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5月の短歌

25の最初の夏はIQOSの1本分で滲むサンダル

5月のはじめ。実家のベランダに出て煙草を吸っていた。1本吸っただけで、足とサンダルの間がしっとりとしていた。

首筋で味わう肩の滑らかさ
消えゆく煙草の光になれたら

同じ煙草のうた。

並んで寝るときにしか触れない皮膚で、隣の皮膚の感触を確かめる。自分とは違う生き物だと改めて感じる。
自分とは違う好きな生き物が、隣で寝ている事を幸せに思う。
同時に、自分とは違う生き物だからこそ、いつかはいなくなってしまう可能性について考える。
薄暗闇で光るIQOSのライトはチカチカ点滅している。もうすぐ消えるのだ。
好きな人が隣りにいる幸せなうちに、このチカチカと一緒に消えてしまいたいと考えてしまう。

朝だよと赤子をあやす強弱で私を起こすその為の朝

休日の朝。なかなかベッドから出られない私。
このままでは休日が終わってしまう。
目を覚ますために、背中を叩いて!と恋人に頼む。
えぇ…と言いながら渋々叩く。
その手の余りの優しさに
「そんなんじゃ逆に寝ちゃうじゃん」
と笑う。赤ちゃんの寝かしつけじゃないんだから。

恋人の穏やかで温かい優しさが朝日のように眩しい。その為に朝を迎えたいとすら思う。

16時ベランダからは陽の布団
我は夕日の胎児となりて

今度は夕方のうた。

実家のベッドルームはすぐベランダに出られるようになっていて、陽の光が薄いカーテンを透かして降り注ぐ。
学生時代は土日のお昼寝を楽しみ、病棟勤務時代は夜勤前の束の間のダラダラを楽しんだ。
陽の光をたっぷり含んだお布団に下着でもぐり込み、お気に入りの曲を小さく流す。大好きな時間のうた。

赤点の君は木の実と間違われ中庭の鷺と夢の巣の中

高校の同級生と呑んだ。
私のクラスは、数学の時間だけ定期テスト毎にその点数の高い順に席替えをさせられた。
廊下側1列目が成績優秀者。
窓側最後尾は数学苦手組だ。

私の高校は緑に囲まれていて、窓から見える中庭にはよく鷺が来ていた。
彼はいつも赤点スレスレで窓側にいて、授業中は居眠りをしている事が多かった。
優秀ともドベとも言えない成績の私は、教室の真ん中らへんから夢の国にいる彼と、白鷺を眺めていたのを覚えている。

鉄棒を握った掌を嗅いでから
「血になった」ってこちらに渡す  
(お題 公園)

小さい頃から鉄棒の血の匂いが苦手だった。
医療職になってから血や肉の焼ける匂いや、臓器等沢山見たが、鉄棒の匂いはどうしても好きになれない。失敗して、顔を打ち付けて口の中に血の味が広がる想像をしてしまうのだ。
痛みの記憶が伴うが故に生々しいのだろう。

死にたさを塗り潰す為描く絵は
姉の瞳でこちらを見てる

希死念慮が高まる。気を反らせるために絵を書いたり、文を書いたりする事が多い。
絵を描く際は、専ら女性を描く。
私にはこの世に生まれてこれなかったきょうだいが二人いるらしい。
死にたいな。と思う時に描く女性になんとなく、生まれてこれなかった姉がいたらこんな感じかな、と思うことがある。縋っているのだろうか。

月ならば欠けゆく己に耐えうるか小望月の眼の君は

「首筋で〜」のうたと同じような月の短歌。
こんな感じの悩みを今月はずっと抱えていた気がする。

満月の私にするのだ
骨格の高いところにハイライト置く 
(お題 満)

化粧が好きだ。その中でも、ハイライトを置く瞬間が一番楽しい。

起きてすぐ送った朝の挨拶に
布団にいる間に返事が届く

朝起きてすぐ、ベッドの中でおはようのLINEを送る。
布団の中でダラダラとSNSを見ていると、恋人から返信が来る。嬉しい気持ち。
それに対して自分はすぐに既読をつけるのが恥ずかしくて、そろそろ布団を出なきゃだしな、と言い訳をする。

いつかあのヴィンテージシャツを洗う為
アメリカから来たどデカい洗剤

服を傷めないように、極力洗わないらしい。
洗剤はアメリカ産の専用のを使うらしい。
そんな話を聞きながらつくったうた。



先月よりはあまりつくれなかった。
来月からは仕事も再開するが、少しずつでも作り続けていきたい。

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