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「消えたい」と「○にたい」の間ー小説『ダーリンとマダム』番外編 カレンのエッセイより

数年前、とあるクリニックの精神科医の女性が語った一言が今でも心に残っている。「CPTSDの虐待を受けていた患者さんたちは、『死にたい』よりも『消えたい』という表現を使うことが多いんです」と彼女は言った。この言葉の違いは、表面上はささいに思えるかもしれませんが、実は非常に深い意味を持っています。

「消えたい」と「死にたい」の違い

「死にたい」という言葉は、自殺を望む気持ちを直接的に表しています。それは、絶望や苦しみから解放されたいという強い願望を示している場合が多いです。自殺を試みる人は、自分の存在そのものを終わらせたいと思っていることが多いです。

一方、「消えたい」という言葉は、それとは異なるニュアンスを持っています。これは、存在そのものを否定したり、消え去りたいと願う気持ちを表していますが、必ずしも自殺を望んでいるわけではありません。むしろ、現在の状況や環境から逃れたい、または自分の存在を一時的にでも消し去りたいと感じていることが多いです。

CPTSDと「消えたい」の表現

CPTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害)は、持続的なトラウマや虐待を経験した人々に見られる精神障害です。この障害を持つ人々は、自己否定感や持続的な不安感、抑うつ感に悩まされることが多いです。彼らは、自分自身を守るために「消える」ことを望むことが多いのです。これは、自分を消すことで痛みや苦しみから逃れたい、または周囲の人々に迷惑をかけたくないという気持ちが背景にある場合が多いです。

「消えたい」という気持ちの理解

「消えたい」という気持ちは、私たちが共感し理解することが重要です。この表現は、助けを求める叫びであり、患者が感じる孤立感や絶望感を示しています。彼らが「消えたい」と感じる理由はさまざまですが、共通しているのは、自分の存在が無価値だと思い込んでいることです。
あと、「死にたくはないが」「生きるのも嫌」「死んで死体という自分の身体が残るのが嫌」「パッと消えて灰のようになってしまいたい」などの思いも含まれていることもあります。

私たちができることは、まず彼らの気持ちを受け入れ、理解しようと努めることです。「消えたい」と感じる人々に対して、ただ「死んではいけない」と言うだけでは不十分です。彼らがなぜそのように感じるのか、その背景にある痛みや苦しみを理解し、寄り添うことが大切です。とはいえそれは言うほどたやすいことではありません。また、このような表現を禁じるのは時と場合と場所にもよりますがそのように思う人の孤独感を強めて果てには孤立をさせてしまう恐れがあるので慎重にやって頂きたい。

結びに

あの女性精神科医の言葉を思い返すたびに、私は「消えたい」と「死にたい」の違いについて考えさせられます。これらの表現は、単なる言葉の違いではなく、深い心理的な意味を持っています。私たちがこれらの違いを理解し、適切に対応することで、CPTSDを持つ人々の心の負担を少しでも軽くすることができるのではないでしょうか。

精神的な苦痛を抱える人々に対して、私たち一人ひとりが理解と共感を持ち、彼らの痛みに寄り添うことで、少しでもその苦しみを和らげる手助けができればと思います。「消えたい」と感じる人々にとって、私たちの理解と支えが、彼らが少しでも前向きに生きる力になることを願っています。

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