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些細なことからすれ違ってぶつかり合う(1年の夏の終わり頃)

3回生になり諸事情あって毎日一緒にバス通学する彼と1回生の時に大喧嘩した。

すごく子どもだった
些細なことで思いきり喧嘩して
怒られて呆れられて泣いて仲直りして
思ってた以上に大学生って幼かったと思う

あの日のことは今も残る傷跡に触れれば
わりと鮮明に思い出せる

1年は用具の管理を覚えると言う意味も込めて
定期的に弓具検査をされる

そのあとに備品の補修をやるために
雨風を凌げる建物の下で集合した
的の補修は1回生の仕事だ

だから男子と女子合同で弓具に不備がないかチェックされる

レストの位置
プランジャーの減り具合
ノッキングポイントは綺麗か
矢羽はかけていないか
タブは消耗してないか

点検項目はかなり多い

このあとまさか、同期と大喧嘩になるとは思わなかった


弓具検査の時にアローケースに入れていた矢を
同期に見られた
1本だけ明らかに私のものじゃない矢を納めていた

当時付き合いたての先輩の使っていた矢だった
歴代選手の中でも高いスコアを残して卒業した
お守り代わりに1本もらった

それを咎められた
「お前、そういうのやめろよ」
「なんで?関係ないでしょ」

「なんか見せつけられるみたいでさぁ。見てて嫌だ、みっともないぞ」

「なに?なんでそんな絡んでくんの。鬱陶しい」

「鬱陶しいってなんだよ」

肩を掴まれかけて避けた私の位置が悪くて、たまたま私の頬にパチンと同期の手が当たった

「はぁ?何してんの?」
私も胸ぐらを掴んで睨みつける

「離せよ!!」同期も振り払おうとするが
片手だけは離さなかった
「やんのか?」

私の腕を絡めるようにして地面に叩きつけられる
たぶん合気道の技だ
そのままマウントをとられて
「力で男に敵うと思うなよ!」と言われた

カチンときた
ああ、やってやる

ブリッジから隙間を作り脚を入れ込み
腕を掴んでひっくり返す
マウントを返すついでに腕を掴まえる

「お前軽すぎ。余裕で抜けれる。男なら筋肉で100kg越えろ。貧弱。童貞もやし野郎、受け身くらい取れるよなぁ?!」

よほど腹が立ったのか突き飛ばされて
立ってお互い構える


立ち技になって睨みあう
間合いを詰めようにも距離感がまだ分からない
八相の構えをしている
少林寺か、中段を誘う型だったな
よく分からんな
経験者なら当ててもいいか

しばらく組み合って服の後ろ(奥襟)を取ろうとしてくる
身長差があるからこちらが不利だ
締め技?
距離をとって素早く回って中段に蹴りを入れる
やっぱり固い

着地した時にやっぱり足を払ってくる
力を入れていたので何ともない

足を刈って倒してもいいけどコンクリートだし
無意識に打撃で攻めていく

ただその間も手はお互いの袖や襟を取り合っていた

埒があかない
長引くほど体力的に不利になる
関節か寝技で絞めたい

思い切り足を開いて姿勢を落として
下段で足を崩す

相手に片膝を膝をつかせて姿勢を崩して
腕から脇にかけて掴み思い切り飛び込む
飛び関節で足を相手に絡める

まず自分の背中をコンクリで強打した
砂と石が背中にザラつく感覚があった

そこからひっくり返して仰向けになり
同期の腕をひねりあげて曲げられない状態にして
胸に固定して自由を奪う

「外せるなら外せよ。」
「女は力で敵わないんでしょ?」
「やってみなよ」

外そうと暴れるほどに固定されていく

一緒に作業していた同期が止めに入っていたが私たちはその制止が耳に入らないほど頭に血が昇っていた
あまりにヒートアップして収拾がつかず上回生が仲裁にきた

「ちょっと!!何してんの?!」
「りょうちゃん?!やめなさい」
「2人とも離れろ」

めっちゃ怖い先輩たちが来た

「コイツまだ参ったしてません。」
ハァハァ言いながらとギリギリと締め付ける

「ほら?言うことあるだろ?」
「負けたって言えよ」
さらに痛めつける

「言わねぇよ!!」

「ちっ!!もういい!大ッ嫌い!」

「だから、もうやめろ!って言ってるだろうが!!」

そう言われて足と手を外す。

2人とも痛みがあって中々起き上がれなかった
「関節するとか信じられねぇ…」と腕をさすっていた

私は背中が痛くて黙っていた


少し時間が経っても
お互いにむくれたまま目もあわせず
事情を聞かれた

「先に顔を殴られました」

「わざとじゃないのにめちゃくちゃキレてきたのはコイツです」

上回生がハァ〜…とため息をつく

「お互いの意見が正反対すぎ」
「もう野良猫の喧嘩レベルやな」
「ふたりとも頭冷やしなさい」

2人とも渋々連れていかれる

罰として何時間か正座することになった
静かな反省部屋がある

正座する前に先輩からお叱りを受ける

「いい?まずはりょう。すぐに感情的にならないこと。私たちは一歩間違えば人を傷つける道具を扱ってるの。こころを常に平たく保ちなさい。あと言葉遣いも直しなさい。いくらなんでも口が悪すぎるわ。あとあんなコンクリートのところでよく分からないアクロバットなことしちゃダメ、怪我するし怪我させるよ。」

…はい。ごめんなさい。

「〇〇くん(未来の元彼season2)、前後に何かきっかけがあったのかと思うけど、顔に当たった時点で謝りなさい。わざとじゃなくてもね。あと女の子蹴ったり掴みかかっちゃダメよ。この子は例外かもしれないけど、男の子なんだから本来は非力な女の子を助けてあげて欲しい。」

「2人とも、同期は1番長い付き合いになるのよ。なるべく早く仲直りしなさい。」

…はい。すみませんでした。

「じゃぁ、いいって言うまで座っててね。
…喧嘩しないでよ?」
そういって扉が閉まる。


喧嘩した直後はアドレナリンが出ていたのか痛みはなかったけどどんどん背中が痛むようになってきた

やっぱ道場以外でやるもんじゃないなと後悔する
静かな空間で突然同期がこちらを向く気配がした

「ごめん」
謝られた

「…」
謝りたいし仲直りしたいけど、上手く言えない
恐る恐る顔を見る
同期の顔を見て本心から出た言葉だと思った

「私も…うわぁぁぁーー!ごめん…なさい!」
「ごめん!怪我してない?もう痛くない?」
「あぁー!うわぁーー!!…」

「俺もお前と喧嘩なんかしたくなかった!ごめん!」
「俺、お前の彼氏が嫌で嫉妬した」
「居ないのに存在感出してくる感じが悔しかった」
「だから嫌な言い方した、ごめんな」

2人でワーワー泣いて結局、ごめんごめんと謝りあう

正座をしながら涙や鼻水を拭うジャージは
べちゃべちゃに汚れていく

ボロボロと涙も止まらない。
痛みでうめき声が出る。
ぐずぐずと唇を噛んで耐える。

正座から土下座のような姿勢になり
しんどいよぉ…フラフラする…
助けてと言いたいが言えない

「なぁ、どうした?どっか痛い?」

「痛い…もう無理だ。どうなってるかちょっと見て?」

「え?どこ?」

「腰から背中」

紺色のジャージを脱いだ
脱いだ途端に「ひっ!!」っと言われる。
下に着ていた薄水色の練習着の背中が血まみれになっていた

「ちょっと!お前背中が!」
「あぁ、やっぱりめくれてる?」
「痛くないか?すげぇ血が出てるよ」
「めちゃくちゃ痛いんだってば」

先輩、呼んでくる。
こんな正座なんかしてる場合じゃない。
そう言って飛び出して行った。

2人とも走ってきてくれる

「ちょっと!怪我してたなら先に言いなさい!」
「医務室行こう」
「すみません、1人で行けます」

「強がらない。連帯責任、付き添ってあげて」
「あとで報告来てね」

はいと2人で返事する

医務室まで身体を庇って歩く

さっきの喧嘩のこと話しかけられる

気になってたんやけど
最後跳び関節する時にわざと俺に膝つかせたよな?お前だったら普通にジャンプで届くんじゃ?

「普通にやってたらアンタの膝の皿割れてたよ、多分ね。」
だから片足崩して衝撃を軽くするようにした

え?俺、手加減されてたの?
そうだよ。
寝技もやめといた
上四方固とかかけたらモロじゃん?笑

力じゃ敵わなくても勝てることもあるの
はじめにマウント取られた時、目潰しも考えたけど、ちゃんと技で抜けたでしょ?びっくりした?

すげぇびっくりした。
力の使い方が普通じゃなかったから
通ってた道場で女子と組み手することもあったけどあんなこと出来る奴いなかった

私からも質問する
もしかして合気道と少林寺やってた?
構えがそうだったし、はじめに投げられたのは合気道だよね?

うん。そこそこ習ってた。
お前は?見た感じ空手と柔道か?

んー、まぁそんなところやね。満遍なく色々とね。

どんな教育受けてきたんだよ…殺し屋かよ…

失礼だな。いろいろと事情があって。お父さんから「自分の身は守れるようにしないといけない。特にこの子は女の子の服装させちゃダメだ。犯罪に巻き込まれる」って、大袈裟だよね。

「だから小学校高学年まで髪も男子みたいだったしスカートなんか履いたことなかったよ。」
でも痛いのも怖いのも汗くさいのも嫌で武道からスポーツにしちゃった。

半分くらい歩いて
あ〜もう無理と
壁に横向きにもたれかかる

「ねぇ、おんぶして?」
「うん、最初からそうしてあげたかったけど嫌がるかなって思って」

こんな話をしながらも背中がズキズキと痛む。
「んっ…痛い」

振動で血が固まって背中から練習着が剥がれる感触が分かってしまう。

自業自得だよね…。
1週間くらいお風呂はシャワーでも激痛かなと笑う

医務室で背中の皮がめくれてる範囲は広いけど深くはないからねとかなり大きい医療用の防水絆創膏を貼ってもらった

消毒してもらう時と服を傷口から剥がす時に悲鳴をあげそうになる。声をおし殺して耐えた。ギャーギャー言うとアイツ気にしそうだと奥歯を噛んで耐えた。

腰の方は石が刺さっていた跡があり、こっちの方が長くかかるかもと言われた。

服はぬいでジャージを着る。
裸にジャージという変態スタイルの完成。

コレ、気に入ってたんだけどな
血液、染み抜きできるかな
無理かもなぁ…と気持ちが沈む

「大丈夫か?」
「うん、割と平気。」
嘘だった。本当は大声で痛いと叫びたい。

次の日の朝の練習場の掃除の時に、同期からドラッグストアで買える1番大きい防水の絆創膏をたくさんもらった。
「昨日ごめん、俺のせいで。女の子なのに痕残ったらどうしよう」

「ありがとう。助かる。別にちょっとくらい傷跡あってもいい。もう傷なんてたくさんあるし気にしないよ。見る?それに背中は自分じゃ見えないし。あと、女の子って言わないで。なんか恥ずかしい」


共通の授業中を一緒に受けている同期たちに昨日のこと2人で謝る。もう仲直りした。
「よかったねぇー」と言われる。
心配をかけていたことを心から悪いと思った。

これから先、彼はいろんな場面でとても力になってくれる。彼のことを忘れられない出来事になった。

この喧嘩以来、何があっても絶対に手を出さないしお互いを気にかけるようになった。

一方的に理不尽な怒り方や泣き方をして困らせることはあったけど、それに対しても絶対に突き放すようなことはしなかった。身体の調子を崩すたびに寄り添ってくれた。

半分未遂に終わったが性犯罪に巻き込まれて一時的に何も出来なくなったこともあった。信頼していた先輩に学内で突然襲われた。暴力を振るわれて視界を奪われて、口に入れられ騒いだら殺すと脅された。 
逃げるために心底嫌だが口に入れられたソレを噛み切る勢いで力を込めた。うずくまった隙に必死に逃げて同期たちに助けてもらった、その後、登校出来なくなった。

布団からも出れなくなりずっと眠り続け、何かのきっかけで思い出しとパニックを起こしてうずくまった、薬を飲んで落ち着くまで側にいてくれた。どんな時も根気強く待ってくれた、動けるようになるまで近くに居てくれた。
解決に向けても一緒に動いてくれた。

学生時代の1番いい時期に彼と同じ時を過ごせたのは今でも幸運だったと思う。

彼と住んだあのマンションを帰省するたびに見かけては、マンション下の自販機で売っている懐かしいあの缶ジュースが飲みたくなる。

今でもあの狭い部屋に住みたいと思うよ

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無印良品のポチ菓子で書く気力を養っています。 お気に入りはブールドネージュです。