【こんなことなら補助金6,000万円貰わなきゃよかった。】第9話:6,000万円の呪縛
第9話「6,000万円の呪縛」
竹内はオープン以来、インドアゴルフ場を利用した顧客からのクレームに追われていた。
「設備の使い方が分からない。」
「数値の意味が分からない。」
「ボールを打ったが上手く反応しない。」
導入した設備はプロゴルファーがレッスンで使用している最新鋭の設備である。
逆に言えば、プロを志していない人が扱うには難しすぎたのだ。
竹内は、機械がエラーを起こすたび、利用客に謝りながら、設備メーカーに電話をした。
また、従業員はいないため、日々の清掃やSNSへのアップもすべて一人で行っていた。
同様のクレームが入ることが続き、結局、竹内は、連日利用客に付きっ切りで、設備の説明を行うことになった。
会員数が120人までいかなければ利益が出ない。
利益が出なければ銀行への返済もできない。
返済ができなければ、潰れるしかない。
しかし、多額の借金を抱えたままでは、リスタートもできない。
なんとかして、会員数を増やさなければ。
気は焦るばかりだが、残念ながら身体は一つである。
更に言えば、補助金のルール上、「処分制限期間」というのが設けられており、耐用年数分は、補助金で取得した財産を売ったりすることはできない。
もし、期間内に売却等で処分した場合は、その年数や補助率に応じて、もらった補助金を返還しなければならない。
詰まるところ、竹内は、このインドアゴルフ事業を〝やめることもできない〟という状況である。
なんとかして、事業を軌道に乗せる以外に道は無い。
もがく竹内は、月に1度、真壁を引き連れて弊社を訪れてくる。
いや、正確にいえば、真壁が、竹内を引き連れているのである。
しかし、弊社ではこの案件は、相変わらずの〝小宮対応〟になっている。
竹内が来ると、すぐに応接室に案内されるため、真壁と小宮が、一体何を話しているかわからない。
唯一わかるのは、小宮が面談する度に、真壁からもらう会員数の増減グラフくらいだ。
ファイルに綴じ込まれている増減グラフには、オープンから6か月経っても会員数は50人程度に留まっている。相変らず苦戦しているのだけは間違いない。
ある時、一度だけ、弊社のトイレ前で、竹内にすれ違ったことがある。
久々に間近で見た竹内の顔は、2年前に比べて覇気もなく、更に瘦せ細り、眼も虚ろになっていた。
竹内は、すれ違いざま、私に向かってぼそっと呟いた。
「九条さん、補助金が採択された時には正直6,000万円貰えると舞い上がっていました。でも、こんなことになるなら、補助金6,000万円なんて貰わなければよかったです。あの時、ちゃんと九条さんの言うことを聞いていれば、今頃、こんなことにはならなかったのかもしれませんね。」
そう言うと、私に向かって軽く頭を下げた。
そして、再びトボトボと歩き出し、小宮と真壁が待つ応接室へ入っていった。
<第10話へ続く>
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