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空想彼女毒本 #07

#07  石井郁美

石井郁美

妹の友達で家に遊びに来ていたが、当時は軽く会釈するくらいだった。2年後ドトールでバイトしている所でどこかで見た子だなと思っていたら、妹の友達の・・・と。実は当時憧れていたんですよと告白される。そうだったの!と驚いてみせたが、実はボクもと付き合う事に。
2年前ボクは受験を控えており、彼女とか、付き合うとか、そういう恋愛に関しては蓋をして受験勉強に励んでいた。そんな時、郁美ちゃんがよく家に来ていたのは、妹と遊ぶという名目で、実はボクに会いに来ていたと後から知る。鈍感なボクは当時そんな事とはつゆ知らず、会釈する程度ですぐに部屋に篭り勉強をしていたが、壁の薄い隣の妹の部屋からは、郁美ちゃんの恋の相談の声は聞こえていた。しかしまさかその相手がボクだったとは。
「ご注意はお決まりでしょうか?」
「えぇ〜と、ミラノサンドとアイスカフェオレ」
「あ、れ、もしかして啓子ちゃんのお兄ちゃん?」
「っえ、あぁ!妹の友達の!」
「お久しぶりです。今ここでバイトしてるんです。」
「そうなんだ!」
「17時にバイト上がるんで、その後ちょっと時間有りますか?」
「うん、19時から同窓会で戻って来てるんで、それまでなら大丈夫だよ。」
「じゃそれまで時間下さい。」
少し早めに出てしまい、どうしようかと思って入ったドトールで、まさか彼女に会うとは。久々で積もる話もと云うほど、仲良くしてたわけじゃ無いが、何か話したいことがあるのだろうと、バイトの終わる時間まで待つことにした。
さすがにバイトしてる店では気まずいと思い、店を変える。
「あの頃私、結構積極的に恋バナしてたんですよ。お兄さん、気づかないかなぁって。」
「そうだったんだ!」
隣の部屋から漏れ聞こえる話の内容こそ覚えていないものの、確かに言ってあげようか?と妹の話す言葉は覚えている。
「全然お兄さん気付いてくれないから、てか、勉強してたから当然ですよね。」
「そうだね、あの時は勉強ばかりしてたから、気づかなかったな。でもいつも気にはしてたよ。誰の話してるんだろうって。勉強の話は聞こえてこなかったから。」
「やだぁ〜!もう。お兄さんが気になって勉強どころじゃ無かったし、春に高校受験終わったばかりで、勉強はお休みしてたの!」
「今年受験じゃないの?バイトしてて大丈夫なの?」
「うん、高大一貫校だから大丈夫なの。」
「そうか、妹と同じだもんね。」
「久しぶりにこっちに戻ってるんですか?」
「そうそう、やっと大学にも慣れてきて、同窓会があるって言うから戻ってきてるんだけど。」
「へぇ〜良いなぁ。」
「でも高校時代の友達なんて、あんまり良い思い出も無いしなぁ。」
「好きな人とか居なかったんですか?」
「う〜んそう云うのは苦手で、居なかったかなぁ。」
「でも同窓会で久々に会って、当時はなんとも思ってなかった人が素敵に見えたりしませんか?」
「う〜ん、分かんないけど、無いだろうなぁ」
「私のことも?」
「えっ?」
「お兄さん、ぜんぜん変わって無いですね!」
「え?何が?」
「さっきからずっとラブコール送ってるの気づかないんですか!」
「え、っえ?」
「ホント鈍感ですね!普通分かりますよ!でもそういう所も好きなんですけどね。」
「え?それってつまり!」
「さっきから言ってるじゃないですか!」
「ゴメンごめん、ちょっと分かんなくて、どういうこと?」
ボクはズルい人間だ。自分の言葉では言わずに、人に言わせる。そうすることで責任逃れをしているのだ。例えそれで上手くいかなくても、責任はボクには無いと思いたいのだ。だから自分の言葉では断言はしない。人に言わせるように会話を持っていく。いつもそうだ。それが原因ではっきりしない人、優柔不断だなんて言われたこともあるが、断言はしない。そんな煮え切らないボクを見て彼女は
「ずっと好きでした。今も」
言わせてしまった。否、そう言わせたんだが、これでボクは今後この関係がどうなろうと、言い出したのは彼女だと自分に言い訳ができる。そういうズルい考えで人に接している。どこまでそれが意図的な行動なのか、単に鈍感だと思われているのかはどうでもいい。ボクにはこの事実が必要なのだ。これでやっと自分の意志を伝えることができる。
「ボクも、実はあの頃から気になっていたんだけど、自信が無くて・・・」
「ホントですか!」
確信さえ持てればなんとでも言い繕える。
「うん、でも東京の大学へ出て、身の回りのことに必死で・・・ってそれは言い訳だよね。」
「ううん、いいの、気持ちを伝えられたことと、好きでいてくれたことが分かっただけで嬉しい。」
「ホント、ありがとう。」
「なんだかすっきりしたから、もうどうでも良くなちゃった。」
「何が?」
「やっぱり鈍感なのは治ってないんですね。」
「ん?だから何が?」
「カエル化現象ですよ。」
「え?」
「振り向かれちゃうと、もうどうでも良くなっちゃうんですね。私もそうなるなんて思ってもなかったけど。」
そう言われて返す言葉も無く、ボクはただ受け入れるだけだった。ボクが仕向けたと思っていたその行動は、自ら断ることをせずに、相手に諦めさせる為にしていた行動だったとは彼女は知る由もない。

あとがき

話題のね、カエル化現象になるとは自分でも書き終わるまで思いもしていなかったが、まさかそれすらもボクの意志で仕向けられていたとは彼女も知らなかったのか、分かった上でそういう行動をしていたのか。これは現実世界でもあることだと思うね。お互いがそうさせたと思っているって事が。そういう齟齬が結果的に二人の中を割いてしまうようなことってあるんじゃないかな。言葉にして伝えていればいいんだけど、どこか自己防衛というか、予防線を貼って、そのお互いの予防線が意図しない結果になって、修復不能になってしまうって事があるんじゃないかな。という書き終わってみればそんな話になってました。

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