要支援な母 と 期間限定の同居
母が家に戻ることに恐怖を感じるようになってから1ヶ月、私たちは一緒に暮らした。
子供達はおばあちゃんの連続の宿泊に最初は大喜びし、次第に普通に甘える相手となり、居ることが日常になっていった。
誰より感謝したいのは夫だ。
一度も文句を言うことなく、逆に一緒にどうしたらいかを真剣に考えてくれた。
「一緒に住んだっていいんだよ」と言ってくれた。
私が母とも義理の両親とも同居したくないため、「同居はしない」と宣言した。
私にとって祖母との数年間の生活は大きなストレスだった。今は母のことも義理の両親ことも好きだ。嫌いにならないためには適度な距離が必要だと痛感している。
今の母には、サービス付き高齢者住宅が一番ではないか、と思っていた。
要支援で60代の母にとって、平均年齢の高そうな老人ホームでは合わないだろうと考えたからだ。
同居はしない、老人ホームもまだ早い、となるとサ高住なのかな、と言う程度だったが、少し調べてみた。費用はピンキリだけれど、うちから近いサ高住は月額15万円から30万円くらいなようだった。
不安定な母との同居スタートは正直しんどかった。
何を話してもマイナスな内容に向かった。
子供が話しかけても自分の話を止めることなく、不安ばかりが溢れ出てくるようだった。
数日すると、泥棒の話の流れで母の資産の話をするようになった。
「〇〇万円家に置いておいたのに盗まれた」
「通帳などをずっと確認していないからもうなくなっているかもしれない」
「証券を盗まれた」など。
母は、記憶への自信のなさと未来への不安のせいで、ずっとお金の話をしていた。
「生きるのには十分あるのに、何も心配することない。少し盗まれたからって生活に困るわけじゃない。それよりも、ずっと盗まれたことを気に病んでいたらその時間の方が勿体無い!」
一度強く気持ちを伝えた。
幸い、気持ちが伝わった。
そのあと、母の言葉が少しづつポジティブになっていったように思う。
「なんとかなるね」「気にしなくていいね」など、私に気を使っての言葉かもしれない。だけど、母自身が使う言葉は、母にどんどん染み込んでいくだろうと思う。
「泥棒が怖くて家に帰れない」と母が言ってうちに来てから、最初はサ高住を探していたが、途中から通常の賃貸物件でも大丈夫だろうと思えるようになった。
外に出る気持ちも出てきたし、子供の相手や片付けなどを積極的にしてくれるようになった。
夜の眠りは浅いようだったけれど、ずっと起きている様子はなかった。
一人で外に出たがることはなかったし、欲というものがほとんど薄れているようには感じた。
ただ、生活をする上で危なげなところは無かった。
生活リズムさえ整い、こちらに行き来すれば、今の母なら自立した生活を楽しむことができるんではないか。
母も私の家の近くに賃貸を借りることに希望を感じているようだった。
何なら購入でもいいとさえ言い出した。
いい物件があれば購入でもと考えたが、母のこの気分がいつまで続くか、未来は不確かすぎて、賃貸が一番リスクが少ないだろうと私の中で心が決まった。
賃貸探しが始まった。
母に条件を聞くと、
・都心で育ったので、自然よりも商店街の賑やかさが好き
・スーパーが近いところがいい
ということだった。それに加えて
・セキュリティがしっかりしている
・私の家まで自力で来られる
・家の音に敏感なので、鉄骨で作られたアパートかマンション
と言う条件を私が加えた。
なかなか希望通りの賃貸が見つからない中、駅前だけれど少し奥まった場所に賃貸を見つけた。
金額も許容範囲。「いいね」と母からの肯定的な言葉も出た。
これで始めてみよう、と心に決めた。
翌日、申し込みするね、と伝えると案の定母は渋った。
「せっかくこっちに借りるなら、もっと海や山が近い、自然豊かな場所がいい」と。
最初の前提条件も、昨日の好意的な意見も、全て忘れてしまい、ただただ次へ進むこととを拒否しているように感じた。
自然への憧れから「海や山の近く」と言っているのではなく、今の否定。この物件の拒否理由を探しているだけ。
もう、散々悩んだ。次に進まないと。
やっと私の心が決まった。
「まずは住んでみよう。怖いときにはこっちに何泊でもしてもいい。だけど、365日ずっと居られるわけじゃない。こっちの拠点を作らないと」と。
借りるのが嫌なの?と聞くと、今度は
「都内の家をそのままにはしておけない。あっちがあるから、、、、」と。
もう堂々巡り。
今の母に物事を決めさせるには酷なのだと思う反面、では、母の気持ちはどうやって知ればいいのかと悩む。
どれも母の本当の気持ちなのだろうけれど、あまりにあやふやですぐに変わってしまう。
結局は私の思うようにやるしかない。
賃貸について今日の母は納得していないようだった。だけれど、正直、その気持ちだって明日には忘れてしまうだろう。
「いい賃貸物件が見つかったね!」と繰り返し言い続ければ、そう思い込んでくれる可能性もある。
母が「こっちに借りてよかったなぁ」と思えるような生活を、一緒に作り上げていくしかない。
私の優先順位は変わらない。子供と夫が1番。
自分が2番。その次が母。
無理をすることも、周りにさせることもなく、楽しい時間を作り上げていくけ。
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