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【こんなことなら補助金6,000万円貰わなきゃよかった。】第3話:認定支援機関の功罪

<あらすじ>
コロナ禍で突如始まった国による「事業再構築補助金」
ゴルフレッスンプロの竹内勇作は最大6,000万円貰える補助金に採択され、最新鋭のインドアゴルフ場建設に胸を躍らせていた。しかし、この補助金にはいくつもの欠陥があったー。補助金を貰うまでの苦労、経営の難しさ、人間関係のすれ違いによって、抱いた夢は儚く散ってゆく。そんな竹内に対し、事業計画書を作成した中小企業診断士達によるコンサルティングという名の「管理」に竹内の精神は日に日に蝕まれていくことに。「こんなことなら補助金6,000万円貰わなきゃよかった」という竹内に対して、コンサルタントである九条が再建を任されることになったが、果たしてその行方はー。

第3話「認定支援機関の功罪」

10分後、矢島が何やら浮かない顔をして、私のところへ戻ってきた。

どうやら悪い予感は当たったようだ。

「小宮部長に相談した結果、認定支援機関の確認書を発行することになりました。」

(やはりか……でも、どうしてだ)

「そうか、小宮部長はなんて言ってたんだ?」

「事業をやるのは本人であり、経営判断について余計な口出しをする必要はない。どうせ弊社が発行しなくても、他の認定機関に依頼して発行するだけだ。それならば弊社で発行すればよい。だそうです。」

「小宮部長…そうくるか…」

我々の上司に当たる小宮は何よりも実績を重んじる男だ。
補助金の件数には、執拗なまでにこだわりを抱いている。

どこの世界にも目先の数字を気にする人は存在する。
特に小宮の場合、役員の座に付いており、トップに手が届くところまで来ているから尚更ということか。

この決定に対し、普段、取引先の相談を受けている身としては到底賛同できるものではない。

私はたまらず小宮のところへ駆け寄った。

「小宮部長、失礼します。㈱サイバーゴルフの件、なぜ確認書を発行するのですか。とても事業が上手くいくとは思えません。たとえ採択されたとしてこの規模だと借入金が負担になり、最悪の場合、廃業に至ってしまうかもしれませんよ」

「あぁ、九条くんか。矢島君には説明したはずなんだがね。」

「はい、結論は矢島から聞いております。しかし、失礼ながら、とても賛同できるものではありません。」

「九条くんはいつもそうだな。今回は、弊社にコンサルティングを依頼しに来ているわけじゃないんだよ。あくまで依頼は認定支援機関の確認書の発行だ。」

「はい、それはわかっております。しかし、それならば事業計画書を作成したコンサルティング会社が確認書を発行すればいいのではないかと」

「私が事業計画書の内容を見て、私の判断で確認書を発行する。それでいいじゃないか。」

「でも、仮にこれが採択されたら、苦労するのは事業者自身ですよ」

「その事業者自身がこの計画でやりたいと言っているのだよ。断る理由なんかないじゃないか。」

「しかし…これまでの私の経験から言えば、とてもこの事業がうまくいくとは思えません。事業者の人生に関わることですし、もっと慎重に対応するべきかと思います。」

「この事業がうまくいく保証はない。しかし、うまくいかない保証もなだろう。それに、私が確認書を発行すると言っている。君にはそれがどういうことか分からないわけでもない」

「……」

「これは戦略的な〝経営判断〟なんだよ。どうせ、弊社が発行しなくても、競合他社のところで確認書を発行するのであれば、同じことだ。それに本件の担当は矢島君なんだから、九条くんには関係ないと思うがね。」

「それはそうですが…」

「今後、人の案件に対して出しゃばらないようにしてくれよ。」

こうして、私は小宮に取り付く島もなく一蹴されたのである。

だが、しかし、弊社で確認書を発行しなくても、どこかに頼めば発行してくれることは確かではある。

国が定める認定支援機関制度はハッキリ言って「ザル」だからだ。

日本全国ほとんどの金融機関や商工会が認定を受けており、どちらかと言えば支援能力やスキルよりも「格」が重んじられている印象である。

1.税務、金融及び企業の財務に関する専門的な知識を有していること
2.中小企業・小規模事業者に対する支援に関し、法定業務に係る1年以上の実務経験を含む3年以上の実務経験を有していること
3.おこなおうとする法定業務を長期間にわたり継続的に実施するために必要な組織体制や事業基盤を有していること

中小企業庁:具体的な認定基準より

個人の中小企業診断士でも要件を満たせば、認定支援機関になることも可能だ。

中にはそうした認定支援機関が、「ココナラ」のようなインターネットサービスで「5,000円で認定支援機関の確認書を発行します」と受注しているケースもある。

その点から言えば、小宮の言うことも一理はある。

実際に、竹内は事業計画書の作成についても、弊社が断った後、別の中小企業診断士に依頼して作成している状況だ。

仮に弊社が確認書を発行しなくても、どこか発行してくれる先を探すであろうことは容易に想像できる。

そして、実際に事業を運営していくのは、紛れもなく竹内自身だ。
コンサルタントが事業をやるわけではない。

悔しいが小宮の判断は、弊社の意思表示である。

私と矢島は、心の中で「これでいいのだろうか」と悶々することしかできなかった。
 

<第4話へ続く>


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