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「看護師のUber」とよばれるKlarah社を徹底解析

Klarah社はカメルーンに拠点を置くスタートアップで、患者と看護士をつなぐ医療プラットフォームを提供しています。彼らのサービスは、近くにいる看護師を呼ぶことが出来る「看護師のUber」とも言える存在で、患者のニーズ、看護士の経験、また双方の位置情報に基づいて患者と看護師をマッチングする、今までにない試みを実践しています。ここでは、Klarahとはどのような会社なのか、その成り立ちと提供しているサービス、さらにはどのように現地の人たちに受け入れられたのかなどを徹底的に解析していきます。


カメルーンとは

まず始めに、カメルーンとはどのような国なのか、医療状況なども交えてお伝えします。

カメルーンの特徴

カメルーンは、アフリカ大陸中部に位置し、ギニア湾に面した国です。一番の特徴は、なんといっても多様な民族と言語であり、約250の民族と言語が存在し、アフリカ諸国と比較しても文化的な多様性が強くみられる国です。

また、カメルーンは「アフリカの縮図」ともよばれ、地形や気候が多様であり、アフリカ全体の特徴を持っています。特に、カメルーン山(標高4,090m)は中部アフリカの山の中で最も高い山であり、多様な気候が特徴として挙げられます。

※参照URL:カメルーン共和国(Republic of Cameroon) | ざっくり学べる 世界の国々 (zakkuri-world.com)
※参照URL:カメルーン - Wikipedia

カメルーンの医療の現状

カメルーンの医療状況は、他のアフリカ諸国と同様に欧米諸国に比べるとそのレベルは低く、いくつもの課題が山積みになっています。特に深刻なのは、都市部と農村部における医療機会へのアクセシビリティの格差です。

都市部では比較的高品質な医療が提供される一方、農村部では医療施設までのアクセスが少なく、多くの人が長い時間をかけて医療サービスを受けられる場所まで行かなくてはなりません。

また、医療施設の不足だけでなく、国内の医療水準も劣悪な状況にあり、国民の平均寿命は58歳と短命です。実際に、虫垂炎などの簡単な手術でさえ死亡するケースも報告されています。さらにカメルーンでは感染症も蔓延しています。

具体的にはマラリア、腸チフス、アメーバ赤痢、コレラ、髄膜炎菌性髄膜炎、狂犬病、住血吸虫症などが挙げられるほか、現在、カメルーン北西州を含むアフリカ中部では、髄膜炎ベルトと呼ばれる、髄膜炎菌性髄膜炎の最大の流行地帯も存在します。このようにカメルーンでは、日本や欧米諸国とは違い、軽症とされるケガや病気が深刻になるケースや、日本や欧米諸国では事例が少ない感染症により多くの人たちが苦しんでいます。

※参照URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/africa/cameroon.html
※参照URL:日本の医療制度とカメルーンの医療制度の違い (worldsnap.net)
※参照URL:カメルーン:暴力事態下にある地域で医療が受けられることが重要課題 - 赤十字国際委員会 赤十字国際委員会 (icrc.org)
※参照URL:カメルーン北西州:数千人が緊急医療を受けられず命の危機に MSFは活動停止命令の解除を要請 | プレスリリース | 国境なき医師団

Klarah社の起業背景

カメルーンで大学に看護学部ができ始めたのは2001年頃で、目新しいものでした。のちにKlarah社のCEOとなるToh氏は、当時はまだ学生で、新しいものに対し強い関心を抱いていたことから看護学を大学で学ぶことを決意し、進学しました。

学部卒業後、Toh氏は民営と公営の両方の病院で看護師として働きます。その中で、病気にかかり体調が悪く移動が困難な患者が病院に通うことは正しいことなのか、疑問を抱き始めます。

Toh氏は、現在のスマホのような通信技術を活用し、何か看護師にできることは無いかと考え、現在のKlarah社のサービスの原型となる、テクノロジーとヘルスケアを融合させたアイデアを当時から構想していました。

しかし、当時のカメルーンの政策はToh氏の構想にとって障壁となっていました。なぜならば、当時は、セキュリティーリスクマネジメントの権限(医療事故を防ぎ、医療の質を保証するために、リスクへの対策を検討・実行できる)が看護師には与えられておらず、専門職としての知識や技量を発揮しきれない状況にありました。

また、看護師の雇用に対する環境も劣悪で、カメルーンには多くの看護学校があり看護師を養成しているにも関わらず、協議会など看護師たちを育て、守っていく組織が機能していないため、トレーニングも満足にできず、就職口がない看護師が多く現れてしまいました。そのため、人口10,000人に対して看護師が12人以下という状態で人材不足が続きました。

さらに、看護師の報酬水準についても課題があり、看護師という専門職でありながら、低賃金であるため看護師を辞める人も多くいます。これらの課題を解決したいという想いから患者と看護師を直接つなぐサービスを思いついたのがToh氏です。

※参照URL:https://www.cgfns.org/country/cameroon/
※参照URL:https://www.cnmpa.org/
※参照URL:Interview with Klarah's Founder & CEO, Ginyu Innocentia Kwalar - HealthTech Hub Africa

Klarahとは

ここでは、Klaraとはどのような会社なのかその成り立ちやサービスをご紹介します。

Klarah社とその成り立ち

Kalarah社とは、2021年に現在のCEOであるInnocentia Toh氏が始めた医療サービスの会社です。Toh氏は、病院で働く中で診察や治療、その他院内での手続きなどにかかる時間の長さが、医療サービスを患者に十分に行き届かせる事ができない要因の1つであると考え、本事業を立ち上げました。
そこで考え出したのが、訪問診療と遠隔診療です。患者が体調に問題がない時にも看護師が家を訪問し、頻繁にバイタルチェックなどの健康診断を行って家族と情報共有することにより、急病の際なども迅速に対応でき、病院に行く回数を最小限に減らすことができるのではないかとToh氏は考えました。
また、その情報を病院にいる医師と連携することができれば、患者さんたちの健康状態は飛躍的に良くなるだろうという結論に至りました。
そうして生まれたのがKlarah社です。Klarah社では専用のアプリを使い看護師と患者さんをマッチングさせ、質の高い医療を患者さんが自宅に居ながら受けられるようにしています。

※参照URL:※参照URL:Interview with Klarah's Founder & CEO, Ginyu Innocentia Kwalar - HealthTech Hub Africa

Klarahのサービス

Klarah社はさまざまな医療サービスの提供をしていますが、やはり特徴的なのは看護師によるケアに重点を置いているところです。

患者さん一人ひとりのニーズにもよりますが、Klarah社の訪問診療ではバイタルサインのチェックや測定、症状や病歴の聴取、身体検査の実施などの問診のようなサポートを行うものから、血液サンプルの採取、診断検査の依頼や創傷ケアの実施、ドレッシングの交換または医師との連携を取り、医師への治療方法の提案や薬の投与、患者さんのヘルスケア情報の管理まで一貫してサポートを行っているものまであります。
また、診察や治療だけではなく、患者さんに対する疾患についての教育、患者さんとその家族への精神的サポート、ケアプランの実施と評価、患者さんの支援先の推薦、コンサルテーションのための専門医のネットワークの提供のサービスも行っています。
そのほか、Klarah社では看護師のネットワークの提供も行い、看護師の技術レベルや人数確保に取り組んでいます。そのため、Klarah社と提携している看護師の76%が学士号、9.9%が修士号、13.5%がHND(英国が定めている資格であり、高度看護師(Higher National Diploma)と呼ばれている)を取得しており、全員が少なくとも2年の実務経験を持っています。
患者のデータの管理に関しては、業界最高水準のデータ基準を遵守しており、Klarah社のシステムは、GoogleクラウドとAWS(アマゾンウェブサービス)(※1)でホスティングされています。

※1:Amazon Web Services (AWS)は、世界で最も包括的で広く採用されているクラウドプラットフォームです。AWSは、データセンターから200以上のフル機能のサービスを提供しており、以下のような分野で活用され、Amazon S3 (Simple Storage Service): どこからでも好きなだけデータを取得できるオブジェクトストレージを保持しています。

※参照URL:アマゾン ウェブ サービス(AWS クラウド)- ホーム (amazon.com)
※参照URL:Smart Data Platform | NTTコミュニケーションズ 法人のお客さま
※参照URL:About Us - Klarah

Klarahの将来

ここでは、Klarah社の概要や今後の展望をお伝えしていきます。

Klarah社の事業概要や運営状況

crunchbase(※1)の情報によると、以下のような会社概要になっています。
・設立年:2021年10月31日 
・ユーザー数:未公開
・登録看護師数:+200 
・臨床検査数:20,000+
・代表取締役:Innocentia Toh
・代表的投資会社: Novartis
・会社ホームページ:Klarah
・総資金調達額: $20K.ドル

Klarah社は、Novartis - Norrsken HealthTech Hub 2021のチャレンジでトップ5のスタートアップに入り、その資金援助によりアプリを作り従業員の採用を始めました。Toh氏によれば、Klarah社は、患者とアプリに登録されている看護師とのマッチングをより快適に、素早く行い、サービスを受けるまでの時間を短縮することを目標として掲げています。

そのために、患者は簡単にKlarah社のアプリにログインでき、アプリに登録されている看護師にコンタクトを取り、自宅にいながらにしてケアを受けられるような「看護師のUber 」の仕組みを広げることが大切であると述べています。

看護師による訪問診療がUber のように普及すれば、農村部にいても健康の公平性が得られやすい平等な社会になるとToh氏は考えています。

※1:Crunchbase社とは民間企業向け探索およびリサーチソリューションのプラットフォームを提供している会社であり、企業の創設者、投資された金額、企業の成長段階、業界、所在地など、さまざまなビジネスに関する詳細情報がリストされています。
※参照URL:https://techblitz.com/startup-interview/crunch-base/
※参照URL:https://www.crunchbase.com/organization/klarah
※参照URL:Interview with Klarah's Founder & CEO, Ginyu Innocentia Kwalar - HealthTech Hub Africa

Kalarahの今後の展望

Toh氏は、Kalarah社はカメルーンが基盤ですが、近い将来、他国展開も視野に入ると述べています。

その理由として、カメルーンの医療問題は、他のアフリカ諸国にとっても同じ問題だと考えているからです。そのため、今後はルワンダ、ナイジェリア、ガーナといった国々に進出したいと考えていると述べています。

Toh氏によると、ユーザーの特性として、サービス利用料(治療費等)を支払うのは主に国外で働く「ディアスポラ」と呼ばれる人々で、患者として実際にKlarah社のサービスを利用するのはカメルーンに残っている彼らの家族であるパターンが多いそうです。

上記のような現象を踏まえ、カメルーンにいる家族の健康状態をディアスポラに知らせ、彼らが海外で安心して仕事を続けられるようなサービスを提供することもKlarah社の目標に掲げています。

また、Toh氏は大切なことは治療を受けるユーザーだけでなく、看護師の収入と立場の安定も大切であると述べています。Klarah社は国が認めた有資格の看護師が患者さんを担当する事により、他の同業種のスタートアップと差別化を行うことができており、今後も事業を通して看護師の立場や技術の向上に寄与したいと考えています。

※参照URL:Interview with Klarah's Founder & CEO, Ginyu Innocentia Kwalar - HealthTech Hub Africa

まとめ

Klarah社は、カメルーンを拠点としたヘルステックのスタートアップです。看護師による医療ケアを提供するUberのようなサービスを提供しています。このサービスは、看護師の経験と空き時間を活用し、患者が看護ケアを必要とする場合に迅速かつ効果的なサポートを提供することを目的としています。
また、Klarah社は看護師が自分のスケジュールに合わせて効率よく仕事を受けることができるよう、看護師の働き方にも焦点をあてました。このように、医療施設や個人の患者に対して看護サービスを提供するプラットフォームとしても機能しています。
このシステムは、通常のクリニックや病院での勤務だけでなく、患者の自宅やイベント会場などで行われる看護サポートも含まれており、現場に触れる機会が増加したことから、看護師の収入や技術力の向上にも貢献しています。
Klarah社は、カメルーン国内の患者と看護師、両者のニーズを満たしながら、看護師をはじめとする医療スタッフの地位の強化を目標に事業に取り組んでおり、CEOのToh氏も「誰もが質の高い医療を受ける権利があり、Klarah社はそれを実現するための会社である」と語っています。

ライター 増田さなえ

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この記事へのお問い合わせは、AA Health Dynamics株式会社 まで
Email:info@aa-healthdynamics.com


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