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旅立ちコーディネート

看護師たちがシャツやネクタイを掲げて
「どれがいいですか?」と彼に尋ねる。

若い頃モテたよね、とナースステーションでも話題になっていた男性だった。

「このスーツには…こっちのシャツの方がいいかな。」
スーツは決まっているようだ。
ネクタイは何本あっただろうか。
まるでプリティウーマンの買い物シーンのような光景が病室で繰り広げられる。
ポケットチーフも決まり、納得のコーディネート完了。

数日後、息を引き取った男性の病室ではエンゼルケアが行われていた。
看護師が身体をきれいにしてから、壁に掛けてあったコーディネートされた服を着せていく。
いつもの病衣姿から、スーツをビシッと着こなした紳士に変身していく。
頭にハットを被せると、そこにいた全員が「カッコいい!」と声をあげ笑顔になった。

その時、担当していた看護師がそっと彼の手をとり、ズボンのポケットに入れた。
なんて素敵なことをするんだろうと私は思った。
彼に寄り添ってきた看護師だからこそ出来た供養だと感じた。
ポーズをきめた彼は、今にも動き出しそうなほど自然にベッドに横になっていた。

自分の最期をコーディネートする
人生の最後のステージ、着飾ってみるのも悪くない。
私も最後の服は決めておきたいと、彼を見て思った。

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