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PGT-Aって、結局どうなの!?~第2回~

はらメディカルクリニック院長の宮﨑です。
今日は、PGT-Aって結局どうなの!?の第2回です。

PGT-Aは、胚(受精卵)を子宮に移植する前に、胚の染色体異常を検出するための技術で、簡単に言うと、PGT-Aを行なって染色体正常な胚だけ移植することで出産率の向上を目的とします。これだけ聞くと、安心安全で万能な検査に思えるのですが、実際、PGT-Aはメリットとデメリットが複雑に絡み合っており、どの患者様にとって有益なのかを把握するのは容易ではありません。

第1回では、PGT-Aの適応とPGT-Aの有効性についてお伝えしました。

第2回となる今回は、PGT-Aが効果的な年齢について詳しく見ていきます。


PGT-Aが効果的な年齢は?

PGT-Aは年齢が高い女性に有効であるということが、第1回の考察でわかりましたが、年齢が高い女性とは、具体的には何歳のことを指すのでしょうか?

高齢であれば何歳であっても効果が期待できるのでしょうか?答えは、「ノー」です。実は、一定の年齢を超えるとその効果が低下する可能性があります。

以下に、これまでの文献をもとにPGT-Aが効果的な年齢と、逆に効果が低下する年齢について考察します。

1. 35〜39歳の考察

文献1: Forman, E. J., Hong, K. H., Ferry, K. M., Tao, X., Taylor, D., Levy, B., & Scott, R. T. (2013). In vitro fertilization with single euploid blastocyst transfer: a randomized controlled trial. Fertility and Sterility, 100(1), 100-107.e1.

概要: 35歳以上の女性に対するPGT-Aの効果を評価したランダム化比較試験。

考察: 35歳以上の女性において、PGT-Aを使用した単一の正常染色体胚移植が妊娠率を向上させることが示されています。染色体異常のリスクが高い高齢女性では、PGT-Aが正常な胚を選別することで妊娠成功率を高める効果があります。

 文献2: Capalbo, A., Rienzi, L., Cimadomo, D., Maggiulli, R., Elliott, T., Wright, G., ... & Ubaldi, F. M. (2014). Standardization of blastocyst biopsy protocols for preimplantation genetic diagnosis/screening (PGD/PGS): a systematic review. Human Reproduction Update, 20(6), 907-920.

概要: 胚盤胞生検の標準化プロトコルに関する系統的レビュー。

考察: 35歳から40歳の中間年齢層において、PGT-Aは有効であるとされています。この年齢層では染色体異常のリスクが増加し始めるため、PGT-Aを使用することで正常な胚を選別し、妊娠率を向上させる効果があります。

2. 40歳以上の考察

文献3: Munné, S., Wells, D., & Cohen, J. (2010). Technology requirements for preimplantation genetic diagnosis to improve assisted reproduction outcomes. Fertility and Sterility, 94(2), 408-430.

概要: PGT-Aの技術的要件と生殖補助医療の結果改善に関するレビュー。

考察: 40歳以上の女性では、卵子の質が著しく低下し、染色体異常のリスクが大幅に増加します。このため、PGT-Aを行っても正常な胚が得られる確率が低く、結果として妊娠率や出産率の向上に対する有効性が低下する可能性があります。

文献4: Gleicher, N., Kushnir, V. A., & Barad, D. H. (2014). Preimplantation genetic screening (PGS) still in search of a clinical application: A systematic review. Reproductive Biology and Endocrinology, 15(1), 64.

概要: PGT-Aの臨床応用に関する系統的レビュー。

考察: 42歳以上の女性では、PGT-Aの有効性が限定的であることが示されています。胚の質が低下し、PGT-Aで正常な胚を見つける確率がさらに低くなるため、PGT-Aのメリットが低下します。

3. 45歳以上の考察

文献3: Franasiak, J. M., Forman, E. J., Hong, K. H., Werner, M. D., Upham, K. M., Treff, N. R., & Scott, R. T. (2014). The nature of aneuploidy with increasing age of the female partner: a review of 15,169 consecutive trophectoderm biopsies evaluated with comprehensive chromosomal screening. Fertility and Sterility, 101(3), 656-663.e1.

概要: 45歳以上の女性の胚における染色体異常の自然発生率についてのレビュー。

考察: 45歳以上の女性では、胚のほぼすべてが染色体異常を持つ可能性が高く、PGT-Aを行っても正常な胚を見つける確率が極めて低くなります。このため、PGT-Aのメリットはほとんどなくなります。

PGT-Aが効果的な年齢のまとめ

A. 35〜39歳の有効性

有効性あり: PGT-Aの有効性は、35〜39歳の女性で特に大きく発揮されます。この年齢層では染色体異常のリスクが増加し始めるため、PGT-Aを使用することで正常な胚を選別し、妊娠率を向上させる効果があります。

B. 40歳以上の有効性

有効性の低下: 40歳以上の女性では、卵子の質と染色体の正常性が大幅に低下するため、PGT-Aの有効性が徐々に低下します。正常な胚が得られる確率が低くなるため、PGT-Aの効果が限定的となります。

C. 45歳以上の有効性

有効性の著しい低下: 45歳以上の女性では、ほぼすべての胚が染色体異常を持つ可能性が高く、PGT-Aのメリットはほとんどなくなります。この年齢層では、PGT-Aを行っても正常な胚を見つけることが非常に難しいため、PGT-Aの効果は非常に限定的です。

現実的には、40〜44歳の患者様の場合、1回の採卵でグレード良好な胚盤胞が多数得られるのであれば、PGT-Aのメリットは(40歳未満の患者様よりは低いものの)ある程度期待できますが、1回の採卵で得られる胚盤胞が少ない場合にはメリットがあまりなさそうです。また、45歳以上の患者様には基本的に強く勧められるほどのメリットはなさそうです。

若年女性へのPGT-A

ここまでは、35歳以上の女性について考察してきましたが、PGT-Aの有効性は、若年女性に関してはどうでしょう?

若ければ若いほど有効性があるかというと、答えはもちろん「ノー」です。

続きは、次回の~第3回~へ続きます。このシリーズ、書きたいことが多くて第何回までもいきそうです…お付き合いいただけると幸いです。


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