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【こんなことなら補助金6,000万円貰わなきゃよかった。】第10話:拝命

<あらすじ>
コロナ禍で突如始まった国による「事業再構築補助金」
ゴルフレッスンプロの竹内勇作は最大6,000万円貰える補助金に採択され、最新鋭のインドアゴルフ場建設に胸を躍らせていた。しかし、この補助金にはいくつもの欠陥があったー。補助金を貰うまでの苦労、経営の難しさ、人間関係のすれ違いによって、抱いた夢は儚く散ってゆく。そんな竹内に対し、事業計画書を作成した中小企業診断士達によるコンサルティングという名の「管理」に竹内の精神は日に日に蝕まれていくことに。「こんなことなら補助金6,000万円貰わなきゃよかった」という竹内に対して、コンサルタントである九条が再建を任されることになったが、果たしてその行方はー。

第10話「拝命」

その日、皆が帰った後の職場で、私は、矢島と話していた。

「竹内さん、心身ともに相当来ている様子だったぞ、大丈夫かな。」

「数字を見る限りでは、大丈夫じゃなさそうですよね。わたしもなんだかんだ1年くらい竹内さんに寄り添ってきたので、なんとかしてあげたい気持ちはあるんですが…」

「そうだよな。でも部長のおかげで、あれじゃ助言しようにも口を挟めそうにない。」

「こないだ竹内さんが弊社に来た時、真壁先生が大声で怒鳴っているのが聞こえたんですよ。」

「そうなのか!?」

「はい、竹内って最後まで資金調達に困っていたじゃないですか」

「たしかに、あれはよく資金調達できたなと思ったよ」

「実は最後の不足分は、銀行借入ではなく「出資」で調達したらしいんです。」

「なるほど、出資か」

「その出資者というのが、どうやら真壁が顧問先の社長を紹介したらしくて。〝大のゴルフ好き〟ということで、興味を持って出資をしたそうなんですよ。」

「真壁の紹介か…それで真壁にコンサルを頼まざるを得なかったってわけか。」

「どうやらそのようです、でも蓋を開けたら、一向に儲かる気配がないと…それで、真壁は、竹内に向かって『何をやってるんだ!早く会員数を上げろ』って叫んでいたらしいです。」

「真壁大先生も、無責任にも程があるよな。自分でコンサルティングをやると言ったのに、結局数字の管理だけで何も策がないんだろう。」

「そうだと思いますね。実は、その件で、真壁が、小宮部長に対して協力要請したらしいと聞きました…」

「真壁が小宮に!?そうか…そうなると…」

「はい、覚悟しておいたほうが、よそさそうですね。」

「どちらか…」

――翌日、出社すると、小宮がドアの前で手招きしている姿が目に入ってきた。先に出社している矢島が呼ばれていないのを見ると、どうやら私の方だったらしい。

「九条くん、ちょっと。こちらへ来なさい。」

「おはようございます、小宮部長。何か?」

「いいから早く!」

私は、小宮の後に付いて会議室へ入り、机を挟んで向かい合うようにして座った。

「九条くん、サイバーゴルフ社の竹内さんの件なんだが…実は真壁先生から弊社にコンサルティング協力依頼が来ているんだ。」

「確か、そちらは部長案件でしたよね。我々は口出し厳禁のはずです」

「事情が変わってね。君にこの案件を担当してもらいたい。」

「はぁ…私がですか。ここ数ヶ月間ずっと真壁先生と小宮部長が対応されていたので、てっきり上手くいっているものだと思っていました。地域を代表する中小企業診断士の大先生と地域を代表するコンサルティング会社の部長という最強タッグですから。」

小宮の表情は一瞬にして硬くなり、チッという舌打ちする音が聞こえた。

「サイバーゴルフ社に関しては、私よりずっと部長の方がお詳しいと思います。私なんかでよろしいでしょうか。」

「あぁ!君が、担当だと言っているんだ!!」

「かしこまりました。」

「それじゃ、よろしく頼むよ。」

「部長、ちょっとお待ちください。それではコンサルティングに入る前に、事前情報をお聞きしておきたいんですが。」

「なんだ、早くしろ!」

「はい、まずはサイバーゴルフ社のここ数ヶ月間の目標と実績の動きを教えてください。」

「数字ならファイルに綴じ込んであるから、あとでそれを見ておきなさい!」

「それと…サイバーゴルフ社に対して、これまで具体的に、どのような施策を行ってきたのかを教えてください。当然、部長のことならコンサルティング計画とそれに伴うアクションプラン、予実管理、施策に対する効果測定などをされていると思いますが。」

「…それを君に言う必要はない。」

「部長、それでは困ります。これまでと同じ施策をしていても意味がありません。効果が出てない施策は見直しをかけないといけませんので、コンサルティングを行うためには大事なことです。」

「これまでは真壁先生がやっていたから、私も内容は良く分からない。」

「いえ、それでも1か月に1回弊社に来られて、ご一緒に会議をされていたはずです。まさか、クライアントがわざわざ忙しい時間を縫って、世間話に来たわけでもないでしょうに。」

「君は何が言いたいんだ…」

「私は、サイバーゴルフ社の現状をご教示願いたいだけです。」

「…もういい!つべこべ言わずに早く取りかかれ!!」

「承知しました。」

私が会議室を出ると、周りはやけに静まり返っていた。
みんな小宮の大声に耳を立てていたのだろう。

小宮は真っ赤な顔をしたまま電話をかけだした。
電話の相手は真壁だろう。

「サイバーゴルフ社の件、弊社の九条が担当をさせていただきます。」

「なんだ、小宮くんがやってくれるんじゃないのか。」

「はい、もちろん私も全力でサポートをさせていただきます。しかし、ゴルフ案件は、弊社の九条が得意分野でして…」

「ほぅ、そうか。それは頼もしい。それじゃ九条くんによろしく頼むと伝えてくれよ。」

「は、はい、ありがとうございます。必ず結果をお見せしますので…それでは、今後ともよろしくお願いします。」

小宮は電話を切ると、緊張の糸が切れたのか、腑抜けた顔でどこかへ行ってしまった。

「九条さん、小宮部長に何を言ったんですか?部長、真っ赤な顔をして出てきましたよ。」

矢島が、にやけた顔で近づいてきた。

「いや、別にサイバーゴルフ社の現状を聞いただけだよ。」

「九条さんも人が悪いですね。でも、サイバーゴルフ社の件、よろしくお願いします。何か分からないことがあればなんでも聞いてください。」

「あぁ、助かるよ。久しぶりに骨が折れそうな案件だ。気合い入れなくちゃな。」

かくして、私は、サイバーゴルフ社の経営改善に取りかかることになった。


<最終話へ続く>


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