ハートの丸焦げクッキーの思い出
先日、久しぶりにフランを買いました。
フラン(仏語 Flan)とは、シンプルなカスタード・タルトのことです。フランスのパン屋さんには必ずと言っていいほど置いてあるので、国民的デザートとも言えます。
「フランを2つください」
お店のマダムに伝えると、「よく焼けているのと、そうでもないのとどっちが良いですか?」と聞かれました。
そこで、改めてショーケースに並んでいるフランを見比べると、確かに焼き加減がまったく違います。
私は焦げ目のあるのが好き。でも、フランが大好物の親友は、焦げていないのが好きなので、それぞれ1個ずつ包んでもらいました。
私はよく焼けている、焦げ目のある食べ物が好きなんですよー。そんなことを思いながら、ふと、遠い遠い昔の友達のことを思い出しました。
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中学生の頃、“学年で1番の不良” と呼ばれる子と席が隣になったことがあります。でも、その子にそんな評判があるのは後から知ったこと。
私達は気が合って、仲良くなりました。
私はクラスで1番背が高く、彼女は1番背が低い。
とっても面倒見が良い女の子で、私は何度も助けられました。宿題を写させてもらったり(笑)。
その子は噂で聞くような大人っぽい感じではなく、笑うと急に幼い顔になる、笑顔のかわいい子。確かに、彼女の友達たちは大人びてちょっと怖かったけれど、彼女自身はとても親しみやすかった。どうして彼女が「1番のワル」と評判だったのか、今でもわかりません。少なくとも、いつも宿題をやってきて、私よりもきちんとしていた印象です。
私達が通っていた学校は私立の中高一貫校で、いわゆるお嬢様校でした。
校則が厳しいにも関わらず、髪の色が明るい彼女は(天然と主張していた)、それだけでかなり目立っていたのかもしれません。ただ単純に、先生方から誤解されていただけのような気もしますが、真相はわかりません。
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私達は、席が隣同士の間の短い期間でしたが、交換日記もしていました。
日記は、大人になった私達がシェアをして暮らしている想定で、あれがしたいね、これがしたいね、という物語風の内容だったと記憶しています。彼女の希望で、夜景の見える高層マンションに住んでいる設定。私の希望で、森の中に散歩に行ったり、海でピクニックしているような想定。全然好みが違うので面白かった。
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一回だけ、彼女の家に遊びに行ったことがあります。
部屋でおしゃべりしていると、髪が金髪の眉毛のない女性が入ってきました。
「クッキーを焼いたんだけど、焦げちゃった」
その女性は彼女のお姉さんで、手には焼き立ての手作りクッキーを持っていました。チョコレート味かと見間違うほど丸焦げの、ハートの形のクッキーでした。
前述の通り、私は焦げ好き。嬉々として、全部平らげました。手作りクッキーを焼いてくれるお姉さんがいるのが羨ましいな、と思いながら。
お姉さんはとっても喜んでくれて、すっかり打ち解け、諸事情あって学校を休んでいると教えてくれました。
「それなら、丸焦げクッキーが名物のクッキー屋さんになれば良いのでは?」と私は提案し、みんなで涙を流して笑いました。でも、クッキーはとても美味しくて、その時に本当にそう思ったのです。
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席も離れ離れになり、しばらくたったある日、彼女は学校を辞めることになりました。何が原因だったか覚えていないし、もしかしたら直接聞いていないのかもしれません。
私はとにかく職員室に出向き、「彼女はそんなに悪い子ではありません」と伝えに行ったのだけは覚えています。あと、彼女が「新しい学校のほうが制服がかわいい」と言って笑っていたことも。
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彼女が学校を去った1年後の文化祭。
その子がニコニコ笑顔で遊びに来ました。今は高校を辞めて、設計事務所で働いていると言います。
私はクラスでカフェをしていて、彼女のオーダーを取りに行ったのですが、ポケットにあるはずのペンがなく、彼女に貸してもらいました。その時に貸してくれたシャープペンは、プロが使う製図用のもので…。その時、彼女がとても大人に思えて、「ああ、違う世界に生きているんだな」と思い知ったのです。
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さて、そんなことを思いながら、「そういえば彼女は今、何をやっているんだろう?」と思い、この数週間、SNSで調べていました。全然見つからないので、諦めかけた時…、ついに見つけました!
この笑顔は、絶対あの子。しかも、髪も栗色(おそらく天然なのは本当だった)。人違いでなければ、彼女は立派にお母さんをしていて、1番下の子が成人した時の思いを綴っていました。良いお母さんだな〜♡
久しぶりに会いたいな、でも向こうはどうだろう。
いつかどこかの道端で、もしも偶然バッタリと出会えたら、絶対に声をかけようと決めています。
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