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医療費支払いアプリWiiQareを徹底解説

アフリカ諸国の医療サービスプラットフォームは前の記事でご紹介しましたが、現地の支払いに関するシステムの状況はどうなってるのかと思われる方もいらっしゃると思います。ここでは、コンゴ発の医療ファイナンシャルプラットフォームである「WiiQare」というスタートアップについてご紹介します。電子マネーの比較的普及している同国において、WiiQareはどのような企業なのか、どうして生まれたのか、その成り立ちや現地で受け入れられている理由などをお伝えしていきます。


コンゴ共和国

まずは、コンゴ共和国とはどのような国なのかご紹介いたします。

コンゴ共和国とは

コンゴ共和国とはアフリカ中央部に位置する国です。大西洋側に40kmの海岸線を持っています。地理的には、国土の大部分が赤道直下の熱帯雨林気候であり、国土の3分の1をコンゴ川流域が占めますが、国土の北部と東部には高原が広がっています。アフリカ大陸で2番目に大きな国であるため、アフリカ諸国の中でもコンゴの行政、経済、文化の中心地です。
コンゴ共和国は多様な民族から構成され (バクンゴ、コンゴ、サンガ等200を超す民族)、公用語はフランス語とリンガラ語が話されています。
また、鉱物資源(ダイヤモンド、金、銅、コバルト等)が豊富で原油の生産国でもあるため、一次産品の輸出に依存する典型的な資源国です。
※参照URL:Democratic Republic of the Congo (DRC) | Culture, History, & People | Britannica
※参照URL:コンゴ共和国基礎データ|外務省

コンゴ動乱とは

コンゴを学ぶうえで、欠かせない出来事があります。コンゴ動乱です。1960年にベルギーから独立した後に起こった一連の政変のことを意味します。
コンゴ共和国は豊富な地下資源の一方で、内戦などの紛争の影響で経済発展が阻害されてきた国です。ベルギーから独立しましたが、1965年から内戦が勃発し長期に渡る混乱期に入りました。1971年から1997年まで、正式には「ザイール共和国」という国名でしたが、これは当時の統治者であったMobutu Sese Seko元大統領が、よりアフリカらしい国名をつけるために変更しました。
1997年から第二次コンゴ内戦が勃発し、周辺国を巻き込んだ紛争は2003年に正式に終結したが、国の東部では戦闘が続いていました。
※参照URL:※参照URL:Democratic Republic of the Congo (DRC) | Culture, History, & People | Britannica

コンゴ共和国の経済状況

1990年から1995年にかけて、長引く紛争のために、経済成長率は年率マイナス8.42%を記録し、一人当たりの平均所得は1990年から2000年にかけて半減し、世界最低水準となってしまいました。
国家は破産寸前のため国民にはほとんど何のサービスも提供せず、国民たちは非公式のパラレル・エコノミー(闇市場)で商売をすることが増えていました。1990年代後半にはさらに第二次今後内戦が勃発し、経済の破綻はさらに深刻化しました。
コンゴ共和国は経済状況を安定させるための措置を講じ、IMFと世界銀行の参加を得て、経済の自由化、ハイパーインフレの打破、マクロ経済の安定を目的とした構造改革が行われました。
その結果を受けて2002年には、国内総生産(GDP)が10年以上ぶりにプラス成長を記録し、2000年代前半にかけても経済は拡大し続けている状況です。
※参照URL:Republic of the Congo Overview: Development news, research, data | World Bank.
※参照URL:Learn facts about Democratic Republic of Congo and poverty | Opportunity International.

コンゴ共和国の電子マネーの使用状況とその理由

電子マネーの発展には携帯電話の普及が必要不可欠になります。総務省の出している統計によると、2014年6月時点で、サブサハラアフリカ地域(46か国)における携帯電話のユーザー数は3億2,900万人で、同地域の人口普及率としては38%でした。


現在、サブサハラアフリカ地域は平均年齢が10代の国がほとんどであり、例えばナイジェリアでは平均年齢が18.2歳、コンゴ民主共和国では17.9歳です。25歳以上の人口に占める割合は30〜40%にとどまり、ナイジェリアでは25歳以上の人口が全体の37.5%を占め、コンゴ民主共和国では35.6%です。このため、サブサハラアフリカ地域の国々では、成人の多くが携帯電話を所有していると考えられ、コンゴ共和国でも他のアフリカ諸国同様に携帯電話の普及が拡大しています。
電子マネーに関しては、携帯電話の普及とともに、近年では急速にその使用範囲が拡大してきています。携帯電話の普及だけではなく、電子マネーが発達した理由は従来の銀行サービスへのアクセスが限られていたことも挙げられます。
コンゴ共和国では銀行口座を持っている人たちが極めて少なく、地理的にも銀行が不足していました。そのため、多くの人々が金融サービスから遠ざけられてきました。それ以外には、内戦の影響による金融インフラの脆弱性も挙げられます。 長年の内戦で金融インフラが疲弊し、現金の移動が困難になっていました。電子マネーなら携帯電話さえあれば送金できるため、魅力的な決済手段となり現地に受け入れられました。最後は政府による電子マネーの支援があります。コンゴ政府は2012年に携帯電子マネーの法的根拠を整備し、普及を後押ししました。
このように、従来の金融サービスが不足する中で携帯電話が浸透し、政府の支援もあったことから、電子マネーアプリが発達する環境が整ったと考えられています。
※参照URL:https://jp.reuters.com/article/idUSKBN1WI07U/
※参照URL:https://www.gsma.com/mobilefordevelopment/wp-content/uploads/2013/07/Mobile-Money-in-the-DRC_July-2013.pdf
※参照URL:https://nextbillion.net/mobile-money-in-the-democratic-republic-of-congo/
※参照URL:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc123120.html

コンゴ共和国の医療水準や病気

ここでは、コンゴ共和国の医療水準や、どのような病気が流行っているのかなどを解説していきます。


コンゴ共和国の医療水準

長い植民地生活や内乱の中で、コンゴ共和国の医療状況は困難の一途をたどっていました。植民地政府はコンゴ人の医療技術者と看護師を養成しましたが、医療行為はヨーロッパ人医師と宣教師に限定していたため、コンゴ人には医学の基礎しか学ぶことができませんでした。
独立後10年間は、コンゴ人の医療従事者、技術者、看護師が今まで培ってきた医療技術や知識を継続させ、1970年代後半には、ほとんどの医師がコンゴ人でしたが、その数は少ないままでした。
1990年代には、15,500人に1人の医師しかい無い状況であり、現在でも医師不足は続いていますが2004年には約9,500人に1人の割合となりました。
※参照URL:https://www.britannica.com/place/Democratic-Republic-of-the-Congo/Political-process

蔓延している感染病やその課題

コンゴ共和国は世界保健機関(WHO)や国連児童基金(ユニセフ)などの国際機関の支援を受けながら、政府は最も深刻で蔓延している病気、麻疹(はしか)、結核、トリパノソーマ症(眠り病)、ハンセン病、ポリオ、HIV/エイズとの闘いを続けていました。
それらの努力の甲斐があり、天然痘は1972年に根絶されました。その他の取り組みとしては、都市部と農村部の両方に、母子保健、衛生教育、環境の衛生的改善、予防医学・治療医学を提供するための特別なセンターやプログラムを設立しました。
上記のような医療インフラの改善も進みましたが、1990年代から2000年代初頭にかけては、長引く内戦のために医療水準が低下し続け、多くの人々が治療を受けることができないために、亡くなってしまいました。
また、HIV/AIDS、眠り病、さまざまな種類の出血熱などの感染症が発生しやすい国ですが、その病気以上に戦争終結時には、何百万人もの人々が家を失い、飢餓と病気に苦しみ命を落としました。
※参照URL:https://www.who.int/countries/cod
※参照URL:Political process - Democratic Republic of the Congo

WiiQareについて

ここでは、コンゴで生まれたWiiQareについて、どのようなスタートアップなのかその誕生秘話やサービス、どうして現地に受け入れられたのかなどをお伝えします。

WiiQareとアフリカ諸国の現状

WiiQareはデジタルヘルスウォレットです。アフリカの無保険者が医療貯蓄を構築し、医療へのアクセスと医療保障を改善するために簡単に送金できるようにするために生まれました。
2019年に設立され、コンゴ民主共和国の首都であるKinsashaを拠点としているスタートアップであり、このプラットフォームはブロックチェーン技術(※1)を利用し、プロバイダー(病院などの医療施設)やユーザー(医療従事者や患者さん)たちをつなげ、ペーパーレスなシステムを通じて医療支払いを簡素化することに成功しています。
アフリカでは、医療資金のメカニズムが不足しているため、治療を受けたくても支払い手段がないため受けられない人たちがたくさんいます。現に、大陸の8億人が医療費のための貯蓄ができず、保険にも加入していません。その結果、アフリカ諸国の人口の38%が健康危機に瀕していても治療を遅らせたり、治療を受けなかったりするとWHOは述べています。たとえ病院に行けることになったとしても、毎年1億1000万人以上が医療費のために貧困に陥っています。
アフリカ諸国では、個人が医療費を賄う手段を持っていないため、患者さんの家族や友人が主要な支払者となります。これには、医療のために毎年90億ドル以上をアフリカに送金する海外の多くの家族や友人も含まれます。しかし、この送金プロセスは送金手数料が高く、資金は通常、現金で受け取られ、送金したとしても実際に受け取り人に届いているのか確認できません。
※参照URL:Global-Monitoring-Report-on-Financial-Protection-in-Health-2021.pdf (worldbank.org)
※参照URL:Driving-Sustainable-Inclusive-Growth-in-the-21st-Century.pdf (worldbank.org)
※参照URL:WiiQare: An all-in-one digital platform for healthcare savings, payments, and remittances | UNICEF Venture Fund
※1:データを分散して管理するブロックチェーンの特徴は「分散型台帳技術」と呼ばれ、ネットワーク内の参加者が全員で取引の記録を分散して管理しています。つまり、分散されたデータベース上に多くのデータが同時に存在するため、自然災害やハッキングなどによってどこかのデータが消滅しても、他の参加者のデータが生きていれば全体としてのシステムを維持できるメリットがあります。

WiiQareができること

WiiQareは、海外からの資金の送金から病院や薬局での治療の時点まで、すべてデジタル化されたプロセスを提供しています。このプロセスにおいて、WiiQareは送金が実際に医療費に使用されていることを保証するため、ユーザーたちの資金をこのプラットフォーム内で管理しています。
国境を越えた決済プラットフォームはブロックチェーン技術を活用しており、従来の国際送金手段と比較すると追跡可能であり、手数料や課税されずに医療費用の送金を可能にしました。

そのため、WiiQareはそのソースコードを一般に公開し、オープンソースプロジェクトとしてそのシステムを構築し、透明性の高さを維持しています。これにより、WiiQare、医療やフィンテックの専門家、その他のパートナー組織など、より広範なコミュニティとの円滑な連携ができるようになっています。そのほか、WiiQareは、地域の小売店と提携し、顧客が日常の買い物から 「ヘルスクレジット」を獲得できるロイヤリティプログラムを提供することで、健康なうちから貯蓄を行う「健康貯蓄」という概念を大切にしています。例えば、WiiQareユーザーが提携しているガソリンスタンドで買い物をすると、WiiQareウォレットに7.5%のキャッシュバックが入るような仕組みになっており、ユーザーのウォレット内の資金は、病院や薬局への直接支払いで医療費を賄うことができます。
※参照URL:WiiQare | UNICEF Venture Fund

WiiQare誕生秘話

WiiQareの創設者であるKITIO BRICE氏がこのスタートアップを始めたのは、治療費を払えないために病気の治療を遅らせた家族がいたことがきっかけです。BRICE氏によれば「私はカメルーン(中央アフリカ)で生まれ育ちました。2年前のことでした。私の兄は、医療費が不足していたため、重度の髄膜炎にかかり2週間自宅で過ごしました。兄の健康状態が悪化した際に奥さんから私たちに連絡があり、支払いが不足している状況を話してくれました。治療費は全部で350ドルだったのですが、私たちは兄のために500ドルほどを早急に送りました。」この時に感じたことは、「年間4000ドル以上も医療費のために使っているのに、たったの350ドルが不足したために命を危険にさらすことができるのだろうか?もし残りの150ドルをどこかに蓄えておけば、次に病気になったとき、医療を受けられるのではないだろうか」ということでした。その後、私はアフリカにおけるハイテク・ブームを活用して、アフリカの人々が貯蓄をし、必要なときに早期に医療を受けられるようにするにはどうすればいいかを考え始めました。また、BRICE氏は家族がその状況を知ったとき資金を送りましたが、実際に資金が届くまで、すぐにのプロセスがいかに面倒で非効率的であるかを痛感したそうです。
上記のような経験から、BRICE氏は国境を越えた医療支払いを簡素化し、家族と子供たちの質の高い医療への財政的アクセスを改善するソリューションを構築することを決意しました。また、WiiQareは適切な医療財政システムがなければ、アフリカ大陸の10億人を超える人々のニーズに応えるために他の医療イノベーションを拡大することは困難であると考えています。


※参照URL:WiiQare - tech2impact
※参照URL:WiiQare: An all-in-one digital platform for healthcare savings, payments, and remittances | UNICEF Venture Fund

Wiiqareの将来の展望

※WiiQareは基本的に利用者数(ユーザー数)などは一般的には公開していません。以下の情報は公開されているデータです。
PitchBookやの情報によると、以下のような会社概要になっています。
・設立年:2019年
・ユーザー数:未公開
・企業投資社数:1
・代表的投資会社:UNICEF Venture Fund、The Health Tech Hub Africa
・会社ホームページ:WiiQare
総資金調達額:約$10万ドル
WiiQareには、UNICEFベンチャーファンドから$109,838 USDの投資が行われました。また、PitchBookの情報によると、最新のアクセラレータ/インキュベータの取引で$48.01が投資されたと記載されています。

WiiQareには、送金システム以外にもさまざまなサービスがあります。例えば「Pass maladie chronique」という 慢性疾患(例えば、糖尿病や高血圧)を持つアフリカの家族や友人に対して、個別のケアプログラムを提供し、より健康で幸せな生活を送ることを支援するサービスです。
また「Pass second avis médical」という 診断や治療の推奨に疑問を持っている場合、フランスの専門家や医療エキスパートへのアクセスを容易にするサービスなども行われています。
それらのサービスはビジネスや医療経済から技術開発やブロックチェーンまで幅広い経験を持つコンゴ民主共和国、カメルーン、インド、米国の代表者を含むスタッフがそれぞれの熟練したテクニックを駆使してWiiQareの向上に尽力しています。
※参照URL:https://pitchbook.com/profiles/company/535649-77#faqs
※参照URL:https://wiiqare.com/
※参照URL:WiiQare - Products, Competitors, Financials, Employees, Headquarters Locations (cbinsights.com)

まとめ

WiiQareは、アフリカの人々が医療費を賄うための資金を調達し、病院が支払いを受け取るのを支援するデジタルヘルスとフィンテックプラットフォームを合体させた会社です。このプラットフォームはブロックチェーン技術を利用して、病院や医療従事者と患者さんであるユーザーをつなげ、ペーパーレスで分かりやすく透明性の高いシステムを通じて医療支払いを簡素化しています。
WiiQareを立ち上げた理由は、アフリカ諸国で医療費に関する問題が頻繁に起きるからです。アフリカでは多くの人々が医療費のための貯蓄ができず、保険にも加入していないため、健康危機の際に治療を受けることができない状況があります。そのため、WiiQareでは海外に住む家族や友人がアフリカに送金する際の手数料を削減し、送金された資金が医療費に適切に使用されることを確保することも目標とし、電子ウォレットアプリでユーザーの人たちの資金を管理し、健康なうちから貯金できる「健康貯金」システムを採用しています。

ライター紹介

増田さなえ |AA Health Dynamics株式会社 グローバルサウスにおける事業開発支援集団 (aa-healthdynamics.com)
米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。

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AA Health Dynamics株式会社
Email info@aa-healthdynamics.com



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