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ネザーランド・ダンス・シアター来日公演

7月6日 神奈川県民ホール

諸事情により、1作目の「La Ruta」は途中からしか観れなかったので(泣)(←フルで観たかった……いつか現地で観たい!)
2作目から感想を書きたい。大ホールで遠目からしか観れなかったためか、全体としてとても感動したとか、心揺り動かされたなどということはあまり感じられなかった。私がコンテンポラリー・ダンスを観始めたのはここ数年の話だが、同時にここ数年はいろんなできごとがあって、おなかいっぱい笑。新たに感動させられるのもエネルギーがいるのだろうな。30代になるまでにダンスを軸にして旅に出たい。


本日の演目

2作目 「I love you, ghosts」 振付:マルコ・ゲッケ

最初は、ハリー・ベラフォンテが歌う「Try To Remember」が流れた。音楽は穏やかな旋律で、歌詞ものんびりとした感じの曲なのに、振り付けは小刻みにせわしなくロボットのようにダンサーが動いていた。その後もクラシック音楽が流れるが、マルコ・ゲッケの振り付けの特徴らしいが、ときおり足を上げたりするのに伸びやかな振付以外は、終始ロボットのようだった。観ていて面白かった。

最後流れた曲は、同じくハリー・べラフォンテが歌う「Danny Boy」だった。急にDanny Boyが流れて、私はもちろん村上主義者として『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を思い出さずにはいられなかった。

 『ダニー・ボーイ』
 僕は目を閉じて、そのつづきを弾いた。題名を思い出すと、あとのメロディーとコードは自然に僕の指先から流れでてきた。僕はその曲を何度も何度も弾いてみた。メロディーが心にしみわたり、体の隅々から固くこわばった力が抜けていくのがはっきり感じられた。久しぶりに唄を耳にすると、僕の体がどれほど心の底でそれを求めていたかということをひしひしと感じとることができた。

村上春樹,『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(下)』,新潮社,1985,p338-339

と、引用でこの文章を打っていて、「I love you, ghosts」の物語を自分なりにつくるなら、まるで現代の、リアル版・『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のようだと思ってしまった。思い込みすぎかもしれないが。

小説のハードボイルド・ワンダーランドの方の主人公・<私>は計算士で、論理的な意識的なコンピューター的な世界に生きているが、老科学者により意識の核に「世界の終り」を組み込まれ、幻想的な「世界の終り」に意識だけが入ってしまう。

現代の私たちも仕事やプライベートでもなんでもパソコンやスマホが欠かせない。無いと不便だ。もはやそのことを言うまでもないほど、コンピューター的世界は当たり前になっている。
便利になった一方で、私たちは心や身体という存在が希薄化し、"ghosts"になっている。
その事実を、実際に劇場に足を運んで、遠目からでも生のダンサーの息遣いや、超人的な動きをまじまじと目撃して、それから最後の「Danny Boy」を踊るダンサーを観て、体感した。

確かにこの曲は、引用した部分のように、メロディーが心にしみわたる。私は実際に『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の<私>の意識が「世界の終り」に行くときにいた晴海埠頭で実際に「Danny Boy」を聴いたことがある(ボブ・ディランの「ハード・レイン」も聴いた)。当時社会人一年目で、晴海埠頭近くの高層ビルや高層マンションが埋め立て地に立ち並ぶ人工的な街で毎日パソコンとにらめっこしていたため、「Danny Boy」を聴いて心がマイルドになれた。

たとえゴースト化しても、音楽を心に沁みこませて自分を愛し、周りの人も愛していこうということ?


3作目 「Jakie」振付:シャロン・エイアール&ガイ・ベハール

テクノやバンド曲が流れる。坂本龍一の「The Revenant Main Theme」などだ。
私は観ていて、クラブやライブハウスやダンスフロアのような場所で、その場所に来た人々がアルコールに酔いながらなんとなく音楽に身体をノらせるという楽しいひと時を、真面目に振り付けて練習して上演したらどうなるか?ということを観ているようだと感じた。しかもここはクラブではなく、劇場であり、NDTという世界最高峰のクラシック・バレエをもとにしたコンテンポラリー・ダンス・シアターの舞台である。

実際、クラブのように着飾るのとは正反対に、ヌーディーな衣装で装飾物は特になかった。また、舞台美術も都会的な雰囲気とはかけ離れており、山などの自然の中にいるような設定に見えた。

特に印象的だったのが、曲を通じてほとんどルルベで・かかとを上げて踊っていたことだ。まさにクラブミュージックで踊ることの、限界まで挑むという感じ。ハイヒールではなく、ルルベ。

なんとなく踊るというのも楽しいが、個人的にはダンスが楽しいという感覚でとどまってしまうのは惜しいと思っているので、この限界まで挑むというのは感嘆した。

自分も、踊ることの"楽しい"の気持ちの先にある、社会への効果を波及させることにもっと尽力したいと思った。


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