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適切な懲戒処分②

前回はやってしまったことと、制裁(懲戒)の「バランス」について書きました。
今回は、懲戒処分にはそもそもどんなものがあるのか、と言うことを書きます。

懲戒と聞いてイメージするのは
クビ(懲戒解雇)、降格、減給などでしょうか。

その他にも様々なものがあります。
下記に紹介していきます。

けん責・戒告

けん責は、始末書を書いて反省せよ、というものです。誡告は、始末書を書くことはせず、以後気をつけなさい!というものです。
懲戒の中でも軽いものです。行為者に、実質的に何か不利益があるものではありません。

減給

お給料を減らすよ、ということです。
減給については2つ、勘違いをしやすいポイントがあります。

1つめ「お給料が減って生活できなくなるのではないか」。
安心してください、そこは法律で守られています。
減給できる金額と言うのが決まっています。

労働基準法91条
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。

つまり、平均賃金(ここではざっくりと1日の給料とします)が1万円の人に対しては5,000円までしか減給できません。
月に200,000円もらう人であれば、何回も同じ失敗をして、毎日5,000円のペナルティがあったとしても、20,000円までしか減給できない、ということになります。
※この場合40,000円分のペナルティがあった場合は翌月に20,000円分を繰越し、減給することはできることになっています。世の中甘くない!

不祥事があった企業で役員報酬を30%カットする、など大きく報酬が減らされるニュースを目にしたことがあると思います。
あれは、役員(従業員ではなく、会社の経営側の人たち)なので労働基準法の対象に当たらず、大幅にカットされているのです。

例えば、大きな会社の役員で報酬が1億円の人から30%カットの7,000万円になっても生活はできます。一方で、物価の高い東京で一人暮らしの新入社員が、20万円のお給料を14万円に下げられたら、生きていけません(涙が…)。生活が脅かされることがないよう、減らす額に制限を設けています。

2つめ「遅刻した分賃金が支払われないのは減給ではないのか」。
遅刻して反省文を書いた。(この後出てくる)出勤停止になった。
さらにこの期間のお給料をもらえないのは2重に罰を受けていることになるんじゃないの?という疑問があると思います。
これは「ノーワーク・ノーペイの原則」として、減給には当たりません。
働いていない期間のお給料を払わないという当然のことです。
お給料は何もしないで銀行口座に振り込まれるものではありません。

降格

服務規律違反をした労働者への制裁として、役職、職位、職能資格などを下げることです。
「服務規律」は、企業の秩序を守り維持するもの、と捉えると良いです。
就業規則に記載されていることがほとんどです。
横領やパワハラやセクハラなど、明らかにダメなことをした場合はもちろん服務規律違反になります。企業「秩序」を守る、と言う意味では服装がだらしない、遅刻などが目に余る場合も違反になり降格対象になることがあります。
降格は懲戒のほか、人事権の行使(例えば、半期の査定で下位10%に入ることが連続して4回のため、降格など)として行われることがあるため、区別が必要です。

出勤停止

服務規律違反をした労働者への制裁として、労働契約を維持したまま、一定期間就労禁止とするものです。多くの場合、期間は1~2週間です。その間は働いていないので給与は支給されない、としている企業が多いです。
この出勤停止期間の上限は法律では定められていませんが、1箇月を超える長期の出勤停止は裁判所で有効性を審査されることがあります。

解雇(諭旨解雇・懲戒解雇)

懲戒処分の「解雇」には2つあります。
諭旨(ゆし)解雇懲戒解雇です。
懲戒解雇の方が重く、それよりはゆるい(甘い)制裁が諭旨解雇です。

まずは諭旨解雇についてです。
これは解雇ですが、形としては退職願を提出し、自己都合退職、となります。
懲戒解雇相当の理由があったとしても、行為者が長年会社に貢献してきた社員であったり、大きな実績があるなどの場合「情状酌量の余地あり」として諭旨解雇になることがあります。

解雇の30日前に本人に伝える「解雇予告」をしなければいけません。解雇までの期間が10日しかなければ、予告期間に足りない分、20日分の解雇予告手当(平均賃金の20日分)が支払われます。
退職金の不支給、一部減額が就業規則にあれば、その処置もとられます。

次に懲戒解雇。最も重い懲戒処分です。

懲戒解雇であっても法律上は、解雇予告を行う必要はあります。
即時解雇を認める場合は本来は手続きを踏まなければなりません(これも労働者を守るため・使用者の権利濫用にならないためのルールです)。

ただし「労働者の責に帰すべき事由が客観的に存在」、つまりどう考えても労働者に責任があることだし、労働者が悪いのであれば、解雇予告除外認定(労働基準監督署長による解雇予告はしなくていいよという認定)を受けなくても有効に即時懲戒解雇できる場合があります。

例えば、ニュースで
「昨日未明〇〇株式会社の元社員が、会社のパソコンから個人情報を抜き出し、うんぬんかんぬんで逮捕。」
のようなとき、犯罪を犯していたときは社員だったが、ニュースになった時点では社員でなくなっているということがあります。

これは、犯罪を犯しているのに諭旨解雇など悠長なことを言っていられないため、即時解雇したということです。

懲戒解雇の場合は、退職金が支払われないことがほとんどです。
退職金には功労報償的な意味があるため、それを打ち消すほど重い懲戒処分であるからです。

【参考】
石井妙子 西濱康行 石井拓志 著 労務行政研究所 編
「第2版 懲戒処分適正な対応と実務」労政時報選書(2018)

LEGAL MALL BIZ
https://business.best-legal.jp/85/

次回は「何をしてしまうと懲戒処分になるのか」これまでよりも少し詳しく見て行きます!

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