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アメリカミズアブ のすゝめ その1

2014年末に裏庭で使っていたニュージーランドが世界に誇るミミズコンポストHungry Bin(ハングリービン)に大量のウジ虫が湧いて始まったこの一連の調べ事の経過と所感を備忘録としてブログに書き記して来ましたが、このウジ虫への注目度がさらに高まっているようなのでアップデートも含めて改めてnoteにも要約版をまとめて見ようかと思います。

まずこの湧いたウジ虫はアメリカミズアブの幼虫で学名はHermetia illucens(ハルメシア イルセンス) 、英語での通称はBlack Soldier Fly、略してBSFと一般に記されています。世界各地の温暖な地域に広く分布するハエ目(双翅目)ハエ亜目(短角亜目)ミズアブ科(Stratiomyidae)に分類されるアブの一種です。
日本には戦後の1950年ごろから米軍の荷物とともに沖縄から移入されたことからこのように呼ばれているようなのでここではこのアメリカミズアブ をと "メリアブ" と呼ぶことにしています。

そもそもこれは一体何の話なのか

メリアブが注目されている理由は生ゴミを資源として価値の高い飼料用タンパク質と土壌改良材を生産できる、という事とそれに付随する様々な社会と環境に関わる利点と言えるのではないでしょうか。

個人的な所感としてこの世界的なウジ話は人類がこれまで発展を続けるために生態系からの恩恵、いわゆる自然資本を一方的に搾取して来たことの「タダほど高いものは無い」ツケを実感し始めたこと、そして人類が存続を続けるのであればその自然資本の搾取問題と生態系機能を取り戻すために何をしたら良いのか、その環境コスト的なツケは一体返済可能なのか、といういわゆる気候変動問題の本質的な問答話だと思っています。

そして気候変動問題の一つが人類が作り上げた食システムによって劣化させた地球の自然生態系のバランス、という規模の話であることを考えると、このウジ虫という種の台頭は地球全体の土壌微生物と植物を含む食物連鎖システムとトロフィック(栄養)カスケード(Trophic Cascades)の概念を念頭に考えるべき話なのでは、と思う訳です。

自然界の生態系というものを食物連鎖とトロフィックカスケードのルールから理解するのに米国イローストーン国立公園にいわゆるキーストーン種である狼を人工的に戻したらどうなったか、という話が分かりやすい例ではないかと思います。
これは生態系内のルールと人為的な操作によって生態系の管理を行うバイオマニピュレーション(生物操作)の成果である捕食による鹿の頭数の変化だけでなく、鹿の行動変化にまつわる影響が域内の捕食者、植食者、植物に広がりが最終的には川の形を含む地域生態系に広く影響を与えたというとその過程を視覚化できる実例だと思っています。

この食物連鎖に大きな影響力を持つキーストーン種とトロフィックカスケードという概念はロバート・ペイン氏をはじめとする当時の生態学者の功績により自然界に動植物の種の捕食関係が複雑に影響しあって生態系を作り上げているということをラッコ、ヒトデと海藻などの観察から実証したものだそうです。

つまるところ、気候変動問題の根源の一つとして地球全体の土壌生態系劣化が挙げられている今、乱獲や土壌劣化に始まる全ての生態系に最も影響を与えている種(Super Keystone Species)である我々人類が生態系共通のルール、トロフィックカスケードの概念を理解した上で種としてすべきこと(山ほどありますが)の一つは生態系からの恵みとして頂いた食べ物を食べて排泄、あるいは廃棄する際にそこに含まれる栄養やら有機物をしっかり食物連鎖サイクルと生態系に戻す事ではないかと、思うわけですが一般に普及している微生物やミミズを積極的に土壌回復のために利用する技術は時間、場所やコストがかかりすぎ主流にはなり得ませんでした。

ということで前置きが長くなりましたが、今後メリアブ利用が動物飼料用のタンパク質生産という収入源と”サステイナブルでグリーン”という次世代循環技術的な認知と支持を受けることで、”エコな代替タンパク質産業”の枠を超えた人類が存亡(あるいは終活)をかけて提供すべき生態系サービスとしての土壌形成技術としてより広く使われるべきではないかと思うに至っています。
一般に食物連鎖とトロフィックカスケードはトップダウンの関係が動物間、動植物の捕食関係が取り上げられる事が多いように見られますが、昨今議論されているように土壌環境が多様な微生物と植生ともに豊かになることで様々な生態系へのボトムアップ効果が炭素蓄積と共に期待されます。

人類という種に必要なバイオマニピュレーション

我々に必要な行動変容(behavior change)を起こすために、気候問題解決担当のキーストーン種としてのメリアブを人間の生活圏にデザインし、その存在と働き(ボトムアップカスケード効果)を日常生活を通して可視化させることでイエローストーンの鹿のように我々が(無意識に)生態系に変化を与える調和的な行動変容が起こすきっかけにする事ができるのではないか、あるいは意識的にそういう仕掛けを作る事で何か良い事が起こるのではないか、と期待します。

そしてそれは気候不安症など悩みおおき次世代に活力と安らぎを与える存在となり、今後の教育や制度改革、技術革新を通して私たちが日々排泄、廃棄する生ゴミやら有機物を土壌生態系に還元できる形に変換させる分散型循環型バイオインフラとして認知、活用される時代がくると勝手に予測します。
この分散型ウジファームが下水処理場や焼却施設などの集中型廃棄施設への依存を減らし、ウジ虫排泄物の土壌形成サービスのそれぞれの地域での積極的な利用を通して都市部の生態系と人々のウェルビーイング(塩梅)が恒久的に改善される社会環境システムが作られる日が来る、という仮説の検証の話だと思っています。

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