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ショートエッセイ「OLD JOY」

「Sorrow is nothing but worn out joy.(悲しみとは使い古された喜びである。)」という言葉。これは、僕らの1stアルバムのタイトル『OLD JOY』の由来となった、映画監督ケリー・ライカートの同名作品に出てくる台詞だ。僕は最初、その意味があまり分からなかった。  ところで素敵なあの人は、いかなるタイミングでアルバムに名前をつけてやるのだろう。ケイチ&ココナッツ・グルーヴ1stアルバム制作にあたり、何事も形から入る僕は、収録曲が出揃う前にまずタ

    • 『ロングバージンロード』

      暴力と性以外すべてを描いたとされる星新一が、もし性を題材に作品を書いたらというコンセプトのショートショートです。この手の題材が苦手な方はお引き返しください。 「まぁ20代が終わるまでに最低10人とは付き合いたいかな。それでね、その中で一番良かったなぁって思った人に久々に連絡をしてみて、上手い具合にあっちにも相手がいなかったら結婚しようかなぁと思う。」 高校生の頃から美花(みか)の考えは変わっていない。女子大を卒業して5年くらいは経ったのだろうか、彼女は未だに週3のアルバイ

      • 『ラバー・ソウル』

        暴力と性以外すべてを描いたとされる星新一が、もし性を題材に作品を書いたらというコンセプトのショートショートです。この手の題材が苦手な方はお引き返しください。 彼は自分の心は成熟していると思っていた。流行りのマイノリティ思想なんてのは大体理解しているし、自身弱いくせに差別を止めない父親を何よりも軽蔑してきたから、そういう心の貧しさとは自分は無縁だと思っていた。そして自分がいかに大人びているかにも自信があった。 「圭くんって、ほんとうに社会人みたい。言われなきゃ大学生とは思

        • 『ゲット・ロスト』

          暴力と性以外すべてを描いたとされる星新一が、もし性を題材に作品を書いたらというコンセプトのショートショートです。この手の題材が苦手な方はお引き返しください。 彼はとある有名なブロガーだった。文筆には興味がなかったが、そこそこの収益を得られてしまったので続けていた。 彼はアセクシャル男性として同居人女性との暮らしをフェミニスト贔屓な筆致で日記形式にして書いている。フェミニストのことは軽蔑していたが、女性のことを「理解している」自分には陶酔していたため、日記を続けることに苦痛

        ショートエッセイ「OLD JOY」

          『ボーイズ・ドント・クライ』

          暴力と性以外すべてを描いたとされる星新一が、もし性を題材に作品を書いたらというコンセプトのショートショートです。この手の題材が苦手な方はお引き返しください。 彼は勤勉な男だった。見てくれはあまり良くないが常に謎の自信に満ちていて、それなりに恋愛は経験できてきた。そんな彼には一ヶ月前から新しい彼女がいる。彼女は彼と同じくしがない会社員で、ニッチな音楽の趣味が合うことから親交を深めていった。 ところで彼には意外な特徴がある。それはペニスの大きさだ。中肉中背の一般的な日本人男性

          『ボーイズ・ドント・クライ』

          『アタック・オブ・ライスケイクス』

          とある惑星に、とある生物がいた。個体数が飽和してしまった「彼ら」は、別の星に住処を探さなければならない。いわゆる寄生生物の特徴を持っている彼らは、身体を乗っ取り支配する計画で、チキュウという惑星にやってきた。この惑星には約80億近い数のニンゲンという生物がおり、彼らを乗っ取れば惑星全土が支配できることを知った。 まず国土が大きくかつ孤立している場所を乗っ取り、そこで人口を増やし、世界の過半数以上の人口を占めてから武力により世界を征服するという計画だ。そのために、まず南半球に

          『アタック・オブ・ライスケイクス』

          2021年ベストアルバム30

          皆様いかがお過ごしでしょうか、市原(@hara_kuti_)です。この度2021年ベストアルバム30を作成しました。上半期より枚数を減らした理由はずばり、特定のアルバムを集中して聴く機会が下半期多かったからです。そしてそれらがこの紹介する30枚になります。なぜか今回はだ・である調で書き上げてしまいましたが、全く何らかの意図はありません。順位にもそれほど意味は持たせていないので、気軽に楽しんでいただけたらと思います。それでは! 30.『Cruise』 / Ausschuss

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          2021年ベストアルバム30

          2021年上半期ベストアルバム50

          今年発表されたアルバムで好きだった作品を50枚ほど。いわゆる新譜を追い始めたのは去年からですが、それにしても今年は豊作だったといえると思います。それでは...。 50. REFLECTION / Loraine James Hyperdubより、北ロンドンの新鋭Loraine Jamesの2枚目。ひたすらに洗練されたビートに、UKドリル等から歌心のあるポップさが組み合わさったエレクトロニック・ミュージック。それこそ職人の作ったお手本のようでありながら、どこか情念的でもあ

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          2021年上半期ベストアルバム50