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酒がやめられない父親と娘の話③





こちらから二度と連絡しない!!決めた決めた!!決めたんだから!!オヤジから連絡が来た時に対応出来る事だけをすればよい。それが良い。うんうん。と自分を納得させていた。何とかしてあげないと、思っていたけどそれは無理だわ。そんな矢先に電話が鳴る

ごみ捨てに行こうと思ったんだけど途中で動けなくなって近所の人に助けてもらったんだ。悪いけど、ごみ捨てしてくれるか?

ふぅーー。と一息ついて、で?どちらの方にお世話になったの?

最近、近所に越してきた人だと思うんだ。

ともかく行くから。と電話を切る。実家に着き、ごみを先に捨て家に入る。あのさー。と言いかけたときに。ごめん。いつも迷惑かけてごめん。

なんなのよ。先に謝るなんて反則ですけど。一通り、あたしに文句言わせてから、しおらしく、してくれないかしら?何も言えなくなるだろうが・・・

自分でもこんなに体力が落ちてるとは思わなかった。ちょっと先のごみ置き場まで行かれなくなって、人様に世話になるなんて不甲斐ない。と落ち込んでるオヤジ。

突っ込まずにはいられない。なに言ってんの?と、ど突き倒したくなる衝動を必死で抑えた。本気で思ってるなら、朝から飲むのやめたら良いんじゃないの?

そんなに飲んでないんだけどな。酒が原因だとは思えないんだけどなぁ。

思えない。じゃなくって思いたくないんでしょ?語気が強くなってきてしまう。

お前に世話にならずに一人でも生活していけるように、介護保険の申請しようと思っていたんだけど、今の状態だと特に問題ないってことで受けられないんだったさ。

ある意味、元気だ。と言われてる事だから本来喜ぶ事だよね。いやー。その前にやれることは有るんじゃないの?あるよね?

こんな自分が情けない。と次は目から涙がこぼれてる。おぉーーーーーい。泣きたいのはこっちだよ。それより、話を逸らしましたね?

あたしもオヤジの歳になったらきっとわかるんだろうか?今はまだ理解してあげられてないだけなのかもしれないな。と、ふと思った。あたしはなんて優しい娘なのだろうか。親の顔が見てみたいわ。((笑)

まず、筋トレしてみたら?病院のリハビリに通うとか、デイサービスの通所でもトレーニングできるよね?通ってみたらどーよ?

うん。そうだな。やれることやってみるか。とそそくさと表を作り始めた

足上げ。腹筋。スクワット。一日何回の目標を作りだした。

それを眺めながら、人って減らすことよりも増やすことのほうが楽なんだろうか?酒は止められないけど←減らす。筋トレはやる気になる←増やす

満足した表を作り上げて、温泉でも行きたいよな。なんか日常に変化がほしいなぁ。とオヤジ

そーよね。このご時世で老人会活動も、地域でのコミュニティも自粛になってしまってるもんね。妹も誘って近場の温泉宿でも行ってみる?

妹にも、オヤジのこれらの出来事は報告しているけれど、この先色々と決断を迫られることもあるだろうし、オヤジの真意も共有して置きたいし、今だからこそ話せる事もある。オヤジにとっての終活とでもいうべきか。

温泉宿につき、夕食を済ませ、湯浴衣に着替えだしたオヤジの足が目に留まる。ちょっと、なんの状態なのよ????

足がゾウの様に膨れ上がり赤みがある。これ炎症してるよね?痛みはないの?

痛みはそれほどじゃないんだけどな。

よくも、この状態でここに来たよね?これ明日病院に行かなきゃだよ?

うんうん。自分で行くから大丈夫だ。そんな会話をしてオヤジは近所の内科に受診した模様。私の電話が鳴る

今から救急車で○○病院に行くことになったから来てもらえるか?

ここの医師がすぐに大きい病院で診察してもらわないとダメだ。ということでこのまま帰すわけにいかない。と考えてくれた様で救急車を手配してくれたのだ

搬送先の病院で、蜂窩織炎(ほうかしきえん)ですね。症状が重いのでこのまま入院します

この疾患も二度目。酒は厳禁とされている。これを知られれば酒止めろ!と言われることを回避したいがためにここまで黙っていたに違いない。ともかく入院中は飲めないだろうから。これが何かのきっかけになれば。と思っていたが、期待は簡単に裏切られる。

10日ほどの入院生活の元、無事に退院できた。そこでもお酒は当分控えてくださいね。と主治医。聞こえないはず。オヤジの耳には届いてないよ。先生。

退院して二日ほど経ったある日、電話が鳴る。

○○市で民生委員をしております。○○です。○○さんの娘さんのお宅ですか

あぁーーーーーーん。なんか嫌な予感がするんですけど?はい。父に何かありましたか?

お父様には日頃から地域活動に貢献していただきまして、それで市から賞状と記念品を届けに伺ったのですが、呂律が回らない喋りでふらついていらっしゃったので心配になりまして、連絡した次第なんです。

あぁ・・・。きっと飲んでます。きっとじゃなく絶対に飲んでます。

えっ?朝からですか?

はい。父は朝から飲む人なんです。

そんな事ありますか?信じられない感じの民生委員さん。いつもしっかりとした方ですので、ちょっと心配だったんですけど・・・。そうですか。朝からお酒を・・・言葉に詰まる民生委員。無理もないです。その反応正解です。ええ

今から様子を見に行ってきますね。連絡いただいて、心配までしていただいて有難いです。ありがとうございました。

放心状態に陥る。全くもって言葉が出ない。

そこから、また電話が鳴る。まさかね。まさか・・・

包括支援センターでケアマネジャーをしている○○です。○○さんの娘さんのお宅でしょうか? はいはい。娘のお宅です。

お父様から介護保険の申請の件でご相談を受けてまして、先ほど伺ったのですが、様子が変でして、話を聞いてるようで聞いてないような、時折目を閉じてりして、言葉もこもりがちなんです。体調が悪いのではないでしょうか?

ケアマネジャーさんが自分のためにご足労をかけて訪問すると分かっていたのにも関わらず、酒を飲む神経がいやはや理解できないわ。今回は、自分だけのみならず、オヤジからお願いしていたのに…。怒りと情けなさがこみ上げる。

すみません。お恥ずかしい話なんですが、朝から飲んでるんですよね。きっと既に酔っぱらってるんだと思うんですよ。本当に申し訳ございません。

あっ・え?朝からですか? はい。思いますよね。その反応当然です。

そこから、私の思いが込み上げて話が止まらない。ケアマネさんは相槌を打ちながら、私の怒涛の勢いで溢れ出す思いを受け止めながら聞いてくれた。

これからお父様のご希望される支援を色んな方向で考えていきますから娘さんも遠慮なく私に相談ください。

あぁ・・・。ほっとした。ほんとにほっとした。相談できる相手がいる。って事だけでほっとする。一人でやりこなさなきゃ。と思い込んでたんだな。私。

実家に乗り込んだ。今日は私の怒りをぶちまけてやる!!我慢ならない!!そんな気持ちだった。家に入ると、オヤジは泥酔状態。無理もない10日振りの朝から飲む酒。酔いが回るのも早いだろうさ。お前、何しにきたの?そんな顔してる。

私の心臓の鼓動が頭に響いて来る。

一体、何回こんな事したら気が済むのよ!!うんうん。と頷くオヤジ。今、何を言っても無駄だわ。オヤジはそのまま、倒れ込んだ。蹴っ飛ばしたくなる私。仏壇の母親の写真が私を見つめてるちょっと、何見てんのよ!!あんたの亭主がこの様よ。なんで私が・・・。と一通り母親に八つ当たりした途端に気持ちが落ち着いた。そのまま、毛布をかけて家を出た。

次の日の朝。今日もなんとか生きてます。昨日は申し訳なかった。今日から朝の禁酒を始めます。オヤジからのメールだった。へー。覚えてたんだ

了解しました。嘘をつくのだけはやめて下さい。飲んだら飲んだと言ってくださいね。

そこから毎日、禁酒継続中のメールが届く。

励ましたり、褒めたりの返信をする私。妙な気分になって来る。私って、オヤジにこんなに褒められたり、励まされたりした事ないわ。なんなの。この親孝行な私。親孝行にも程があるってんだよ!!良い娘を持ったわね。このクソオヤジ!の思いを込めつつやり取りが続いたある日。

今日は飲んでしまいました。すみませんのメール

あ。まぁ。想定内です。はい。仕方ないですよ。またリセットしたら良いさ。の返信をした数時間後、私の携帯の電話がなった。

なんかだろう。この胸騒ぎ。

続く。




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