時を戻す化粧
毎週土曜日、
母と面会するために施設に行く。
施設に入ってから、
毎日リハビリしたり、たくさんの人が話しかけてくれるせいか、
家にいる時より身体は元気になった気がする。
ただ、
化粧をせずに人前に出た事がなかった母が、化粧をすることをやめたようで、いつ行ってもすっぴんでいることが、
ずいぶん痩せて、服がダブダブになっていることが、
何だかとても、いつも、寂しい気がする。
「うちにいる時より元気やん」
そう言いつつ、心の中の小さな寂しさに蓋をするのだ。
昨日面会に行ったら、
母は、他の入所者さんとホールで映画を観ていた。
施設の人が呼んできてくれて、私たちのそばにやって来た母の顔を見ると、
何と、化粧をしていたのだ。
「今日は化粧してるやん。自分でしたん?」
「そうやで。たまには化粧しようと思って。」
認知症になる前の、
自転車に乗ったり、買い物に行ったり、
ご飯を作ってくれていた頃の母がそこにいた。
みんなが可愛いって言ってくれると、嬉しそうに母は言った。
色々と話す内容は、
支離滅裂で無茶苦茶で、
辻褄が合わなくて、
話を合わせるのが大変で、
やっぱり今の母ではあるのだが、
化粧ひとつで、一瞬時が戻ったことは事実で、
毎回じゃなくていいから、また時を戻す化粧をして欲しいなぁって思う。