[咲様] 1. はじまり

【1年生9月/No.10side】

「はい!咲様!」
これが私に許された返事だ。

咲(さく)様は私のクラスメイトで、私にとっては神様のような、絶対的な存在。
一方、咲様にとって私はただの召使い。

咲様とは高校1年生で同じクラスだった。
出席番号が隣で、通学の電車が同じだった私たちはすぐに仲良くなった。
でもそれは入学したてだけの関係性だった。

私は本来咲様と仲良くしてもらえるような立場にいない。
咲様はトップアイドルみたいに可愛いお顔で、誰からも好かれ、常に輪の中心にいるタイプ。輝かしい人生が約束されている人。
かたや私はどこにでもいる一般庶民。ブサイクではないと思うけど、決して可愛くもない。きっと平凡な人生を送っていく人間。

そんな私が咲様と高校入学したての短い期間だけでも仲良くしてもらえたのは、神様が私に与えてくれた人生のボーナスタイムだったんだと思う。
次第に咲様は他の華やかな子たちとよく関わるようになり、一方私は同じ美術部の分相応な友人たちと仲良く過ごすようになった。

それからしばらくは咲様のことは見ているだけ、憧れの存在だった。
電車ではあえて咲様と同じ車両に乗って咲様を鑑賞し、教室でも常に黒板ではなく咲様を眺めていた。

1年生の5月末。
咲様が日直だったある日、咲様は放課後に日誌を書き終え職員室へ提出しに行こうとしていた。そんなときに咲様のお友達が教室に入ってきた。

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