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声をきくということ


今日、「ライフ・イズ・クライミング」というドキュメンタリー映画を見た。
全盲のクライマーコバと彼の目となる視覚ガイドナオヤがアメリカのフィッシャー・タワーズという砂岩の頂点まで登るという。

パラクライミングという障がい者によるスポーツクライミングがあるとその映画で初めて知った。障害の程度に応じたクラス分けがされていて、視覚障害の中で最も障害の程度が重い全盲のB1クラスで、この二人は2014年から2019年までの世界選手権で4度の優勝をしているベテランだ。

あまり前情報のない状態で映画を見始めた。
最初から全盲のコバさんの声が印象に残る。
自分を何かに見せようと意図のない声。すごくフラットで、落ち着いていて
圧のない声。
映画の最初の方、クライミングスタジオで、コバさんがナオヤの子どもであろう小学校高学年くらいの子のガイドでクライミングをする場面がある。
どのルートで登るのか、足のかける場所の説明、その形状を彼女は懸命に話す。ときどき言葉に詰まる。
それに対して、急がせるわけでもなく、じっくりと何度も聞いてイメージするコバさん。できたら次へ促す。
決して子供扱いせず、一人のガイドとして対話している。
ああ、この人のやりとりはいい、と無条件で思う。

対するナオヤはコバさんよりもたぶん10くらい若い。
はっきりと大きな声で喋る。
それもそのはず。
コバさんはナオヤの声のガイドで登るのだ。
コバさんはナオヤの声を聞いてこの人にガイドをしてもらおうと決めたのだという。
二人とも互いにリスペクトし合っているのがよくわかる。

ここからは少しネタバレかもしれません。
映画を見たい方はどうぞ飛ばしてください。

ナオヤは一度、コバさんをアメリカのフィッシャーズ・タワーのてっぺんに立ってもらいたいと願い、それをなんとか実現していくのが映画のメインだ。

このてっぺんにコバさんが登る
てっぺんで立った時のためだけに白い杖を持ってきたらしい

二人は淡々とひたすら山を登っていく
後半アタックしている最中、コバさんが履いている靴を落としてしまう。
途中から片方裸足で登るコバさん。
上で待っていたナオヤは途中からそのことを知り、大爆笑する。
靴はもう一人のサポーター足が激クサのマイクの靴を借り、最後には人一人がやっと歩ける幅の所を何も持たずに歩き、さらに登り、ナオヤの声だけを頼りにてっぺんに到達する。

この映画が感動させようと演出していない作りに、感動する。
それもこれも二人の声がずっとフラットであることにも心が動く。
あとから知ったがコバさんはなんと私と同い年!!
は〜。すごい。
2005年からはNPO法人を立ち上げ障がい者クライミングの普及活動を務めている。
帰ったら彼には赤ちゃんが産まれていた。

この二人の飄々と、でも楽しんで山を登り続ける生き方に、なんとも励まされる。

いつしかいっぱいひっつけてきた他人の目から映る自分の姿
目が見えていても、見えなくてもモロにわかってしまうはりつけてきた自分の外側。


聞いていて気持ちのいい声とは
自分のやりたいこと、楽しいことに没頭できているゆるがない声だ。
そんな場をこれからも作ろうと素直に思う。

次回の中目黒の朗読劇ワークショップはこちら
http://playbacktheatre.jp/opencourses/からだと声の朗読劇vol3/