🎬「ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。」

※映画の内容を含みますので、読みたくないという方はこちらでお戻りください。

私はあまりドラマとか映画とかそういったものを見る方ではないのですが、興味を持ったら躊躇なく行動しちゃう人なので、先日、気になる映画を見つけ、1人神戸へ向かいました。

映画のタイトルは「ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。」

(映画の公式サイト)
https://chottokitachosen.ndn-news.co.jp/

本当のところは、現状、日本と北朝鮮の間には正常な国交がないため、「ちょっと行ってくる」なんてことはできないのですが…

だからこのタイトルはとっても惹かれるものがありました。

ストーリー・内容を簡単に説明すると…(私の感想も少し入っています)

戦後、在日朝鮮人の夫と結婚した日本人女性の愛子さんは、「帰国事業」により北朝鮮へ「帰国」する夫と共に北朝鮮へと渡航しました。「3年したら日本に帰れる」と言われたものの、その後愛子さんが日本に帰ることはありませんでした。愛子さんには20歳離れた恵子さんという妹がおり、愛子さんと恵子さんは離れ離れになった後もなんとかわずかな文通で繋がっていました。しかし、恵子さんは北朝鮮へ行ってからの姉の様子(文通の内容)に落胆し、次第に音信不通になっていきました…。

そんなある時、恵子さんのもとへ、日朝・日韓関係に力を入れて活動しているフォトジャーナリストの伊藤孝司さんから、姉愛子の消息が知らされます。「死ぬ前に姉にもう一度会いたい」という思いに突き動かされ、恵子さんは未知の国北朝鮮へと向かうことを決意します…。

ネタバレ？をしてしまうと、最終的にこの姉妹は北朝鮮で、約60年ぶりに再会することができるのですが、再会のシーンは涙なしには見れませんでした。シアターには私を含め10名弱しかいませんでしたが、たくさんの啜り泣きが聞こえました。

60年の月日が流れ、きっと自身の記憶の中にあるその人と目の前にいる人の姿はかけ離れたものであったでしょう。それでも、2人とも言葉もないままに嗚咽しながら熱い抱擁を交わすその姿に感動させられました。

伊藤さんの取材(妹と会う前)では、どこか哀しげな目をし、言葉にも力のなかった愛子さんですが、恵子さんとの再会シーン以降は、同じ人とは思えないほどハキハキと笑顔いっぱいでお話されていたのがとても印象的でした。

また、恵子さんと再会してからの2人揃ってのインタビューの場面では、愛子さんはずっとずっと恵子さんの手を握られていました。愛おしい、大切な存在で、とってもとっても会いたかったであろうことが容易に想像できる仕草でした。

私も祖母や曽祖母が、会いに行くたびにずっとずっと手を握ってくれたことを思い出しました。その手は暖かくて、言葉はなくとも愛おしい、会いたかった、離れたくない、そんな気持ちが伝わってくるものでした。

恵子さんは、愛子さんとの再会の喜びを他の在北朝鮮日本人妻の方々にも味わってもらいたいと、情報収集、再会のための活動を始められました。しかし、そこに待っていたのは厳しい現実で、「自己責任」「ずっと関わりがないから別に会いたくもない」「興味がない」そんな声ばかりでした。

恵子さんは、なんと1度目の再会の後、翌年も愛子さんに会うために訪朝されました。継続して北朝鮮に訪れる予定だったようですが、新型コロナウイルスの影響で2019年以降は入国することができず、また、国際郵便も全面停止になったために、愛子さんの安否は不明だそうです…。お元気でいらっしゃることを願うばかりです。

※「帰国事業」とは？
1959年から1984年にかけて行われた在日朝鮮人とその家族による北朝鮮への集団的な移住。日朝両政府のそれぞれの思惑から始められ、当時の日本中のメディアも北朝鮮を「地上の楽園」と持ち上げ、後押しした。9万3千人以上が参加したが、そのほとんどが実際は、朝鮮半島南部、現在の韓国の出身者だった。国民的な熱狂の中、送り出された「帰国者」の中には日本人の妻、約1,800人が含まれていた（子どもを含めると日本国籍保持者は約6,600人）。
(映画公式ホームページより)

見て考えたこと

さて、私がnoteを書くのは単に映画の紹介をするためではありません。

自分がそこで感じたこと、考えたことを記録、そして共有するためです。

映画を見ながら本当に色々感じ、色々考えました。忘れないうちに、頑張って言葉にしてみます。きっとうまく纏めることはできませんが、ご了承下さい。

「韓国語(朝鮮語)を勉強しててよかったな」ということ。

まず、まず、最初に思いました。

もちろん、北朝鮮側のシーンは大半が朝鮮語での会話です。基本的に字幕はついているものの、付いていないところや意訳されている(ニュアンスが少し違う)ところもありました。また、愛子さんを始めとする日本人妻の方々は、日本語と朝鮮語を混ぜて話していらっしゃり(在日コリアンと同じだ！と少し嬉しく？なりました)、朝鮮語の部分に字幕がつく時もありましたが、恐らく問題ないということでスルーしている部分もありました。なので、韓国語(朝鮮語)をできるおかげで、より理解しながら見ることができました。

北朝鮮で話されている朝鮮語と韓国で話されている朝鮮語は少し違う(訛りがある)と聞きますが、この映画内の北朝鮮での朝鮮語は、聞いていてあまり韓国語との大きな違いを感じなかったです。初めて生の北朝鮮の朝鮮語を聞き、元はひとつの国だったのだということをどことなく強く感じた部分でした。

「自分事」だなということ。

私の父は在日コリアン3世で、私から見た曽祖父母が恐らく1940年代に日本に渡ってきました。曽祖父母は共に済州島出身なのですが、「帰国事業」により北朝鮮へ向かった人たちは決して現在の北朝鮮(北方)出身の人だけでなく、現在の韓国出身(南方)の人も多くいました。だって元は「朝鮮」というひとつの国だったのですから。(恐らく背景には民団と総連の対立などもあるでしょう)

つまり、2000年代を生き、韓国籍を持っている私にとって、北朝鮮は自分とは関係のない国だとどこかで思っていたわけですが、もしかすると曽祖父母や祖父母が「帰国事業」により北朝鮮へと渡っていた可能性も大いに考えられますし、なんなら自分が知らないだけでもしかすると親戚の誰かは今も北朝鮮にいるのかもしれません…。そう考えると、まったくもって恵子さんや愛子さんのお話は他人事とは思えませんでした。

正直、もっと帰国事業について勉強しなければならないな、知りたいなと思いました。

北朝鮮に対するイメージ。

みなさんは北朝鮮という国についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。

私は包み隠さずに言うと、「ミサイル」「独裁」「貧困」「やばい」「よくわからない」「怖い」そんなイメージでした。

でも、きっと日本にいるほとんどの人がそんなイメージなのではないでしょうか。

何にせよ、北朝鮮という国は日本と正常な国交を持っていないこともあり、私たちのもとに情報は入ってきませんし、手に入れることも難しいです。だから、否定的なイメージが集まってしまうのも、一種仕方のないことだと私は思っています。

ただ、当たり前だけれど、国民ひとりひとりには「日常」があって、私たちと同じように生活を営んでいる。このことは覚えておかなければならないなと思います。

中々北朝鮮の内部を見ることは難しいですが、こちらの映画では一般市民がどのような暮らしをしているのか垣間見ることができます。

在日朝鮮人と「帰国事業」。

在日朝鮮人は、ただでさえ苦しかった戦後の日本社会の中で、底辺層として生活していました。ろくな仕事にもつけず、大変苦労していたそうです。そのため、当時の日本政府(国民も？)からすると「お荷物」だったようです。「早く出ていってほしい」「日本に居てほしくない」そんなふうな意図があり、「帰国事業」が進められたそうです。もちろん、建前上は、「在日朝鮮人が望む祖国への『帰国』を叶えるための事業」でしたが。映画の中で、「これは『帰国』などではなく、大規模な人口移動なだけだった」と言われていたのが印象に残っています(すみません、仰っていた教授の方の名前が分からないです…)。また、この事業のバックには日本赤十字社が付いていたと聞き、大変驚きました。大きな企業がバックについていたこともあり、「地上の楽園」を信じることができた面もあるようです。日本社会全体としてこの制度をごり押ししていたことが見て取れます。

片道切符で未知の場所へ行く、到着地が良い場所である保証も、帰ってこれる保証もない。そんな「帰国」はどれほど勇気のいる事だったのでしょうか。相当日本の生活が苦しかったのでしょうか。

なんだか、在日コリアンというと「戦後帰国することができなかった人たち」という風に表現されがちですが、そもそも植民地支配をしていたのだから、国籍や居住地に関して日本政府は選択を与えるべきだったと私は考えます。(というか大学でそのように習った記憶があります)

「帰国」ってなんでしょうか。

生まれ育った事のない未知の地に帰る事も含むのでしょうか。

「祖国」ってなんでしょうか。

行ったこともない知らない国のことも指すのでしょうか。

ずっとずっと疑問です。

「自己責任」「自業自得」論。

事の発端は、愛子さんが在日朝鮮人の夫と結婚したこと、そして「帰国」したことにありました。私はどことなくこの映画を見て「在日朝鮮人が悪いんだ」なんて思ってしまう人もいるのではないかと懸念しました。いや、実際いるのではないでしょうか。感動ポルノとまでは言わなくとも、やっぱり北朝鮮に渡った「日本人」妻は可哀想、被害者だ、悪いのは在日朝鮮人だ、そんな眼差しがどこかにあるような気がしてなりませんでした。

ただ、日本人妻も含めて「自業自得」だと、自分が選んだ道なのだから仕方がないという意見が飛び交っているのも事実です。

映画の最後には、恵子さんが再会のための活動をされている中で、そんな言葉をたくさん見ることになります。

どうして日本社会はこんなに「自己責任」という言葉が大好きなのでしょうか。

貧困も、心の病も、性的暴力も…全部全部「自己責任」だといいます。

たとえ、愛子さんが好きで選んで在日朝鮮人と結婚し、北朝鮮へ渡ったとしても、ずっと帰国できないことや家族と会えないことは本当に自己責任なのでしょうか？

私にはそうは思えません。

つらつらと書いてみましたが…

うまくまとめられているか不安です。いや、とにかく今考えていることを感情のままに書いたのでうまくまとめられていません。

また書きたいことが思い浮かべば、編集するかもしれません。

とりあえず…

興味に導かれ、この映画を観に行きましたが、「観に行ってよかった」、これだけは確かです。

学んだこと、気づいたこと、もっと知りたいことを得ることができました。大きな収穫です。

私は済州に本籍地があるけれど、もしも現在の北朝鮮に本籍地があったらどのように生きていたのだろうか、とか、北朝鮮で日本人ってどのような存在なのだろうか、とか、そもそも自分の周りに「帰国事業」で「帰国」した人はいるのだろうか、とか色々頭に浮かばせながら見た映画でした。

もっと周りの人に自分のルーツや家族について聞いてみたいと強く思いました。

韓国と日本はよく「近いけど遠い国」と表現されますが、北朝鮮こそまさにそんな国ではないでしょうか？

日朝の国交が正常化する日が来るかなんて、私にはわかりませんが。北朝鮮という今までは遠かった国を、もう少し知ってみよう、考えてみよう、そんなふうに決意しました。

追記(2021年12月26日)

活動団体のnoteがありましたので共有させていただきます。https://note.com/nihonjintuma/n/n9a9c61e03455