第2回:「女神の継承」

映画の感想を書いていこう!と決意しておきながら1年以上放置しました。分かりやすい三日坊主(いや一日坊主か…?)。最近また映画を見始めているので、少しずつ書いていこうと思う。
ネタバレ含むところには注意書きを設けます。

あらすじ

ざっくりどんな映画かあらすじを書いておく。
『女神の継承』はタイのある村に暮らす祈祷師一族を取材する、モキュメンタリーホラー。祈祷師一族には神「バ・ヤン」に選ばれた女性が巫女となる風習があった。
巫女のニムを取材していると、ある日をきっかけに彼女の姪・ミンに異変が起き始める。その様子を追う取材班だったが、やがて予期せぬ怪異に巻き込まれていく。

感想(ネタバレ無し)

『哭声/コクソン』のナ・ホンジン監督が原案・プロデュースということで、少し比較しながら観てしまった。コクソンがトラウマ級のグロさだったため本作を観る時も身構えたが、そこまでは怖くないかなという印象。物語の展開がなんとなく予想できるものだった。
ただ、リアルさと描写の不快さに関しては『女神の継承』の方が上かもしれない。前半はジワジワと日常が侵食されていく恐怖、後半は後戻りのできない地獄。「もうやめてくれ!!」と叫びたくなるシーンが多かった。罪のない存在に対する容赦も一切ない。
人間の業の深さと目に見えない存在たちの恐ろしさを思い知らされる映画だった。


以下、ネタバレ含みます。

感想(※ここからはネタバレあり)

ここからは内容に触れた感想を書く。




予想できる展開とは言ったものの、まさかミンに取り憑いたものが女神(バ・ヤン)じゃないとは思わなかった。確かにミンの奇行は神聖とされる存在が行う行動ではない。むしろタブーとされるような行動だ。
豹変したミンの焦点の定まらない目、四つん這いになり徘徊する姿、常軌を逸した言動。最初に見た快活なミンはもうどこにもいないという恐怖。
さらにペットの犬や赤ちゃんが犠牲になっていく様子は凄惨で、とにかく不快だった。

また、ヤサンティア(ミンの姓)一族の業が深すぎる。
先祖の罪を子孫が一身に受けるのは理不尽だと思ったけれど、よく考えるとみんな少しずつタブーに触れてるのかもしれない。ノイは犬食を禁じられているのに犬の肉を売り、ノイの義父は過去に保険金詐欺を行い、ミンとマックは兄妹にも関わらず特別な関係を持っている。
積もり積もった業と、女神を拒んだノイの子ども。
ミンが「復讐」の仕上げとして選ばれたのは偶然ではないと思う。

かなり絶望色が強く恐ろしい映画だったが、ちょっと残念な点がある。
前半はモキュメンタリー形式が効果的に活かされてリアルさが出ていたが、後半はその形式が仇になっていた気がした。
儀式が失敗し次々に狂っていく人々や、エスカレートしていくミンの奇行。
正直もう取材やめときませんか…?感がすごい。野犬のようになった男たちに噛みつかれ命の危機が迫っても、身を隠しつつミンとノイのやり取りを撮影する。記者の鏡だよもう。
でもモキュメンタリーだからこそ、敢えて映してない部分で想像を掻き立てられ恐怖を煽られるメリットはあると思った(ノイが燃やされるシーンとか…)。

個人的な絶望ポイントとその考察

個人的に「あ、終わったな」と思ったポイントは、ニムの死だった。
彼女の死因は「ライタイ(睡眠死)」であり、かなりサラッと描写されていたがいちばんキツかった。
この物語に出てくる中で比較的冷静かつまとも(に見える)のはニムくらいだった。しかもこの物語の主軸を担う巫女という存在なので、主人公ポジションだと思っていたのに。
彼女が死んだあと頼れるのは、死亡フラグがしっかり立った祈祷師だけだった。確実に儀式失敗する感(案の定彼のせいではないが大失敗した)。

彼女は巫女にも関わらず、なぜあんなにあっさり亡くなってしまったのか。
以下2つを原因として考えた。

①そもそも女神「バ・ヤン」は存在しなかったから
②存在したが、その加護が弱かった/弱まっていた

私としては②が有力かな、と思っている。
①はニムの「女神の存在を感じられない」という趣旨の発言から考えたのだが、もし本当に存在しないのであれば、他の祈祷師と比較して素朴な(というか普通の女性に見える)ニムがなぜここまで祈祷師としてやってこれたのか、怪異はマックの仕業でないと見抜けたのかが疑問だ。
悪霊による女神像斬首や前述のニムの発言から、女神の加護が弱まっていたと考える方が妥当と感じた。
信じるものは救われるが、神の存在を疑ったものは見放されてしまう。ニムも神への疑念を持ったために、とうとう怨霊の手にかかってしまったのかもしれない。

しかしニムは完全に見放された訳ではなかったように感じた。
次々と凄惨な目にあっていく人々と比較して、ニムの亡くなり方は比較的穏やかだ。
最期まで女神によって守られていたのか、あるいはこれから起こる地獄を予見した女神による慈悲か。


まとめ

怖いけど観るのを躊躇するほどではない、私にとってはちょうどいい映画でした(一部描写を除いて)。
そしてやっぱりいちばん怖いのは人間。

他の方の感想を読んだ際、
海外映画、特に本作のようなテーマの作品は、舞台となる国の文化やそこに根付く宗教について学んでから観た方がより楽しめるように感じた。
色々な知識を身につけたいな。

次は「怪物」の感想を書くかもしれないし、書かないかもしれません。
おしまい。


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