見出し画像

【こんなことなら補助金6,000万円貰わなきゃよかった。】第9話:6,000万円の呪縛


<あらすじ>
コロナ禍で突如始まった国による「事業再構築補助金」
ゴルフレッスンプロの竹内勇作は最大6,000万円貰える補助金に採択され、最新鋭のインドアゴルフ場建設に胸を躍らせていた。しかし、この補助金にはいくつもの欠陥があったー。補助金を貰うまでの苦労、経営の難しさ、人間関係のすれ違いによって、抱いた夢は儚く散ってゆく。そんな竹内に対し、事業計画書を作成した中小企業診断士達によるコンサルティングという名の「管理」に竹内の精神は日に日に蝕まれていくことに。「こんなことなら補助金6,000万円貰わなきゃよかった」という竹内に対して、コンサルタントである九条が再建を任されることになったが、果たしてその行方はー。

第9話「6,000万円の呪縛」

竹内はオープン以来、インドアゴルフ場を利用した顧客からのクレームに追われていた。

「設備の使い方が分からない。」
「数値の意味が分からない。」
「ボールを打ったが上手く反応しない。」

導入した設備はプロゴルファーがレッスンで使用している最新鋭の設備である。

逆に言えば、プロを志していない人が扱うには難しすぎたのだ。

竹内は、機械がエラーを起こすたび、利用客に謝りながら、設備メーカーに電話をした。

また、従業員はいないため、日々の清掃やSNSへのアップもすべて一人で行っていた。

同様のクレームが入ることが続き、結局、竹内は、連日利用客に付きっ切りで、設備の説明を行うことになった。

会員数が120人までいかなければ利益が出ない。
利益が出なければ銀行への返済もできない。
返済ができなければ、潰れるしかない。

しかし、多額の借金を抱えたままでは、リスタートもできない。
なんとかして、会員数を増やさなければ。

気は焦るばかりだが、残念ながら身体は一つである。

更に言えば、補助金のルール上、「処分制限期間」というのが設けられており、耐用年数分は、補助金で取得した財産を売ったりすることはできない。

もし、期間内に売却等で処分した場合は、その年数や補助率に応じて、もらった補助金を返還しなければならない。

詰まるところ、竹内は、このインドアゴルフ事業を〝やめることもできない〟という状況である。

なんとかして、事業を軌道に乗せる以外に道は無い。

もがく竹内は、月に1度、真壁を引き連れて弊社を訪れてくる。
いや、正確にいえば、真壁が、竹内を引き連れているのである。

しかし、弊社ではこの案件は、相変わらずの〝小宮対応〟になっている。

竹内が来ると、すぐに応接室に案内されるため、真壁と小宮が、一体何を話しているかわからない。

唯一わかるのは、小宮が面談する度に、真壁からもらう会員数の増減グラフくらいだ。

ファイルに綴じ込まれている増減グラフには、オープンから6か月経っても会員数は50人程度に留まっている。相変らず苦戦しているのだけは間違いない。

ある時、一度だけ、弊社のトイレ前で、竹内にすれ違ったことがある。

久々に間近で見た竹内の顔は、2年前に比べて覇気もなく、更に瘦せ細り、眼も虚ろになっていた。

竹内は、すれ違いざま、私に向かってぼそっと呟いた。

「九条さん、補助金が採択された時には正直6,000万円貰えると舞い上がっていました。でも、こんなことになるなら、補助金6,000万円なんて貰わなければよかったです。あの時、ちゃんと九条さんの言うことを聞いていれば、今頃、こんなことにはならなかったのかもしれませんね。」

そう言うと、私に向かって軽く頭を下げた。

そして、再びトボトボと歩き出し、小宮と真壁が待つ応接室へ入っていった。

<第10話へ続く>


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?