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早気と私と、道。

先日、「気早(きばや)」な私の「せっかち式仕事術」という記事を書いたのですが、今日はその字をひっくり返して「早気(はやけ)」の話。

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矢数14909、的中5979

私は高校時代に弓道部に所属していましたが、そのときの記録ノートが本棚に大切にしまってあります。入部以来3年間全ての矢数、的中数、的中率、大会の記録など記されています。このノートは自主的に記録していたもので、当時の仲間内では誰もこういった記録はつけていなかったし、誰にも明かしませんでした。

記録したがる執着心は、今も昔も変わっていないなぁ...と苦笑いしつつ久しぶりに食い入るように見返したのですが、自分を褒めてあげられことがあるとすれば一度も部活休んでいなかったこと。情けないのは、初中り(あたり)からわずか3ヶ月後にすでに早気になっていたことです。


早気とは

弓道には射法八節という一連の動作があります。

一 足踏み
二 胴造り
三 弓構え
四 打起し
五 引分け
六 会(かい)
七 離れ
八 残心(残身)

弓を引ききった状態で矢を放つタイミングを待つ「会」という段階があるのですが、早気とは会を保持できず、意に反して矢を放ってしまう症状です(弓道アニメ「ツルネ」の主人公も早気に悩まされていました)。私の場合中り(あたり:的にあたること)が出始めると“的中に意識が行ってしまい、弓と体が一体になって放たれるタイミングを待つことができなくなり、早気が加速していました。

「中てたい」という焦りと「中る」という自信、そして、記録をつけていることでより「点取り思考」になってしまい、結果早気を助長していたと思います。中る→早気→中らなくなる、というサイクルが繰り返されていました。

弓道は四本一組で記録していきます。全部中てると「皆中」。四本中三本的中で「三中」。三中もすごい的中率なのですが、最後の1本を外してしまうことをを“皆中逃し”と言います。それは「チキン」「ヘタレ」「根性なし」といった表現(地域により異なる)で揶揄されてしまうほど…。その皆中逃しを5回連続でやってしまったことがありました。的に中てたいという気持ちが強すぎるから、早気も加速して射形が崩れてしまうのですね。先生の「持て!持て!…あぁぁぁっ!」大きな怒号とため息が道場を支配した記憶は、今でも強烈に残っています。20射16中という、大会でたら優勝に絡めるぐらいの記録を出しながら、チキン五連発の情けない気持ち…。

母校の弓道部は型を重視していて、大会で勝つことも大事だけど、部員全員が弐段を取得することを目標にしていました。そんななか、私は弐段の昇段審査は早気で2度落ちました。ラストチャンスでなんとか受かりましたが、早気は完全に克服できてはいなかったので、たまたま2射2中したからの滑り込みかな…と自己評価しています。


早気はこころの問題

弓道は「心技体」が重要ですが、早気はそのうちこころの問題。いわゆるイップスで、直そうと思ってもなかなか直らないようです。早気を直すには「中てたいという気持ちを捨て、呼吸を整え、射法八節の型にこだわるしかない」と教わりましたが、なかなかうまくはいきませんでした。結局3年間早気に悩まされ続け、完全に克服することはできませんでした。

ただ、早気になりやすいと自覚したとき、それとどう向き合っていくかを問い続ける機会を得られました。いまだに仕事のいたるところで、これは早気だなぁと思う瞬間はあります。なかなか克服できませんが、どうすればいいかという基準はある程度持っているので、調整するよう気をつけています。結局は自分との戦いであるというところは、弓道を通じて学んだことです。


道は続く

数字にとらわれると、成果を出そうと焦ってしまいタイミングを待てず、結果的に思うような成果が出せないということは仕事でもいえること。かといって、型にとらわれすぎてタイミングを逸するのもよくない。

大事なのは、弓と体が一致するタイミングをどう見極めるか。離すのではなく、もたれるのでもなく、自然に離れていくようになるといい。

弓道は高校3年間で終えましたが、その精神は僕自身の人間形成に大きく影響を与えてくれています。学びという道は終わりなき旅。道はいろいろなことを教えてくれます。

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