５：「とてもよくあった」・・・０件
質問4
当時の稽古場で、shelf代表により人前で服を脱ぐように要請されたことはありましたか。もしくは、それを目撃したことはありますか。
１：「要請された」・・・０件
２：「目撃した」・・・３件
３：「覚えていない」・・・３件
４：「なかった」・・・０件
質問1についてのコメント
・あまり覚えていないのですが、頻繁に怒鳴るということはなかったと思います。ただ、他チームの稽古を見学したとき、出演者に対して、冒頭の数行だけを繰り返させ、「違う！もう１回！」「違う！」「全然違う！」と、理由の説明が一切なく、何度もやり直しをさせていたのを見た時は、稽古ではなく、恫喝だと思いました。チームが違う為、出演者との関係性もわからないので、その出演者本人に聞いてみなければ判断がつかないのですが。
・大きな声で…といったことは頻繁にあったような記憶はないのですが、言葉で従わせることができなかった時に、大きな声で相手を威圧することがあったように記憶しています。
・声を荒げる・恫喝などの全方位的に暴力的な言動はなかったように記憶をしているが、意思疎通がうまくいかない際に理詰めで相手を追い詰めるようなことはあったように思います。
質問2についてのコメント
・shelfに出演する事が初めての俳優や、オーディションで集められた俳優が多かったからか、稽古というよりも、劇団主導の訓練に多くの時間が割かれました。劇団員以外は、その訓練の意義や本質を理解できず、また説明もされず、ただ、演出家から「違う」「できていない」と、溜息混じりで呆れられる。という時間が長くありました。おそらく演出家や劇団員の中でははっきりとした理想の演技像や身体があるということは、なんとなく理解できるのですが、それを明確に説明してもらえず、「言っていることの意味がわからないんですが」と問うても、「なんでわかんないかなぁ」と、それまでの演技方法やキャリアを否定されるという、ただただ否定され続けるという稽古が長く続きました。
・「俳優ならばこうしなければならない」という強制的な空気が常にあった。この「俳優ならば」、に使われる「俳優」は、「shelfの考える俳優」とか「矢野氏の認める俳優」という意味が含まれていたと感じています。
・私個人としては、稽古場よりもメールがしんどかったです。長い・強い・圧がある。特に気になったのは、基本的に「あなたたちはできていない」スタンスだったことです。「〇〇さん(所属俳優)はできているのにあなたたちは追いついていない」といった含意があったと思います。メールでも数度、「あなたたちのことは俳優といえない」といった文面があったのが気になりました。
質問3についてのコメント
・該当の事例はあまり覚えていません。殴る蹴るといった場面は目撃していないと思います。ただストレッチとして矢野氏が俳優（男女共に）に立ったまま組み付いて、受けた方が「痛い痛い！」と叫んでいた光景はよく覚えています。
・巨体で俳優に対して体重をかけたりというのはありました。俳優指導ともとれますが、恐怖に感じる俳優はいたと思います。
・「負荷をかける」という名目で、ストレッチや身体を押したり、などの身体的接触のあるワークはありました。演出家は身体が大きいので、自分がされたら嫌だし怖いと思っていました。
・記憶が曖昧ですが、恫喝の項目で答えた事象の相手と揉み合うことが起きたような気もします。
質問4についてのコメント
・当時の記憶はかなり嫌なものとして蓋をしていたことに気付いたのが最近です。自分はすっかり忘れていたのですが、今回の件で当時の色々な事象が思い出されました。世田谷区の区民施設をよく稽古場として利用していましたが、窓が大きくて緑の見える、部屋の片面の壁側が雛壇のようになっている稽古場を利用していた日だったと思います。これは次に自分にも要求されるのか、と息を潜めた記憶があります。やるわけないと思いつつ、どう判断するのかわからず、心で抵抗しつつも日々の稽古の中で判断基準が少しずらされていたことに振り返って感じています。いまの自分ならその場で絶対声を上げていました。
・世田谷区の地区会館の集会室で、とある俳優に対して、演出家が服を脱ぐよう要求しました。ただ、稽古場の外が子供の遊び場となっており、密室ではなかったことで、shelf所属のC氏によって止められました。
・稽古中に演出家が一人の女優さんに脱ぐよう指示したのを覚えています。稽古期間中、毎日稽古時間の半分以上は基礎訓練という時間に当てられていて、基礎訓練中も稽古中も、いつも誰かが槍玉に挙げられて集中的に“負荷をかける”という名目で集中砲火にあっていました。２チーム合同の稽古だったり、お休みの人がいたり、その日の基礎訓練だけ参加の人がいたりと、誰があの時同じ稽古場にいたのか、脱いでと言われた女優さんが誰だったのか、詳しく思い出せません。一人が舞台側に前に立たされている図がいくつも思い浮かぶので、それは本当に日常よくあったシーンだと思っています。
その時は、上手くいっていない女優さんを前に立たせて、上手くいっていないから必要なことをする、というようなことを言いました。「自分を信用して？ いい？」と女優さんに聞いて、はい、と答えさせたのち、「じゃあ脱いで」と言いました。 （先に「はい」という了承を取ってから脱いでという要求をしたのが、とても怖かったです） 稽古中、上手くいっていない俳優さんに負荷をかけるという事が何度かありましたが、服を脱いでというのは初めてだったのでとてもびっくりしました。 女優さんは何も言わなかったし、服を脱ぎもしませんでした。誰も何も言いませんでした。 そしたら劇団員のC氏が「いや、ダメでしょ」と言いました。 （この段階で、負荷をかけるという訓練ではなく、イレギュラーなことが起きている。これは止めるべきことが起きているんだと思ったし、止めてくれる人がいて良かったと思いました） でも演出家は「いや、いいから」みたいな事をいって、C氏の方に向き直らず、ずっとその女優さんの方を向いていました。 女優さんは脱ぎもしなかったし何も喋らず硬直して立っていました。 何度か「ダメでしょ」「いやいや」みたいなやり取りを演出家とC氏がした後、C氏が「外から見えるでしょ」という止め方をしました。 外は公園に面していて、子供が遊んだりしていました。 そしたら演出家は「じゃあカーテン閉めて」と言いました。 それに対してC氏は「いやいや」とか言いながらもカーテンを閉めには行かず、その後カーテンは閉められることなく、女優さんが脱ぐことはなく、その話は終わりました。 以上が、私が目撃した現場です。 公園に面していない、密室の稽古場であれば、脱ぐ事をさせられたのだろうか、今後そういう稽古場での稽古の時、自分にもこの要求は向くかもしれないと思うと、本当に怖くてたまりませんでした。
・覚えていないのですが、それは当時、私がshelfの現場に限らず、演出家からのハラスメントの要素を含んだダメ出しに慣れきっていたので、異常なことだと感じなかっただけだと思います。ただ、C氏が、止めた、ことだけは、なんとなく覚えているような気がするので、実際に、起こった事だとは、思っています。
まとめとして
以上が、昨年行なった調査アンケートの回答の一部となります。
告発者のAさんは、目撃証言のあった2013年のこの作品への出演予定はなく、稽古のみ参加されていました。稽古に参加していたことは、当時、Aさんが出演者たちとtwitterでやり取りを行なっていた記録なども残っており、確認ができました。
また、同様の場所などでの目撃発言があることからも、（目撃された事件が複数あり、Aさんではない可能性もありますが）告発された事柄は起こったのだと有志一同は考えています。
また、年次を問わない過去公演のアンケートでは、質問3に関して、「殴る」「男性劇団員に中身の入ったペットボトルを全力で投げつける。」「稽古場のパイプ椅子を地面に投げつける。」などの暴力的な内容もありました。
また「基礎訓練で使われていた台詞を聞くといまでも吐き気と頭痛がする」とPTSDの症状がある方もいらっしゃいました。
●shelf代表矢野氏、およびshelf劇団員の方へ
我々の調査をまず受け止めていただきたいと考えています。
我々は劇団の活動停止や解散を望んでいるわけではありません。（記憶に残っていないことも含めての）過去の行いをどう改めてこれから活動をしていくか、その問題に目を背けず、行動していただければと思います。
●お読みくださった方々へ
我々は、勇気を振り絞って声を上げた告発者が少しでも報われるようにと思い行動しています。SNSなどでのshelf代表や劇団への糾弾は望んでいないことを明記いたします。今後の演劇界のハラスメントへの意識の向上、良い創作環境をつくるにはどうしたらいいのか、共に考えていただけますと幸いです。
2023年5月 ハラスメント調査有志の会一同（長島確、オノマリコ 、他）
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