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空想彼女毒本 #02

#02 羽柴久美

羽柴久美

伊賀上野の忍者を祖先に持つ。スパイとして色仕掛けをしてきたのが最初の出会いで、一晩にしてお互い恋に落ちてしまった。それでも組織を裏切れないと、恋と仕事の狭間で苦しむ。みかねたボクは、2人で北海道へ移住し、今はジャガイモ農園で身を潜めている。
2018年、ボクは新高円寺にある雑貨屋で店長として働いていた。表向きはよくある雑貨屋だが、実は裏では現在で云うスパイ、忍びの活動の拠点として機能していた。忍びの活動なので、他の忍びの存在もわからないから、店に来た時に合言葉で確認をするようになっていた。
昔のように『山』『川』と云うような単純な物ではない。毎日メールに書かれた会話が合言葉だ。このチェックを怠ると大変なことになる。
現在の忍びの活動の主な仕事は要人の護衛がほとんどだ。SPの様に分かりやすく護衛するのでは無く、もう少し俯瞰して監視し、不審者がいないか、また、事が起こった場合に素早く対応するのが主な仕事だ。
この日のメールの会話にはこう書かれていた。
「お久しぶりです。サッカー部でマネージャーをしていた久美です。」
「あ、ボクが3年の時に1年の!」
「先輩が卒業してから部活辞めちゃいましたけどね」
この会話が成立すれば、新たな忍びの仕事ということになる。そして彼女が現れた。当然この会話から始まったので、忍びの者だと確信した。
その日彼女から伝えられた任務は、ある国有地売却に関わる資料の入手だった。どうやら不正に値引きされ、しかもその国有地に建てられる建設費用の水増し問題も浮上しているというのだ。いつもにない重要な任務で驚いたが、決行日まではまだ日数もあるので、今夜打ち合わせを兼ねて食事をしたいとのことだった。普段の任務であれば要件を伝えられ、あとは当日現場で顔合わせをして任務にあたるのだが、何か特別な任務なんだろうと疑いもなく誘いに乗った。
夕方になり約束の時間より少し早めに店を閉め、忍者らしく中野の隠れ家的な居酒屋へと向かった。入るとすぐに奥の座敷に通され、何かただならぬ予感を感じながら進み、薄い茜色を放つ障子を開けると、すでにそこには床の準備がなされていた。不審に思い、一気に忍びのスイッチが入ったのも束の間、上から覆いかぶさられ、マウントポジションを取られたと思うやいなや、口の中にぬるりとした違和感を感じた。
「こうするしかないの」
そう言いながら肢体をくねらせ、瞬く間に拘束された。
「甲賀の者じゃないのか!?」
強く反発するが既に自由は奪われている。
「今回の任務、遂行させるわけにはいかないの。」
「どういうことだ?」
「この問題が明るみになれば、政府の信用問題に発展するの。」
「そこまで知っていてなぜ止めるんだ!」
「しかたがないの、それが私の任務だから。」
「真実を知っててなぜ暴こうとしない!」
「知らなければ幸せってことも多いのよ。」
「解ったような口を聞くな!」
思わず語気を荒げてしまったが、彼女は苦しそうな表情で
「だから苦しいの。組織は裏切れない。だって私をここまで育ててくれたんだもの。」
「だからって不正に目を瞑るのは違うだろ!
それに組織のせいにして、自分が楽になりたいだけだろ!」
黙ったまま涙ぐむ彼女。ポタリとその涙がボクの顔に落ちてくる。
「本当に知らなければ幸せだったわ。」
「何?」
「知らなければ、本当にアナタの存在を知らなければ、私は伊賀忍者として黙々と任務を遂行できた。でも、今日アナタを知ってしまったの・・・」
「・・・」
そう言うと彼女はぐっと身を引き寄せ、密着状態になる。
そして耳元で
「色仕掛けでアナタを殺す手はずになってるの。死んだフリをして。
その後変わり身の術で抜け出して。」
彼女の強い意志を感じて従った。
当然2人はそれぞれの組織から追われる身となった。
逃亡となると向かうのは北と相場は決まっている。2人で北へ向かい、たどり着いた大地でジャガイモ農園を開き、今は密かに暮らしているが、あの日彼女が現れたと言うことは、こちらの情報は筒抜けだったわけで、あのまま任務を遂行しようとしたところで闇に葬られていたことだろう。
しかし、ある人物によってこの問題は明るみになり、その後世間を騒がせることになる。それを北の大地で新聞でしる二人。
知らなければ幸せだったという事すら、知らない方が幸せなのかもしれない。

あとがき

こんな話になるとは思ってなかったんだが、自分の書き出しにずいぶん悩まされました。ここまで書くのに3日もかかりましたわ。もっと気楽なバカなことでいいんだけど、なぜか書き出すと社会風刺をというか、忘れちゃいけない問題を残しておきたくなりますね。直接書くよりある種エンタメとして溶け込ませた方が風化しにくいと思うんですよね。あとツイートした時点でジャガイモ農園って書いてたけど、まさかゆでジャガイモで事件が起きるとはね。

空想彼女毒本

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