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春が死んだ
桜並木沿いのバイパスを通ると、無数の桜の花びらが青空からフロントガラスに落ちてくる。
桜たちを横目で見る。もうすっかり緑色になってしまっていた。
もう4月も後半に差し掛かかって少しあったかくなってきたというのに、外にはあまり人がいない。
誰もかもが見えない何かに怯えている。
ちょっと前まで人ごとだったそれは、この街をじわじわと日常を侵食し始めている。
人がまばらになったショッピングセンターに、食料を買いに行った。ほとんどの人の顔はマスクで覆い隠され、いくつかの店には紐や緑のネットが張り巡らされている。
『コロナウイルスの流行により、当面の間休業させていただきます』
これが、正しい『日常』だったのだろうか。私たちって、今までどうやって生活してたっけ。
少し混乱した状態でショッピングセンターを出ると、足元に小さくて赤い何かが見えた。
何だろう、と目を凝らす。広がった赤い羽、黒いドット模様、なす術なく踏み潰されたであろう小さな体。
(あ、てんとう虫)
春は死んでしまった。
もう今まで通りの春はどこにもいないのだ。
漠然と、今の状況を突きつけられた気がした。
ひゅうっと鳴く強い風に吹かれて、少しふらつきながら歩き始めた。
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