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【ブログ】「中小企業119」無料の専門家派遣終了でコンサル業界はどうなる

国の無料専門家派遣制度「中小企業119」廃止


「中小企業119」とは、企業が抱える経営課題に対して、金融機関等に相談することで、その課題に応じた専門家を全国から探し、無料で派遣できる制度です。令和6年度は国の予算要求がされておらず、令和6年2月の専門家派遣を持ってこの制度が廃止されるとのことです。


私自身、金融機関に勤務しているため、前身である旧「ミラサポ」時代は何度か利用していましたが、中小企業119はほとんど利用しませんでした。

中小企業119が無料なのに利用されないワケ

本来の専門家派遣制度として①企業から金融機関等へ相談、②金融機関等が経営課題に適した専門家をプラットフォーム上で検索、③金融機関等職員が同席のうえ、専門家を派遣。という建付けになっています。

しかし、実際には企業と専門家が通じており、「企業側から専門家を指定してくる」といったケースや「金融機関等が同行しない」といったケースも散見され、真に適切な経営相談がなされているかが問題となっていました。

悪質なケースだと、経営相談の実態がないのに報告書だけ提出して国から専門家に謝金が支払われるということがあったそうです。


こうした問題を受けて国は下記のような制約の基に、旧ミラサポから「中小企業119」へとリニューアルした経緯があります。

・1回あたりの面談は原則3時間以上
・支援開始時と支援終了時はLINEで報告(GPSで場所確認)
・初回のみ無料(2回目からは有料)  など


しかし、中小企業を支援している立場の人間からすると、はっきり言ってこの制度は「めんどくさい」のひと言につきます。

ルールに縛られるあまり、現場に合わない設計

まず、相談内容に応じて面談時間は変わってくるものですが、まだ信頼関係もできていない初めて会った人同士が3時間以上も対話を重ねるのに大きなハードルを感じました。

同じく国が設置している無料経営相談所「よろず支援拠点」の場合、私の地元では「原則1時間」が相談目安となっています。


例えば、信頼関係を重ねた上でコンサルティング契約を交わしている顧問先であれば、会社全体の情報開示も進み、現状把握から経営課題の把握、ソリューション提案、効果検証など、時間を気にする必要もなく、優に3時間を超えるでしょう。

しかし、良くも悪くも「無料」の専門家派遣です。

相手の事がまだどんな人かわからない状態で、会社の経営状態を洗いざらい話す人もいませんし、例えば「Instagramの使い方」など特定のテーマだけで3時間を過ごすのも、耐えがたい時間です。後半1時間はあまり中身のない世間話でつぶすこともしばしば。

その他、LINE報告を忘れてしまったり、場所を変えてLINE報告をすると、再発防止宣誓書の提出を求められたり、支援機関側の負担も大きいものでした。

また、個人的にはこうした専門家派遣の有料化には賛成(確かなノウハウや知識提供の対価)ではあるものの、支援機関の推薦さえあれば誰でも専門家登録できるため、失礼ながら「有料契約に値しない経営相談」だなぁと感じる支援が存在することも事実としてありました。

そうこうして、「中小企業119」の利用率は激減し、現場の声を反映するかのごとく来年度は事業廃止となりました。


「倒産件数急増」で、国が次に求めるのは金融機関による経営改善計画

いま、中小企業ではコロナの際に借入した「ゼロゼロ融資」の返済が待ったなしで求められ、倒産件数が急激に増加しています。加えて、原油価格高騰や人件費高騰により、原材料が上がる一方でなかなか価格転嫁ができない(単純に粗利率が低下する)事態が起きており、この倒産の流れに拍車をかけています。

コロナ禍では「倒産件数過去最低」などとメディアも流していましたが、これは「3年間元金返済なし」としていたため当然です。今後、ますます中小企業の倒産が増加すると予測されています。

帝国データバンク「全国企業倒産集計2023年度上半期報」より引用


この事態に対して中小企業庁では、【「早期経営改善計画策定支援事業」を活用した民間金融機関による改善支援等の促進】と銘打って、金融機関での「405事業・ポスコロ事業」といった経営改善計画の策定を打ち出しています。


https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/2023/231226saisei.html

要は、「メインバンクにお金を払って経営改善計画を作ってもらいましょう」と国は言っているわけです。


金融機関側は大儀として「中小企業を救うため」と、こぞって手を挙げてこれに取組んでいくでしょう。本音を言えば企業側に借り入れがあればあるほど、倒産してもらっちゃ困りますし、更に計画策定に補助金まで貰えれば言うことなしです。


金融機関はコンサルになれるのか

多くの金融機関(特に地方にいけばいくほどリソース不足が顕著)では、満足のいく経営改善計画は作れないと思っています。

金融機関(税理士含む)では、経営改善の数字的な計画を策定することはできますが、重要なのは「何をしたらこの数値計画を達成できるか」です。

そして、個人的に中でも特に重要だと感じるのは「〝どんな課題に対して〟何をしたらこの数値計画を達成できるか」であり、それを把握できない金融機関職員が多すぎると感じています(お恥ずかしながら、私が所属する金融機関も含みます…)。

なぜなら課題を捉えるには、相当のヒアリングや現場観察が必要になりますし、専門的な知識やスキルも必要になってきます。

そういった面では、今こそ全国の金融機関で埋もれている「企業内診断士」のご活躍に期待したいところではありますが、私の経験上、経営改善は経営相談の中で最も大変であり、最も責任感を伴う仕事だと思います。

普通は企業が「生きるか死ぬか」という話をしているのに、「初めてですがよろしくお願いします」で通用する世界ではありません(それがまかり通るのが金融機関という特殊な業界でもありますが…)。

これまで眠っていた企業内診断士さんの覚醒という〝奇跡〟を期待するのも一つですが、現実的にはいまこそがプロのコンサルタントの出番だと思います。

腰の重い金融機関ではなく、フットワークの軽い診断士さんがしっかりと中小企業に向き合い、様々なスキルを駆使して企業分析を行い、真の課題を捉えることが求められているのです。

金融機関側がようやく本気になった今こそ、真のコンサルタントが求められていると思います。

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