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漢江のこと

 出張で、一度だけ韓国に行ったことがある。

 そのとき、私はまだK-POPも聞かなかったし、韓国ドラマも見ていなかったし、もちろん韓国語も勉強していなかった。日帰りの出張で(当時も思ったがかなり乱暴なスケジュールだ)、仁川空港からタクシーで1時間かもう少しくらい走ってオフィスへ行き、そこで一つ打ち合わせに同席して、そのまま再びタクシーで空港に戻ったので、看板や標識がハングルで書かれていたことを除けば、そこが韓国だったのかどうかもよくわからなかった。

 ただ、打ち合わせの場所がオフィスの高層階にあったので、窓から漢江がよく見えたのを覚えている。「漢江は、冬の寒い時期になると凍ることがあって、歩いて向こう側に渡れますよ」と、あれは通訳の人だっただろうか、が教えてくれた。私は、ソウルの真ん中をあんなに大きな川が流れているということも、韓国の冬が日本よりずっと寒いことも、恥ずかしながら当時は知らなかったので、とてもびっくりした。「歩いて渡れる」というのは、たぶんやや誇張した表現だったとは思うが。

 そのときは夏で、漢江は、きらきらしていたような気もするし、ただのっぺりと視界に面積をとっていたような気もする。

 韓国ドラマを見ていて漢江が出てくると、あのときのことを思い出す。