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8月の終わりの、ジェットコースター・マフィン。

今日で8月も終わりだというのに、連日殺人的に暑いですね。

この暑さに今日までコテンパンにやられた結果、我が夫婦の間で「キッチンで加熱調理をする時間を最低限にとどめたい」というムードが最高潮に達している。

とくに問題なのは昼ごはんである。調理することはもちろん、こうまで気温が高いとあらゆるアツアツのおかずが食べたくなくなる。個人的にオールタイムベスト・オブ・ランチは鶏の唐揚げ定食なのだが、唐揚げも白ごはんも味噌汁も、その温度がいささか疎ましい。

といってそうめんや冷やし中華などの冷たい麺ばかりというのもいいかげん飽きが来る。困っているのだ。

そんなわけで今日のお昼は何にしようか考えあぐねて、滅多に行かないスーパーまで足を伸ばしたら「ヤマザキ 食材用イングリッシュマフィン」なる6個入りのイングリッシュマフィンが売られているのを発見。とにかくコンロの火を点ける時間を最短で済ませたい現在、マフィンならば表面をカリッと炙るだけで食べることができる。加えて、今我が家には挟む具がいっぱいある。通常あまり冷蔵庫に入っていないハムとチーズだってあるのだ。もちろんキュウリやトマトもある。「食材用」って何やねん、他に何用があるねん、観賞用? などと心の中でツッコミつつ、購入に踏みきった。

「マフィンってそんなに具、挟む?」と妻。

初めてイングリッシュマフィンなるものを食べたのはいつだったか。きっとまだ少年の頃だったろう。その頃はずいぶん粉がこぼれるパンだな、ぐらいにしか思わず、さりとて感動したわけでもなかった気がする。でも、未だにとくに好んで食べるわけではないけれど、何となく評価しているというか個人的な分類では「いいもの」の抽斗に入れてある食べ物のひとつだ。

マフィンと最も親しくしているシチュエーションは、マクドナルドのブレックファストメニューだ。でっかいメガマフィンが好きで、慌てて駅へ向かったけどまだ電車には時間がある、なんて朝なんかによく食べる。朝から500円以上張り込むなんて贅沢ぅーと思いつつ、そのボリュームに舌鼓を打つ。溶けたチーズが顎の裏に貼りつくのをアイスコーヒーで流し込むのが快感である。

それ以外ではまあ、めったにお目にかからないけど、今回はマフィン祭りということで、自分の好きな具をてんこ盛りにして食べようという魂胆である。

マフィン03

今回作ったのは二種類。ひとつめの具材は、ハム、キュウリ、マスタード、ミニトマト、スクランブルエッグ、マヨネーズ、とろけるチーズ、黒コショウ。スクランブルエッグはごく短時間の加熱でいいのでそこまで暑くない。

これを見て妻が「マフィンってそんなに具を挟むもんやったっけ?」と笑う。いいのだ。オトナのいいところは、こんなふうに己の欲望のままにコトを進めても誰からも制止されたり咎められたりしないところだ。

マフィン05

ふたつめは、余りのキュウリとスクランブルエッグに冷凍コロッケ。

コロッケはいつだったか酔っ払って土産にもらって帰ってきたもので、以前揚げた油の中でバラバラになっちゃった悲しい思い出があるので、レンチン解凍したものに油を垂らしてコンロの魚焼きグリルで焼く、という周到な手段をもって妻が作ってくれた。

揚げ物がいちばん今、作るのに抵抗がある調理法なのだ。油の輻射熱で、食べるまでに一回着替えるぐらい汗をかく。魚焼きグリルならばそこまで暑くない。許容範囲である。こういう揚げ物のような手間のかかる具があると急ごしらえのやっつけランチも見た目にはそれなりに体裁が保ててよいなあ。

食べにくさに、いつも乗っける楽しみが勝つ。

マフィン04

上からマフィンの片割れを乗っけて、グッと押しつぶして豪快にかぶりつく。野菜の水分が勢いよくあふれ出てお皿が大変なことになる。見かねた妻がもう片方のコロッケ入りを自分の皿に避難させてくれた。

もう、食べにくいことこの上ない。とくにスライスしたミニトマトがぽろんぽろんと落っこちるので、うっかり水平を崩すことができない。一度手にしたら食べ終わるまで手を離すことは許されない。持ち変えることもままならない。最後までノンストップ、ジェットコースター・マフィンである。

けど、うまい。暑さにうだって半日でヘロヘロになりかけていたのに、ガガガッと咀嚼しては飲み込むにつれ、その速度と勢いにつられていつの間にか元気になっているのに気がつく。

コロッケもよい。イングリッシュマフィンも自分にまさかコロッケが挟まるとは思っていなかっただろう。でも心地よいほどに合う。こちらはそこまで食べにくいということもないがやはり手にしたら最後、完食まで一直線だ。

げふー。

そして来るべき、夏の終わり。

ふう、こうしてネタ切れ、食欲ガタ落ちの8月最終日のランチを乗りきったぞ。栄養摂ったぞ。力を蓄えたぞ。

もうすぐ夏が終わる。やり残したことはないかい。

いやいやいっぱいあるけど一切の未練を振りきって秋に向かうのだ。心の準備はできている。

この列島もさっさと秋に向かってほしい。もう一刻も早く涼しくなってほしい。食欲の秋が始まり、おいしい食材が出回る。ビールは、まだまだずっとうまい。魅惑の季節がすぐそこまでやってきてるはずなのだ。

そして人生は続く。


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